表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/176

第94節: 文明の斥候

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。 皆様の温かい応援に支えられ、アークシティの建設は、着実に、その歩みを、進めております。


前回、ついに、アークシティの最初の住居区画が完成し、住民たちは、文化的な生活という、新しい希望を手にしました。 しかし、その、あまりにも異質で、輝かしい光を、外の世界が見逃すはずがありません。 今回は、ついに、物語の最初の本格的な「敵」となる、ギュンター辺境伯の、文明の斥候が、その姿を現します。 彼らの目に、この、奇跡の都市は、どう映るのか。 それでは、第四巻の第十話となる第九十四話、お楽しみください。

漆黒の闇。 それが、ヴォルフラムが、この『見捨てられた土地』に対して、抱いていた、唯一の、イメージだった。 彼は、主君である、ギュンター・フォン・ロックウェル辺境伯が、最も、信頼する、影。その、漆黒の、プレートメイルに、その身を包み、主の、あらゆる、汚れ仕事を、ただ、黙々と、遂行してきた、騎士だった。 亜人。 彼にとって、その言葉は、獣と、何ら、変わりはなかった。言葉を話すだけの、醜い、獣。あるいは、労働力という名の、道具。そこに、感情を、挟む、余地など、ない。


だから、今回の、任務もまた、彼にとっては、ただの、「害獣駆除の、下見」程度の、認識でしかなかった。 噂の、真偽を、確かめる? 馬鹿馬鹿しい。 亜人共が、街道を、作る?


要塞を、築く?


鋼を、量産する? それは、豚が、空を飛ぶと、いうのと、同じくらい、あり得ない、戯言だ。 おそらく、どこかの、物好きな、貴族が、道楽で、奴隷の、亜人たちに、村の、真似事を、させている。……そんな、ところだろう。 彼は、そう、高を、くくっていた。


彼が率いるのは、辺境伯の、私兵の中でも、特に、隠密行動と、情報収集に、長けた、選りすぐりの、十名。 彼らは、音もなく、闇に、紛れ、古びた、街道を、進んでいた。 そして、彼が、最初の、「違和感」に、気づいたのは、森に、足を踏み入れて、半日が、経過した頃だった。


(……道が、違う) 馬上の、ヴォルフラムは、兜の、奥で、眉をひそめた。 数年前に、一度だけ、この道を、通ったことがある。その時の、記憶では、ここは、ぬかるみと、岩だらけの、荷馬車が、頻繁に、立ち往生するほどの、悪路だったはずだ。 だが、今、彼らが、進んでいる道は、違う。 驚くほど、平坦で、固く、そして、広い。道の、両脇には、正確な、角度で、掘られた、側溝まで、ある。 これは、自然の、道ではない。 明らかに、高度な、土木技術によって、設計され、そして、建設された、「軍用道路」だ。 それも、王都の、街道にも、匹敵する、レベルの。


「……隊長。これは、一体……」 部下の一人が、困惑の、声を上げる。 「……黙れ。……ただ、進め」 ヴォルフラムは、短く、命じた。 彼の、冷静な、騎士としての、仮面の、下に、初めて、焦りという名の、小さな、亀裂が、入っていた。


やがて、彼らは、その道の、先に、信じられない、光景を、目の当たりにする。 森が、開け、その、向こう側に、一つの、巨大な、建造物が、そびえ立っていた。 それは、城壁だった。 彼が、知る、どの、辺境の、砦よりも、高く、そして、分厚い、石造りの、城壁。その、表面は、滑らかに、磨き上げられ、その、上部には、等間隔で、見張り台が、設置されている。 城壁の、手前には、深く、そして、幅の広い、空堀が、穿たれ、その、底には、無数の、鋭い杭が、上を向いている。 これは、もはや、「村」の、防御施設ではない。 これは、一つの、「都市」を守るための、完璧な、要塞だった。


「…………」 ヴォルフ-ラムは、言葉を、失っていた。 彼の、これまでの、全ての、常識が、経験則が、目の前の、圧倒的な、現実の、前に、粉々に、砕け散っていく。 亜人の、村? 冗談では、ない。 これは、自分たちの、主君である、ギュンター辺境伯の、あの、ロックウェル城さえも、凌駕しかねない、規格外の、怪物だ。


彼は、部下に、手信号で、その場に、潜伏を、命じると、自らは、懐から、遠眼鏡を、取り出した。 そして、恐る恐る、その、レンズを、城壁の、内側へと、向けた。 レンズの、向こうに、広がっていたのは、彼の、貧弱な、想像力を、遥かに、超越した、光景だった。


