第95節: 法の番人(ガーディアンズ・オブ_アーク)
いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。 皆様の温かい応援に支えられ、アークシティの建設は、着実に、その歩みを、進めております。
前回、ついに、ギュンター辺境伯の斥候が、アークシティの、その常識外れの姿を、目の当たりにしました。 彼らが持ち帰る、衝撃的な報告。それは、獅子の、プライドを、どう、刺激するのか。 今回は、その、報告を、受けた、辺境伯の、決断と、そして、それに、伴い、設立される、アークシティの、新しい、力の、物語。 それでは、第四巻の第十一話となる第九十五話、お楽しみください。
漆黒の騎士、ヴォルフラムが、もたらした報告は、ギュンター・フォン・ロックウェル辺境伯の、これまでの、人生で、最も、不愉快で、そして、最も、理解し難い、物語だった。 彼は、報告の、途中で、何度も、ヴォルフラムを、罵倒し、その、銀の杯を、床に、叩きつけた。 だが、ヴォルフラムは、動じなかった。彼は、ただ、淡々と、自らが、その目で、見た、ありのままの、事実を、報告し続けた。 石造りの、巨大な、城壁。 鋼鉄の、武具で、武装した、亜人の、軍隊。 そして、おとぎ話の中にしか、存在しないはずの、反射炉と、スチームハンマー。 その、全ての、報告が、終わった時。 ギュンターの、執務室は、墓場のような、沈黙に、包まれた。
「…………」 ギュンターは、無言だった。 彼の、肥えた、顔は、怒りを、通り越して、蒼白に、なっている。 彼の、支配者としての、絶対的な、自信と、プライドが、根底から、揺さぶられていた。 亜人共が、自分よりも、優れた、都市を、築いている? 家畜が、主人よりも、進んだ、文明を、持っている? それは、彼が、これまで、信じてきた、世界の、秩序そのものを、否定する、冒涜だった。
「……ヴォルフラム」 やがて、彼が、絞り出した、その声は、ひどく、嗄れていた。 「……その、報告。……一点の、曇りも、ないな?」 「御意。……我が、騎士の、名誉に、誓って」 ヴォルフラムの、答えは、簡潔だった。
ギュンターは、立ち上がると、窓辺へと、歩み寄り、忌々しげに、東の、空を、睨みつけた。 あの、呪われた、森の、向こう側。 そこに、今、自分の、支配を、脅かす、巨大な、癌細胞が、生まれ、そして、増殖し続けている。 もはや、これは、ただの、害獣駆除では、済まない。 これは、戦争だ。 この、東部辺境の、支配権を、賭けた、全面的な、戦争だ。
(……だが、奴らの、戦力は、未知数だ。……下手に、手を出せば、冬の、ゴブリン共の、二の舞に、なりかねん……) 彼は、ヴォルフラムの、報告の中にあった、もう一つの、気になる、情報を、反芻していた。 奴らの、指導者。 銀髪の、青い瞳を持つ、人間の、子供。 全てを、見透かすかのような、あの、不気味な、瞳。 あれこそが、全ての、元凶だ。 あの、小僧を、排除しない限り、この、戦争に、勝利は、ない。
「……ヴォルフ-ラム」 ギュンターは、決断した。 「……王都に、使者を、送れ。……亜人共が、魔導兵器を、用いて、王国に、反旗を、翻した、と。……討伐のための、正規軍の、派遣を、要請しろ。……これは、もはや、我ら、辺境軍だけで、対処できる、問題ではない、と」 それは、彼の、プライドが、許さない、屈辱的な、決断だった。 だが、彼は、勝つためには、手段を、選ばない、冷徹な、現実主義者でも、あった。
「……御意」 ヴォルフラムは、静かに、一礼すると、影の中へと、消えていった。 一人、残された、ギュンターは、ギリ、と、歯噛みした。 「……見ていろ、亜人の、ガキめ……。……貴様の、その、砂上の楼閣、我が、王国の、軍靴で、跡形もなく、踏み潰してくれるわ……」
◆
その頃、アークシティでは。 ケイが、招集した、緊急の、リーダー会議が、開かれていた。 議題は、ただ、一つ。 『リオニス王国との、全面戦争に、備えた、防衛体制の、強化について』。
「――斥候部隊からの、報告通り、敵の、斥候は、撤退した。だが、これは、嵐の前の、静けさに過ぎない。僕の、シミュレーションでは、三ヶ月以内に、辺境伯、ギュンターは、何らかの、大規模な、軍事行動を、起こしてくる。その、確率は、95%以上だ」
ケイの、冷静な、分析に、会議室の、空気が、張り詰める。
「……上等じゃねえか」 ガロウが、その、傷だらけの顔に、獰猛な、笑みを浮かべて、言った。 「ゴブリン共とは、訳が、違う。今度こそ、骨の、ありそうな、相手だ。……腕が、鳴るぜ」 彼の、その、好戦的な、言葉に、他の、狼獣人の、リーダーたちも、次々と、頷いた。
