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第59節:魔力の奔流(マナ・ストリーム):種族を越えた共同作業

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。皆様からのブックマーク、評価、そして温かい感想の一つ一つが、この物語を紡ぐ大きな力になっております。


前回、ケイ、ルナリア、そしてエルフのエリアーデ。三人の天才がその知識を結集させ、ついに森を蝕む病の根源、古代文明の遺した暴走する魔力蓄積装置を発見しました。絶望的な状況を前に、ケイは自らのユニークスキルの第三権能、《システム・インテグレーション》を解放します。


しかし、その神業を実行するには、あまりにも膨大なエネルギーが必要でした。残された時間は刻一刻と迫ります。今回は、種族間の憎しみという、千年の壁を越えるための、最初の共同作業が描かれます。どうぞ、その奇跡の瞬間をお楽しみください。

「第三権能、解放アンロック。――《システム・インテグレーション》、起動!」


ケイの宣言と共に、彼の小さな身体から迸った蒼い閃光は、古代の遺物が放つ禍々しい紫色の瘴気を、一瞬だけ押し返した。洞窟の最深部は、二つの、相反する性質を持つ光がぶつかり合う、神々の戦場のような光景と化していた。


だが、その均衡は、あまりにも脆く、そして儚かった。

ケイの身体を包む蒼い光は、暴走する装置が無限に吸収し続ける、森全体の魔力に比べれば、あまりにも、か細い。それは、巨大なダムの決壊を、たった一本の杭で支えようとするような、無謀な試みだった。


「……ぐっ……!」


ケイの顔が、苦痛に歪んだ。彼の脳内では、神の領域の権能が、古代の暴走システムへと、ハッキングを仕掛けていた。暴走する魔力蓄積装置の、複雑怪奇な術式構造を解析し、その制御権を奪うための、上位のコマンドを、リアルタイムで構築していく。それは、前世の、いかなるデバッグ作業とも比較にならない、精神を焼き切るような、超高負荷のプロセスだった。

だが、その、神の如きソフトウェアを動かすための、ハードウェア――ケイ自身の魔力リソースが、絶対的に不足していた。


(……ダメだ。魔力が、足りなすぎる……!)


彼の《アナライズ》が、無慈悲なシステムアラートを、脳内に表示する。

『警告:術式構築に必要な魔力が、現在保有量の1200%を超過しています。このままでは、約三分後に、術者の精神が、過負荷により崩壊クラッシュします』


三分。

それが、彼に残された、命の時間だった。


「ケイ!」

「大将!」


ルナリアと、入り口で待機していたガロウの、悲痛な叫びが聞こえる。だが、ケイは、それに答えることさえできない。意識の、ほんの僅かでも、逸らせば、暴走する古代の魔力が、彼の精神を、根こそぎ喰らい尽くすだろう。


その、絶望的な光景を、ただ一人、異なる視点から見つめている者がいた。

エルフの精霊術師、エリアーデ・ウィンドソング。

彼女の、翡翠のような瞳には、恐怖や、絶望ではない。目の前で起きている、超常的な現象の、その本質を、見極めようとする、専門家としての、冷徹な光が宿っていた。


彼女は、見ていた。ケイの身体から放たれる、蒼い光。それが、ただの魔力ではないことを。それは、この森の、淀んだ魔素とは、全く異質の、どこまでも、純粋で、そして、秩序だった、「設計者の魔力」であることを。

そして、彼女は、理解した。

ケイが、今、やろうとしていること。それは、破壊ではない。「再構築」だ。暴走するシステムを、力でねじ伏せるのではなく、その、根本的な構造に、介入し、正常な状態へと、書き換えようとしているのだ。

その、あまりにも、高度で、そして、あまりにも、創造的な、神の領域の所業。


そして、彼女は、悟った。

この、神業を、成し遂げるために、何が、足りないのかを。

――純粋な、エネルギー。圧倒的な、魔力の、供給量。


(……このままでは、彼が、死ぬ)


その、直感的な、しかし、絶対的な確信。

それが、彼女の、心の奥底にあった、最後の、躊躇いを、完全に、打ち砕いた。

目の前にいるのは、憎むべき、人間の子供。

だが、それ以上に、この、死にゆく森を救える、唯一の、可能性。

彼女は、どちらを、選ぶべきか。

答えは、最初から、決まっていた。


「――森の、同胞たちよ!」


エリアーデの、凛とした声が、彼女が身につけていた、葉笛のような、魔道具を通して、森全体へと、響き渡った。それは、ただの声ではない。精霊の力を乗せた、エルフ同士にしか聞こえない、魂の通信テレパシーだった。


