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第58節:汚染源(ルート・コーズ):古代文明の負債

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

皆様の温かい応援に支えられ、物語は第三巻、新たな仲間との出会いを求める章へと進んでおります。


前回、ケイ、ルナリア、そしてエルフのエリアーデ。三人の天才がその知識を結集させ、ついに森を蝕む病の根源を特定しました。しかし、原因が分かったからといって、問題が解決したわけではありません。


今回は、ついに汚染の源へとたどり着きます。そこで彼らが見たものは、古代の、そして恐るべき遺物でした。絶望的な状況を前に、ケイのユニークスキルの、まだ見ぬ権能が、ついにそのベールを脱ぎます。

それでは、物語が大きく動き出す第五十八話、どうぞお楽しみください。

「――これより、我々は、この森の、バグの、根源を、完全に、『駆除』する」


ケイの、静かな、しかし、絶対的な自信に満ちた宣告は、三人のスペシャリストからなる即席のデバッグチームに、明確な行動指針を与えた。

目的地は、北へ三キロ。古い洞窟の、奥深く。

残された時間は、二十四時間を、切っている。


「行くぞ!」

ガロウの野太い号令を合図に、一行は、森の深部へと、その歩みを進めた。

先頭を行くのは、ガロウ。その巨大な身体と、研ぎ澄まされた野生の勘が、物理的な脅威からチームを守る、最高の盾となる。

その後ろに、ケイ、ルナリア、そしてエリアーデが続く。三人は、歩きながらも、絶えず情報を交換し、これから遭遇するであろう、未知の脅威に対する、シミュレーションを、脳内で繰り返していた。


「……ケイ。あなたの言う、『高密度のエネルギー汚染』とは、一体、何なのですか?」

ルナリアが、専門家としての、純粋な知的好奇心から、問いかけた。その真紅の瞳には、未知の病理に対する、恐れよりも、探究心の色が、強く浮かんでいる。


「僕がいた世界の言葉で言えば、『放射能汚染』に、近いかもしれないな」

ケイは、前世の知識を、この世界の住人にも理解できる言葉へと、翻訳しながら、説明した。

「目に見えず、匂いもなく、しかし、生物の、細胞の、最も深い部分を、内側から破壊する、見えざる毒。それは、通常の毒のように、薬で中和することは、極めて困難だ。なぜなら、汚染源そのものが、絶えず、毒を、放出し続けているからだ」


「……そんな、恐ろしいものが……」

ルナリアが、息を呑む。


「だが、どんな毒にも、必ず、発生源がある。そして、どんなシステムにも、必ず、停止させるための、コマンドが存在するはずだ。僕たちの仕事は、それを見つけ出し、実行すること。……ただ、それだけだ」


彼の、どこまでも、システムエンジニアらしい、思考回路。

その、ブレない、絶対的な自信が、ルナリアと、そして、その後ろで、黙って会話を聞いていたエリアーデの、心に、不思議なほどの、安心感を、与えていた。


森は、進むにつれて、その、おぞましい貌を、露わにしていった。

木々は、ねじ曲がり、その幹には、まるで、苦悶の表情のような、不気味な瘤が、いくつも浮き出ている。地面に生える苔は、どす黒く変色し、踏みつけると、ヘドロのような、悪臭を放った。

そして、何よりも、異常なのは、生命の気配が、完全に、消え失せていることだった。鳥の声も、虫の音も、一切しない。ただ、不気味な、死の静寂だけが、森を支配していた。


「……ひどい。精霊たちの声が、もう、ほとんど、聞こえない……」

エリアーデが、苦痛に、顔を歪めた。彼女にとって、この光景は、自らの、身体の一部が、腐り落ちていくのを、見ているのと、同じだった。


やがて、一行は、巨大な、黒い岩壁の前に、たどり着いた。

その、中腹に、まるで、大地が、裂けたかのような、不気味な、暗い洞窟が、ぽっかりと、口を開けている。

ケイの《アナライズ》が、絶対的な確信をもって、告げていた、汚染の、発生源。


「……ここか」

ガロウが、その手に握る、鋼鉄の槍を、握り直し、警戒を最大に引き上げる。洞窟の奥から、淀んだ、そして、明らかに、生命にとって、有害な、魔素の瘴気が、漏れ出してきているのを、肌で、感じていた。


「ガロウは、入り口で待機。外部からの、侵入者を警戒してくれ」

ケイが、冷静に、指示を出す。

「僕と、ルナリア、そして、エリアーデ殿の三人で、内部を調査する」

「馬鹿野郎、大将! 何を言ってやがる! 一番、危険な場所に、あんたが行くなんざ、俺が、許すか!」

ガロウが、即座に、猛然と、反論した。


「これは、僕にしか、できない仕事だ」

ケイは、静かに、しかし、有無を言わせぬ口調で、言った。

「内部の、汚染の正体を、正確に分析し、その、無力化の、手順を、構築できるのは、僕だけだ。君の、その、圧倒的な武力は、ここでは、何の役にも立たない。……むしろ、足手まといにさえ、なり得る。……分かるな?」


