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第77節: アークシティの幻影

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

皆様の温かい応援に支えられ、フロンティア村は、新たな、そして、あまりにも壮大な挑戦のスタートラインに立ちました。


前回、ケイは、村が抱える深刻な『成長の痛み』を解決するための、唯一無二の方法として、この村を解体し、新たに持続可能な『都市』を創造するという、あまりにも壮大な計画を提示しました。その、狂気とも思えるビジョンを前に、村人たちは戸惑い、そして沈黙しました。


今回は、その沈黙を打ち破る、ケイの最後の一手。

彼のユニークスキル【ワールド・アーキテクト】の真価が、今、このフロンティア村の全ての住民たちの前に、解き放たれます。

それでは、第四巻の第五話となる第七十七話、お楽しみください。

「――君たちは、僕と、共に、その、夢の、都市を、創る、覚悟が、あるか?」


ケイの、魂に直接問いかけるかのような言葉は、春の穏やかな陽光を浴びるフロンタィア村の中央広場を、荘厳なまでの静寂で満たした。二百人を超える住民たちは、誰もが言葉を失い、ただ、目の前の、小さなリーダーの、その、あまりにも大きな覚悟を、呆然と受け止めることしかできなかった。


都市を、創る。

その言葉の持つ響きは、彼らがこれまでの人生で経験してきた、どの現実とも、かけ離れていた。彼らは、人間から、社会から、そして時には同族からさえも追われ、この『見捨てられた土地』で、ただ息を潜めて生きることだけを考えてきた。日々の食料に怯え、夜の魔物に震える。それが、彼らの世界の、全てだった。

だが、目の前の少年は、その全てを、塗り替えようとしている。

単なる生存ではない。文化的な、そして、誇り高い「生活」を、自分たちの手で、ゼロから創造しようというのだ。

その、あまりにも眩しい理想に、彼らの心は、期待と、そして同じくらいの、未知への恐怖に、激しく揺さぶられていた。


「……言葉だけでは、イメージが、湧かないようだな」


その、張り詰めた沈黙を破ったのは、ケイの、どこか楽しげでさえある、呟きだった。

彼は、集まった仲間たちの、その、不安げな表情を見渡し、不敵に微笑んだ。

「……ならば、見せてやろう。……僕が、君たちと、共に、創り上げたい、未来の、その、具体的な、『形』を」


彼は、その場で、静かに、目を閉じた。

そして、彼の、ユニークスキル【ワールド・アーキテクト】の、全ての権能を、解放した。


「――【ワールド・アーキテクト】、権能解放アンロック


瞬間。ケイの小さな身体から、蒼い光の粒子が、オーラのように立ち上った。それは、ルナリアやエリアーデが扱う、自然界の魔素とは全く異質の、世界の理そのものに干渉する、設計者の魂の輝き。広場にいた全ての者たちが、その、あまりにも神々しい光景に、息を呑んだ。


「《システム・インテグレーション》、および、《クリエイト・マテリアル》、同時起動」


ケイの両の手が、ゆっくりと、天に掲げられる。

彼の脳内では、この数日間、彼が寝る間も惜しんで設計を続けてきた、一つの完璧な三次元の設計データが、起動ブートされようとしていた。


プロジェクト名:『アークシティ』

それは、彼が、前世の全ての知識と、この世界で得た全ての経験を注ぎ込んで創り上げた、究極の理想都市の設計図。


「――投影プロジェクション、開始!」


ケイの宣言と同時に、彼の掲げられた両の手のひらの間から、蒼い光の奔流が迸った。その光は、広場の中央、何もない空間へと集束し、そして、まるで粘土をこねるかのように、一つの「形」を作り上げていく。


それは、光の彫刻だった。

最初は、ただのぼんやりとした光の塊。だが、それは、徐々にその輪郭を明確にしていく。線が引かれ、面が張られ、そして、立体的な構造物が、目の前でリアルタイムに構築されていく。その、あまりにも幻想的で、そしてあまりにも常識外れの光景。村人たちは、声も出せずに、ただ瞬きさえも忘れて、その奇跡の顕現を見つめていた。


やがて、その光の彫刻は、その完璧な全貌を現した。


そこにあったのは、もはや「村」ではなかった。

それは、紛れもない「都市」だった。


高さ十メートルを超える、堅固な石造りの外壁が、都市全体を円形に完璧に守っている。その内側には、碁盤の目のように整然と区画整理された、美しい街並みが広がっていた。

北側には、ドゥーリンの反射炉を中心とした、機能的な工業区画。そこから立ち上る煙は、高い煙突を通って、都市の遥か上空へと流れていくように設計されている。

東側には、様々な種族がそれぞれの文化を尊重しながら暮らすための、多様なデザインの住居区画が並んでいる。それぞれの家には小さな庭があり、そこには色とりどりの花が咲き乱れている。