だが、ケイは、静かに、首を、横に振った。 「……ガロウ。君たちの、勇猛さは、我が軍の、宝だ。だが、戦争は、個人の、武勇だけで、勝てるものではない。……僕たちには、新しい、力が必要だ。……都市の、秩序を、守り、そして、法を、執行するための、専門的な、組織が」
彼は、黒板に、新しい、組織図を、描き始めた。 その、頂点に、書かれていたのは、『警備隊』という、三文字だった。
「これより、アークシティ警備隊を、正式に、発足させる。……その、任務は、二つ。……一つは、平時における、都市の、治安維持。犯罪の、取り締まり、紛争の、仲裁、そして、市民の、安全確保だ。……アーク憲章の、番人として、法の、正義を、執行してもらう」 「そして、もう一つ。……有事における、軍隊の、中核としての、役割だ。彼らには、ガロウ率いる、本隊とは、別に、ゲリラ戦や、特殊任務を、専門とする、精鋭部隊として、動いてもらう」
その、構想に、リーダーたちは、息を呑んだ。 警察と、特殊部隊。 その、二つの、機能を、併せ持つ、新しい、組織。
「……そして、その、初代、隊長として、僕が、推薦したい、人物がいる」 ケイの、視線が、会議室の、末席に、静かに、座っていた、一人の、若い、狼獣人へと、向けられた。 その、若者は、驚きに、目を見開き、慌てて、立ち上がった。
「……ハク」 ケイが、静かに、その名を、呼んだ。 斥候部隊の、初代隊長として、目覚ましい、活躍を見せ、そして、何よりも、その、実直で、誠実な、人柄を、ケイが、高く、評価している、若き、英雄。
「……は、はい!
……ですが、大将!
俺のような、若輩者に、そんな、大役は……!」
「君しか、いない」 ケイは、きっぱりと、言った。 「警備隊の、隊長に、求められるのは、個人の、武勇ではない。……法の、精神を、深く、理解し、いかなる時も、冷静に、そして、公平に、それを、執行できる、強い、正義感だ。……そして、その、資質を、君以上に、持つ者を、僕は、知らない」 その、絶対的な、信頼の、言葉。 ハクは、わなわなと、震えながら、その、小さな、リーダーを、見つめていた。
「……ガロウ。……君からも、何か、あるか?」 ケイは、自らの、右腕である、戦士長へと、問いかけた。
ガロウは、腕を組み、ニヤリと、笑った。 「……大将の、言う通りだ。……こいつは、まだ、青臭えが、その、真っ直ぐな、目だけは、本物だ。……俺からも、こいつを、推薦する。……異論は、ねえな、てめえら?」 その、問いに、反論する者は、誰もいなかった。
こうして、アークシティの、法と、秩序の、番人たる、警備隊が、産声を上げた。 そして、その、初代、隊長には、狼獣人、ハクが、全会一致で、任命された。 それは、この都市が、また一つ、真の、国家としての、階段を、上った、瞬間だった。
その、歴史的な、会議が、終わった、後。 ケイは、一人、執務室で、窓の外を、見つめていた。 彼の、脳内では、既に、次なる、プロジェクトが、動き始めていた。 敵は、来る。 ならば、迎え撃つ、だけだ。 最高の、ハードウェア(都市)と、最高の、ソフトウェア(法)、そして、最高の、人材(仲間)。 全ての、準備は、整った。 後は、その、全てを、どう、組み合わせ、そして、どう、運用するのか。 それこそが、プロジェクトマネージャーである、彼に、課せられた、最後の、そして、最大の、仕事だった。 彼の、青い瞳は、遥か、東の、空の、その先に、確かに、迫り来る、戦の、匂いを、見据えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに、辺境伯、ギュンターが、動き出しました。王国の、正規軍を、巻き込んでの、全面戦争。 その、脅威に、対抗すべく、アークシティもまた、その、防衛体制を、新たにし、法を、執行するための、警備隊を、設立しました。 若き、英雄、ハクの、これからの、活躍にも、ご期待ください。
さて、都市の、内側の、守りは、固まりました。 次回は、いよいよ、その、守るべき、魂の、象徴が、形となります。 アーク憲章を、刻んだ、石碑の、建立。 そして、ケイの、口から、語られる、市民社会への、道。 第四巻、クライマックスです。
「面白い!」「警備隊、誕生!」「ハク隊長、頑張れ!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、法を、守る、力となります!
次回もどうぞ、お楽しみに。