碁盤の目のように、整然と、区画整理された、街並み。 その、道を、行き交う、多種多様な、亜人たち。 彼らの、顔には、奴隷特有の、絶望や、諦観の色は、微塵もなかった。そこにあるのは、自らの、故郷で、平和な、日常を、送る、市民たちの、穏やかな、笑みだけだった。 そして、彼らの、その手に、握られている、道具。 畑を、耕す、その、鍬。 木材を、加工する、その、ノコギリ。 その、全てが、彼が、これまで、見たこともない、黒光りする、鋼で、作られていた。


(……噂は、……真実だったのか……) ヴォルフラムの、背筋を、冷たい、汗が、伝った。 いや、違う。 これは、噂以上の、何かだ。 彼は、遠眼鏡の、焦点を、さらに、奥へと、合わせた。 都市の、北側。 そこには、巨大な、レンガ造りの、建物が、いくつも、立ち並び、その、中の一つから、赤い、炎と、黒い煙が、天高く、立ち上っている。 反射炉。 ドワーフの、伝説の中にしか、存在しないはずの、幻の、炉。 そして、その、隣。 巨大な、水車が、轟音を、立てて、回転し、その、圧倒的な、動力が、巨大な、ハンマーを、持ち上げ、そして、振り下ろしている。 スチームハンマー。 それもまた、おとぎ話の、産物のはずだった。


ヴォルフラムは、もはや、自分が、何を見ているのか、理解できなかった。 これは、現実なのか? それとも、何者かが、見せている、大規模な、幻術なのか?


その、彼の、混乱に、とどめを、刺すかのように。 都市の、中心に、そびえ-立つ、ひときわ、大きな、庁舎の、バルコニーに、一つの、小さな、人影が、現れた。 銀色の、髪。 まだ、十歳にも、満たないであろう、華奢な、身体。 その、人影は、まるで、こちらの、存在に、気づいているかのように、ゆっくりと、顔を上げ、そして、ヴォルフラムが、潜む、この、丘の、茂みを、真っ直ぐに、見つめた。 遠眼鏡の、レンズ越しに、その、瞳と、目が、合った。 青い、瞳。 その、あまりにも、深く、そして、あまりにも、冷たい、青色の、瞳。 その、瞳は、ヴォルフラムに、こう、語りかけているかのようだった。


『――見つけたぞ』、と。


「ひっ……!?」 ヴォルフラムは、声にならない、悲鳴を上げ、遠眼鏡を、取り落とした。 全身の、血が、凍りつく。 見つかった。 こちらの、全てを、見透かされた。 あの、子供は、ただの、子供ではない。 あれこそが、この、狂った、都市の、心臓。 噂の、指導者。 人間の、皮を被った、悪魔だ。


「――退却するッ!!!!」 ヴォルフラムが、喉を、引き裂くような、声で、叫んだ。 「今すぐ、ここを、離れる!


急げ!」


彼の、その、狂乱したような、命令に、部下たちは、戸惑いながらも、即座に、従った。 彼らは、文字通り、這うようにして、その場を、離れ、一目散に、来た道を、引き返していった。 その、哀れな、敗走の、姿を。 アークシティの、庁舎の、バルコニーから、ケイ・フジワラは、ただ、静かに、見下ろしていた。 彼の、隣には、いつの間にか、ガロウと、リリナが、立っていた。


「……行ったか、大将」 「ああ。……ご苦労だったな、リリナ。君の、斥候部隊の、報告がなければ、気づくのが、遅れていた」 「いえ……。それよりも、よろしいのですか?


あんな、小物、私と、ハクだけで、いつでも、首を、刎ねられましたが……」 リリナが、その、金色の瞳に、物騒な、光を、宿らせて、言う。


「いや、いい」 ケイは、静かに、首を、横に振った。 「彼らには、役割がある。……僕たちの、この、都市の、本当の、姿を、彼らの、主君に、ありのままに、伝える、という、重要な、役割がな」


彼の、青い瞳は、斥候たちが、消えていった、東の、空の、遥か、彼方を、見据えていた。 そこには、この、大陸の、もう一つの、巨大な、権力。 リオニス王国の、獅子の、紋章が、ある。 「……さあ、これで、駒は、全て、揃った」 ケイは、静かに、呟いた。 「始めようか。……僕たちの、本当の、『独立戦争』を」


フロンティア村が、アークシティへと、その、名を変え、その、威容を、世界に、示し始めた、その時。 歴史の、巨大な、歯車が、確かに、音を立てて、動き始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに、リオニス王国の、斥候が、アークシティの、その、常識外れの、姿を、目の当たりにしました。 彼らが、持ち帰る、その、衝撃的な、報告は、ギュンター辺境伯を、そして、リオニス王国を、どう、動かすのでしょうか。 そして、ケイの、その、不敵な、宣戦布告。 物語は、いよいよ、第四巻の、クライマックス、『独立への試練』へと、突入します。


「面白い!」「斥候たちの、絶望っぷり、最高!」「独立戦争、楽しみ!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、最初の、防衛ラインとなります!


次回もどうぞ、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