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第97節: 獅子の苛立ち

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

本日より、第五巻『独立への試練』編が、ついにスタートいたします!


第四巻では、アークシティの誕生と、その魂となる『アーク憲章』の制定が描かれました。しかし、彼らが築き上げた、あまりにも輝かしい光は、同時に、濃い影をも呼び寄せます。

文明社会からの、最初の、そして、本格的な、干渉。その脅威に、ケイたちは、どう立ち向かうのか。

それでは、物語の新たな一幕、第九十七話をお楽しみください。

漆黒の騎士、ヴォルフラムがもたらした報告は、ギュンター・フォン・ロックウェル辺境伯の、これまでの人生で、最も不愉快で、そして最も理解し難い物語だった。

彼は、報告の途中で、何度もヴォルフラムを罵倒し、その銀の杯を床に叩きつけた。だが、ヴォルフラムは動じなかった。彼は、ただ、淡々と、自らがその目で見た、ありのままの事実を報告し続けた。

石造りの巨大な城壁。鋼鉄の武具で武装した、亜人の軍隊。そして、おとぎ話の中にしか存在しないはずの、反射炉とスチームハンマー。

その全ての報告が終わった時、ギュンターの執務室は、墓場のような沈黙に包まれた。


「…………」

ギュンターは、無言だった。

彼の、肥えた顔は、怒りを通り越して、蒼白になっている。彼の、支配者としての絶対的な自信とプライドが、根底から揺さぶられていた。

亜人共が、自分よりも優れた都市を築いている?

家畜が、主人よりも進んだ文明を持っている?

それは、彼がこれまで信じてきた、世界の秩序そのものを否定する、冒涜だった。


彼の居城であるロックウェル城は、その名の通り、岩を削り出して作られた無骨な要塞だ。だが、この執務室だけは、彼の権力と富を誇示するかのように、贅を尽くした装飾が施されている。壁には、彼が自ら狩ったという巨大な魔獣の首がいくつも飾られ、床には、東方から取り寄せたという真紅の絨毯が敷き詰められていた。その空間で、ギュンターは、今、これ以上ないほどの苛立ちを覚えていた。


「……ヴォルフラム」

やがて、彼が絞り出したその声は、ひどく嗄れていた。

「……その報告。……一点の曇りも、ないな?」

「御意。……我が騎士の名誉に誓って」

ヴォルフラムの答えは、簡潔だった。その、兜の奥の瞳は、感情を一切映さず、ただ、主の次の命令を待っている。


ギュンターは立ち上がると、窓辺へと歩み寄り、忌々しげに東の空を睨みつけた。あの、呪われた『見捨てられた土地』の、さらに向こう側。そこに今、自分の支配を脅かす、巨大な癌細胞が生まれ、そして増殖し続けている。

もはや、これは、ただの害獣駆除では済まない。

これは、戦争だ。この、東部辺境の支配権を賭けた、全面的な、戦争だ。


(……だが、奴らの戦力は未知数だ。……下手に手を出せば、冬のゴブリン共の二の舞になりかねん……)

彼は、ヴォルフラムの報告の中にあった、もう一つの、気になる情報を反芻していた。

奴らの指導者。銀髪の、青い瞳を持つ、人間の子供。全てを見透かすかのような、あの不気味な瞳。

あれこそが、全ての元凶だ。あの小僧を排除しない限り、この戦争に勝利はない。

ギュンターは、冷徹な現実主義者でもあった。自分の手持ちの兵力だけでは、あの要塞を落とすのは困難かもしれない。ならば、より大きな力を利用するまで。


「……ヴォルフラム」

ギュンターは、決断した。その瞳には、狡猾な獅子の光が宿っている。

「……王都に使者を送れ。……亜人共が、かの地に眠る古代文明の魔導兵器を悪用し、王国に反旗を翻した、と。……辺境の安寧を脅かす、重大な脅威である、と、な。討伐のための、正規軍の派遣を、陛下に、直接、要請しろ。……これは、もはや、我ら辺境軍だけで対処できる問題ではない、と、最大限に、誇張して、伝えよ」


それは、彼のプライドが許さない、屈辱的な決断のようにも見えた。だが、彼は、勝つためには手段を選ばない男だった。王都の、腐敗した貴族どもが、亜人という言葉にどれほど敏感で、そして、古代兵器という言葉にどれほど欲を剥き出しにするかを、彼は熟知していた。


「……御意」

ヴォルフラムは、静かに一礼すると、影の中へと消えていった。

一人残されたギュンターは、ギリ、と歯噛みした。

「……見ていろ、亜人のガキめ……。……貴様のその、砂上の楼閣、我が王国の軍靴で、跡形もなく、踏み潰してくれるわ……」

彼の歪んだ笑みが、暖炉の炎に照らされて、不気味に揺らめいていた。フロンティア村がアークシティへとその名を変え、その威容を世界に示し始めたその時。歴史の巨大な歯車は、確かに、破滅の音を立てて、動き始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

ついに、辺境伯ギュンターが、アークシティへの本格的な軍事介入を決意しました。しかも、王国の正規軍を巻き込もうという、狡猾なやり方で。

彼の報告を受けた、腐敗したリオニス王国の宮廷は、一体、どのような判断を下すのでしょうか。

物語は、いよいよ、国家対国家の、全面戦争へと、その舵を切っていきます。

「面白い!」「ついに、戦争か!」「辺境伯、悪役として最高!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、城壁を、さらに固くします!

次回もどうぞ、お楽しみに。

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