第76節:アークシティ建設計画(グランドデザイン)
いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。
皆様の温かい応援に支えられ、フロンティア村は、新たな、そして、あまりにも壮大な、挑戦の、スタートラインに立ちました。
前回、ケイは、村が抱える、深刻な『成長の痛み』を、解決するための、唯一無二の、方法を、提示しました。
それは、この村を、解体し、新たに、持続可能な『都市』を、創造するという、あまりにも、壮大な、計画。
その、狂気とも思える、ビジョンを前に、村人たちは、戸惑い、そして、沈黙しました。
今回は、その、沈黙を、打ち破る、ケイの、最後の一手。
彼の、ユニークスキル【ワールド・アーキテクト】の、真価が、今、この、フロンティア村の、全ての、住民たちの前に、解き放たれます。
それでは、第四巻の第四話となる第七十六話、お楽しみください。
「――君たちは、僕と、共に、その、夢の、都市を、創る、覚悟が、あるか?」
ケイの、魂の問いかけは、春の、穏やかな陽光の下で、フロンティア村の、二百人を超える、住民たちの心に、重く、そして、深く、突き刺さった。
広場は、沈黙に、支配されていた。
だが、それは、絶望の、沈黙ではない。
それは、自らの、器の、大きさを、問われている、個々の、魂が、発する、厳粛な、静寂だった。
都市を、創る。
その、言葉の、持つ、あまりにも、壮大な、響き。
彼らは、その、意味を、まだ、完全には、理解できていなかった。
自分たちは、ただ、人間から逃れ、この、見捨てられた土地で、静かに、暮らしていければ、それで、よかったはずだ。
だが、目の前の、この、小さなリーダーは、そんな、ささやかな、願いさえも、遥かに、飛び越えて、行こうとしている。
自分たちを、一体、どこへ、連れて行こうというのか。
その、期待と、そして、同じくらいの、不安が、彼らの、心を、揺さぶっていた。
その、揺らぎを、見透かしたかのように。
ケイは、静かに、一歩、前に出た。
そして、彼は、不敵に、微笑んだ。
「……言葉だけでは、イメージが、湧かないようだな」
彼の、その、子供っぽい、しかし、絶対的な、自信に満ちた、呟き。
「……ならば、見せてやろう。……僕が、君たちと、共に、創り上げたい、未来の、その、具体的な、『形』を」
彼は、その場で、静かに、目を閉じた。
そして、彼の、ユニークスキルの、全ての権能を、解放した。
「――【ワールド・アーキテクト】、権能解放」
彼の、小さな身体から、蒼い、光の粒子が、オーラのように、立ち上る。
それは、魔力ではない。
世界の、理そのものに、干渉する、設計者の、魂の輝き。
広場にいた、全ての者たちが、その、あまりにも、神々しい、光景に、息を呑んだ。
「《システム・インテグレーション》、および、《クリエイト・マテリアル》、同時起動」
ケイの、両の手が、ゆっくりと、天に、掲げられる。
彼の、脳内では、この、数日間、彼が、寝る間も惜しんで、設計を続けてきた、一つの、完璧な、三次元の、設計データが、起動されようとしていた。
プロジェクト名:『アークシティ』
それは、彼が、前世の、全ての、知識と、この世界で、得た、全ての、経験を、注ぎ込んで、創り上げた、究極の、理想都市の、設計図。
「――投影、開始!」
ケイの、その、宣言と、同時に。
彼の、掲げられた、両の手のひらの、間から、蒼い、光の奔流が、迸った。
その光は、広場の、中央の、何もない、空間へと、集束し、そして、まるで、粘土を、こねるかのように、一つの、「形」を、作り上げていく。
それは、光の、彫刻だった。
最初は、ただの、ぼんやりとした、光の塊。
だが、それは、徐々に、その、輪郭を、明確にしていく。
線が、引かれ、面が、張られ、そして、立体的な、構造物が、目の前で、リアルタイムに、構築されていく。
その、あまりにも、幻想的で、そして、あまりにも、常識外れの、光景。
村人たちは、声も、出せずに、ただ、瞬きさえも、忘れて、その、奇跡の、顕現を、見つめていた。
やがて、その、光の彫刻は、その、完璧な、全貌を、現した。
そこにあったのは、もはや、「村」ではなかった。
それは、紛れもない、「都市」だった。
高さ、十メートルを超える、堅固な、石造りの、外壁が、都市全体を、円形に、完璧に、守っている。
その、内側には、碁盤の目のように、整然と、区画整理された、美しい、街並みが、広がっていた。
北側には、ドゥーリンの、反射炉を、中心とした、機能的な、工業区画。そこから、立ち上る、煙は、高い、高い、煙突を通って、都市の、遥か、上空へと、流れていくように、設計されている。
東側には、様々な、種族が、それぞれの、文化を、尊重しながら、暮らすための、多様な、デザインの、住居区画が、並んでいる。それぞれの家には、小さな、庭があり、そこには、色とりどりの、花が、咲き乱れている。
南側には、やがて、大陸中の、商人が、集うことになるであろう、広大な、商業区画。そこには、活気に満ちた、市場や、旅人たちのための、宿屋が、軒を連ねている。
そして、その、都市の、中心。