『――エリアーデ!? お前、無事だったのか!』

『長老の命令を、どうするつもりだ!』


仲間たちの、困惑と、非難の声が、彼女の脳内に、響き渡る。

だが、彼女は、構わずに、叫んだ。


「長老の命令よりも、優先すべき、事態が発生しました! 人間が言っていたことは、全て、真実でした! この森は、今、まさに、滅びの、瀬戸際にあります!」


彼女は、自分たちが、この洞窟で見た、全ての光景を、古代の遺物の、その、禍々しい姿を、ありのままに、仲間たちへと、伝えた。

そして、今、目の前で、たった一人、その、絶望的な脅威に、立ち向かっている、人間の少年がいることを。


「彼は、森を、救おうとしています! ですが、彼一人の力では、足りません! この森を、愛する、全ての、同胞たちの、力が必要です!」


彼女の、魂からの、叫び。

だが、仲間たちの反応は、鈍かった。

『……人間を、信じろ、と?』

『……罠かもしれん』

千年の、長きにわたって、彼らの心に、深く、根を張ってきた、人間への不信感。それは、これしきの言葉で、揺らぐほど、浅いものではなかった。


「……時間がない!」


エリアーデは、唇を、強く、噛み締めた。

そして、彼女は、最後の、手段に、出た。

彼女は、再び、その場に、膝をつくと、目を閉じ、意識を、自らの、魂の、最も、深い場所へと、沈めていった。

そして、彼女は、歌った。

それは、言葉のない、歌。

ただ、純粋な、想いだけを、乗せた、魂の、旋律。

この森を、愛する、想い。精霊たちと、共に生きたいという、願い。そして、失われゆく、故郷への、深い、深い、悲しみの、歌。

それは、エルフにしか、歌うことのできない、精霊たちとの、対話の歌、『精霊のエレメント・ソング』だった。


その、あまりにも、清らかで、そして、あまりにも、悲痛な、旋律が、森全体へと、響き渡った、瞬間。

森が、応えた。

ざわ、ざわ、と、全ての木々が、一斉に、葉を、震わせる。

それは、森そのものが、エリアーデの、悲しみに、共感し、そして、共に、嘆いているかのようだった。


その、森の、明確な、意志を、感じ取って。

エルフたちの、頑なだった心が、ついに、揺らいだ。

彼らは、人間を、信じられない。

だが、森が、精霊たちが、これほどまでに、悲しんでいる、という、事実は、信じないわけには、いかなかった。


『……エリアーデ。……どうすれば、いい』


仲間の一人から、ようやく、その言葉が、返ってきた。


「――魔力を!」

エリアーデは、カッと、目を見開いて、叫んだ。

「あなたたちの、魔力を、私に、集めてください! 私が、それを、束ねて、彼へと、届けます! この森を、救うための、ただ一つの、希望へと!」


彼女は、両の手を、天へと、掲げた。

彼女の身体から、再び、淡い、緑色の、光が、溢れ出す。

それは、森の中にいる、全ての、同胞たちの、魔力を受け止めるための、巨大な、レセプターだった。


森の、各地で。

監視任務についていた、エルフたちが、一人、また一人と、弓を、下ろし、目を閉じ、そして、祈りを、捧げ始めた。

彼らの身体から、それぞれの、魂の色を、宿した、様々な、輝きの、魔力の光が、立ち上る。

その、無数の、光の筋は、まるで、一つの、巨大な、磁石に、引き寄せられるかのように、エリアーデの元へと、集束していく。

緑、青、黄色、白。

様々な、色の、魔力の奔流が、エリアーデが、天に掲げた、両の手のひらの上で、渦を巻き、やがて、一つの、巨大な、虹色の、光の、球体へと、姿を変えていった。


「……すごい……」

その、あまりにも、幻想的で、そして、神々しい光景に、ルナリアは、息を呑んだ。

入り口で、洞窟の内部を、固唾を飲んで見守っていたガロウもまた、その、圧倒的な、エネルギーの奔流に、ただ、呆然と、立ち尽くしていた。


「――今です! ケイ!」


エリアーデの、絶叫が、響き渡る。

彼女は、その、虹色の、光の球体を、自らの、全身全霊の、意志の力をもって、苦悶の表情を浮かべる、ケイの、その、小さな背中へと、撃ち放った。


「――受け取りなさいッ! 我ら、森の民の、魂をッ!!!!」


虹色の、魔力の奔流が、ケイの身体へと、激突する。

だが、それは、破壊の力ではない。

創造の、力。再生の、力。

ケイの、枯渇しかけていた、魔力リソースが、その、外部からの、無限とも思える、エネルギー供給によって、爆発的に、増大していく。


「……う……おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


ケイの、口から、初めて、苦痛ではない、歓喜の、雄叫びが、迸った。

彼の身体から、溢れ出す、蒼い光が、それまでの、か細い輝きとは、比較にならないほどの、巨大な、そして、力強い、光の柱となって、天を、衝いた。

彼の脳内で、停止しかけていた、術式の構築プロセスが、再起動する。

いや、再起動どころではない。何百倍もの、速度で、加速していく。


暴走する、古代の、システム。

それに、対抗する、異世界の、アーキテクトの、神業。

そして、その、二つの、巨大な力を、繋ぎ、支える、森の民の、千年の、想い。


種族も、思想も、生まれた世界さえも、違う、三つの、力が、今、この、古代の洞窟の、最深部で、確かに、一つになった。

それは、この大陸の、歴史上、誰も、成し遂げたことのない、種族の垣根を越えた、最初の、そして、最も、偉大な、共同作業の、始まりだった。

奇跡は、今、まさに、起ころうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


絶望的な状況の中、エリアーデの、魂の叫びが、頑なだった、エルフたちの心を、動かしました。そして、種族を越えた、彼らの想いが、ケイへと、託されました。

まさに、胸が熱くなる、展開でしたね。


しかし、膨大な魔力を手に入れたからといって、暴走する、古代の遺物を、制御できるとは、限りません。

次回、ついに、ケイの《システム・インテグレーション》が、その、真の力を、発揮します。


「面白い!」「エリアーデ、かっこいい!」「種族を越えた共闘、熱い!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、虹色の、魔力の奔流を、さらに、力強くします!


次回もどうぞ、お楽しみに。

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