南側には、やて大陸中の商人が集うことになるであろう、広大な商業区画。そこには活気に満ちた市場マーケットや、旅人たちのための宿屋が軒を連ねている。


そして、その都市の中心。

そこには、今、彼らが立っている、この庁舎よりも、さらに大きく、そして美しい、白亜の議事堂がそびえ立っている。その議事堂の前には、全ての市民の憩いの場となるであろう、緑豊かな中央公園が広がっていた。


その、息を呑むほどに美しい、未来の光景。

二百人を超える、亜人たちの瞳が、その、光の幻影に、釘付けになっていた。

彼らの、乾ききっていた心に、希望という名の、温かい雨が、降り注いでいく。

自分たちが、これから創り上げる、故郷の姿。

自分たちの、子供たちが、孫たちが、笑いながら、駆け回るであろう、未来の街並み。


「…………あ……」


誰かが、か細い、声にならない声を漏らした。

それは、感嘆でも、驚愕でもない。

ただ、あまりにも美しく、そして、あまりにも完璧な、未来の光景を前にした、魂の震えだった。


「――これが、僕たちが、これから、創る、都市。『アークシティ』の、全貌だ」


ケイの、静かな声が、夢見心地の彼らの意識を、現実へと引き戻した。

「アーク。……僕がいた世界の言葉で、『箱舟』、あるいは、『聖櫃』を意味する言葉だ」


彼は、その光り輝く未来都市の幻影を背景に、全ての仲間たちへと語りかけた。

「この都市は、僕たちの理想を未来へと運ぶ、箱舟となる。この理不尽な世界の中で、僕たちの尊厳を守る、最後の砦となる。……そして、何よりも、この都市そのものが、僕たちの理想が、決して絵空事ではないという、動かぬ証拠あかしとなるんだ」


彼は、ゆっくりとその小さな両の手を下ろした。

すると、彼の目の前に浮かんでいた光の都市は、まるで雪が溶けるかのように、静かに光の粒子となって、空へと消えていった。

後に残されたのは、いつものフロンティア村の広場と、そして、その幻影を目の当たりにして、未だ立ち尽くしたままの、二百人を超える仲間たちの姿だった。


だが、彼らの瞳に宿る光は、もう以前とは全く違っていた。

そこには、もう不安も戸惑いもなかった。

そこにあるのは、自分たちがこれから何を成すべきかを完全に理解し、そして、そのあまりにも壮大で、そしてあまりにも輝かしい未来の創造に、自らの魂の全てを捧げることを決意した、開拓者たちの、燃えるような決意の光だけだった。


その静寂を最初に破ったのは、一人の無骨な職人の、しゃがれた、しかし歓喜に打ち震える声だった。


「……くくっ。……くはははは!


……やってくれるじゃねえか、小僧ッ!」

ドゥーリン・ストーンハンマーが、その白い髭を震わせ、腹の底から笑っていた。

彼の瞳は、先ほどの光の幻影の中に、自分自身がこれから挑むべき、数々の挑戦――巨大な城壁の設計、上下水道の敷設、そして、見たこともない建物の建築――を見出し、職人としての魂が、歓喜に打ち震えていたのだ。


その、魂の快哉が、起爆剤となった。

次の瞬間、広場は、これまでのどの歓声とも比較にならない、地鳴りのような熱狂の渦に包まれた。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


それは、もはやただの歓声ではなかった。

それは、一つの偉大な歴史の始まりを告げる、産声の咆哮だった。


ケイは、その熱狂の渦の中心で、静かに微笑んでいた。

彼のプロジェクトは、今、確かに全てのステークホルダーの、完全な合意コンセンサスを得た。


『アークシティ建設計画』。

後にこの大陸の全ての都市の礎となる、伝説のプロジェクトが、今、この見捨てられた土地の片隅で、静かに、しかし、確かに、その最初の杭を打ち込んだ瞬間だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに、ケイの頭の中にあった未来都市の青写真が、そのベールを脱ぎました。

光で描かれた、あまりにも美しく、そして完璧な理想郷。その圧倒的なビジョンを前に、村人たちの心は、完全に一つになりました。

これにて、第19章『成長の痛み』は完結となります。


次回より、物語はいよいよ、第20章『青写真』へと突入します。

壮大な都市建設プロジェクトが、ついに始動。今回は、その未来都市の、さらに詳細な機能と、住民たちに衝撃を与える、ある「革命的なシステム」について、語られます。


「面白い!」「アークシティ、凄すぎる!」「都市建設、楽しみ!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、最初の礎石となります!


次回もどうぞ、お楽しみに。

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