そこには、今、彼らが、立っている、この、庁舎よりも、さらに、大きく、そして、美しい、白亜の、議事堂が、そびえ立っている。その、議事堂の前には、全ての、市民の、憩いの場となるであろう、緑豊かな、中央公園が、広がっていた。
だが、村人たちを、最も、驚愕させたのは、その、目に見える、建物の、美しさではなかった。
ケイが、その、光の模型の、一部を、半透明に、してみせた、瞬間。
彼らは、その、都市の、地下に、張り巡らされた、驚くべき、システムを、目の当たりにしたのだ。
都市の、外を流れる、大河から、引き込まれた、清らかな水。それが、太い、太い、水道管を通って、都市の、隅々の、家々にまで、届けられている。
そして、それぞれの家から、排出された、汚れた水は、別の、下水道管を通って、一箇所に、集められ、そこで、浄化され、そして、再び、川へと、戻されていく。
『上下水道システム』。
その、あまりにも、先進的で、そして、あまりにも、衛生的な、概念。
特に、それぞれの家に、備え付けられた、ボタン一つで、汚物を、水と共に、流し去る、「水洗トイレ」という、魔法の、装置の、存在は、彼らの、これまでの、生活の、常識を、根底から、覆す、衝撃だった。
「…………あ……」
誰かが、か細い、声にならない、声を、漏らした。
それは、感嘆でも、驚愕でもない。
ただ、あまりにも、美しく、そして、あまりにも、完璧な、未来の、光景を前にした、魂の、震えだった。
「――これが、僕たちが、これから、創る、都市。『アークシティ』の、全貌だ」
ケイの、静かな、声が、夢見心地の、彼らの、意識を、現実へと、引き戻した。
「アーク。……僕が、いた世界の言葉で、『箱舟』、あるいは、『聖櫃』を、意味する、言葉だ」
彼は、その、光り輝く、未来都市の、幻影を、背景に、全ての、仲間たちへと、語りかけた。
「この、都市は、僕たちの、理想を、未来へと、運ぶ、箱舟となる。この、理不尽な、世界の中で、僕たちの、尊厳を、守る、最後の、砦となる。……そして、何よりも、この、都市そのものが、僕たちの、理想が、決して、絵空事ではないという、動かぬ、証拠となるんだ」
彼は、ゆっくりと、その、小さな、両の手を、下ろした。
すると、彼の、目の前に、浮かんでいた、光の都市は、まるで、雪が、溶けるかのように、静かに、光の粒子となって、空へと、消えていった。
後に、残されたのは、いつもの、フロンティア村の、広場と、そして、その、幻影を、目の当たりにして、未だ、立ち尽くしたままの、二百人を超える、仲間たちの、姿だった。
だが、彼らの、瞳に宿る、光は、もう、以前とは、全く、違っていた。
そこには、もう、不安も、戸惑いも、なかった。
そこにあるのは、自分たちが、これから、何を、成すべきかを、完全に、理解し、そして、その、あまりにも、壮大で、そして、あまりにも、輝かしい、未来の、創造に、自らの、魂の、全てを、捧げることを、決意した、開拓者たちの、燃えるような、決意の、光だけだった。
その、静寂を、最初に、破ったのは、一人の、無骨な、職人の、しゃがれた、しかし、歓喜に、打ち震える、声だった。
「……くくっ。……くはははは!
……やってくれるじゃねえか、小僧ッ!」
ドゥーリン・ストーンハンマーが、その、白い髭を、震わせ、腹の底から、笑っていた。
「上下水道、だと?
水洗トイレ、だと?
……狂ってやがる!
だが、最高だ!
これほどの、神の領域の、仕事!
この、わしに、やらせずして、誰に、やらせるというのだ!」
その、魂の、快哉が、起爆剤となった。
次の瞬間、広場は、これまでの、どの、歓声とも、比較にならない、地鳴りのような、熱狂の、渦に、包まれた。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」
それは、もはや、ただの、歓声ではなかった。
それは、一つの、偉大な、歴史の、始まりを告げる、産声の、咆哮だった。
ケイは、その、熱狂の、渦の中心で、静かに、微笑んでいた。
彼の、プロジェクトは、今、確かに、全ての、ステークホルダーの、完全な、合意を、得た。
『アークシティ建設計画』。
後に、この大陸の、全ての、都市の、礎となる、伝説の、プロジェクトが、今、この、見捨てられた土地の、片隅で、静かに、しかし、確かに、その、最初の、杭を、打ち込んだ、瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに、ケイの、頭の中にあった、未来都市の、青写真が、その、ベールを脱ぎました。
光で、描かれた、あまりにも、美しく、そして、完璧な、理想郷。その、圧倒的な、ビジョンを前に、村人たちの心は、完全に、一つになりました。
これにて、第19章『成長の痛み』は、完結となります。
次回より、物語は、いよいよ、第20章『青写真』へと、突入します。
壮大な、都市建設プロジェクトが、ついに、始動。その、最初の、一歩とは。
ケイの、ユニークスキルが、今、この、大地そのものを、相手に、その、真価を、発揮します。
「面白い!」「アークシティ、凄すぎる!」「都市建設、楽しみ!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、最初の、礎石となります!
次回もどうぞ、お楽しみに。