その、あまりにも、合理的で、そして、残酷なまでの、正論。

ガロウは、ぐっと、言葉に詰まった。彼は、悔しそうに、何度も、地面を蹴りつけたが、やがて、観念したように、大きく、息を吐いた。

「……分かったよ。……だが、大将。約束してくれ。……絶対に、無茶はしねえ、と。少しでも、ヤバいと思ったら、すぐに、引き返してくると、な」

その、黄金色の瞳には、リーダーを、案ずる、不器用な、しかし、真っ直ぐな、忠誠の色が、浮かんでいた。


「……ああ、約束する」

ケイは、静かに、頷いた。


三人は、松明(これも、ケイが《クリエイト・マテリアル》で生成したものだ)の、頼りない光を手に、ついに、その、呪われた洞窟へと、足を踏み入れた。

内部は、湿っぽく、そして、カビ臭い、空気に満ちていた。壁や、天井からは、絶えず、黒く、粘り気のある、液体が滴り落ち、足元は、ぬかるんで、歩きにくい。


「……これは……」

エリアーデが、壁に、手を触れ、息を呑んだ。

「……古代、ドワーフ族の、採掘場……? ですが、こんな、浅い階層に、これほどの、規模のものを……。一体、何を、掘っていたというの……?」

壁には、明らかに、人の手によって、規則正しく掘られた、のみの跡が、残っていた。


ケイは、その、壁の、一部を、指でなぞりながら、《アナライズ》を実行した。

彼の脳内に、この洞窟の、過去のログが、断片的に、流れ込んでくる。

『……採掘対象:高純度魔力結晶体……』

『……時代:古代魔法文明期……約五千年前……』


(……やはり、古代文明の、遺物か)

ケイは、静かに、結論を下した。


一行は、慎重に、洞窟の、さらに奥深くへと、進んでいく。

道は、複雑に、枝分かれしていたが、エリアーデが、精霊たちの、か細い、嘆きの声を、頼りに、最も、汚染の強い、方向へと、彼らを導いていった。


そして、ついに、彼らは、その、最深部に、たどり着いた。

そこは、他の、どの通路よりも、遥かに、広大な、ドーム状の、空間となっていた。

そして、その、中央に、鎮座する、「それ」を、見た、瞬間。

三人は、同時に、言葉を、失った。


それは、巨大な、黒曜石を、削り出して作られたかのような、禍々しい、祭壇のようにも見えた。

その、表面には、無数の、そして、複雑怪奇な、幾何学模様の、回路のようなものが、刻まれており、その、一つ一つが、まるで、呼吸をするかのように、不気味な、紫色の光を、明滅させている。

そして、その、装置の、中心部。

そこに、埋め込まれていたのは、人の頭ほどもある、巨大な、黒い、水晶体だった。

その、水晶体こそが、この森の、全ての、汚染の、根源。

周囲の、空間を、歪ませるほどの、圧倒的な、負の魔力を、絶えず、放出し続けていた。


「……なん、だ……。あれは……」

ルナリアが、か細い声で、呟いた。彼女の、薬師としての、本能が、あの物体が、生命あるもの、全てにとって、絶対的な、毒であることを、告げていた。


「……信じられない……。古代魔法文明の、遺物……。『大崩壊』を、引き起こしたとさえ、言われる、禁断の、オーバーテクノロジー……」

エリアーデもまた、その、美しい顔を、恐怖と、そして、畏怖に、引き攣らせていた。


だが、ケイだけが、違った。

彼の、青い瞳には、恐怖も、畏怖も、なかった。

そこにあるのは、前世で、何度も、対峙してきた、手に負えない、レガシーシステムの、巨大な、サーバーラックを前にした時と、全く、同じ、色。

すなわち、純粋な、技術者としての、好奇心と、そして、この、欠陥システムを、完全に、解体してやりたいという、歪んだ、破壊衝動にも似た、高揚感だった。


彼は、その、禁断の装置に、躊躇なく、《アナライズ》を、実行した。

彼の脳内に、常人であれば、その、情報量だけで、発狂してしまいそうな、膨大な、設計データが、津波のように、流れ込んでくる。


▼ 対象:古代魔法文明期製、自律型魔力蓄積装置プロトタイプ

┣ 稼働時間:推定4982年

┣ 現在のステータス:暴走クリティカル・エラー

┣ エラー内容:

┃ ┣ 内部の、魔力安定化術式が、経年劣化により、破損。

┃ ┣ 外部からの、魔素吸収機能のみが、無限ループ状態で、稼働中。

┃ ┗ 蓄積された、過剰な魔素が、制御不能な、高エネルギー結晶体となって、外部へと、漏出リーク

┣ システム構造:

┃ ┣ 複数の、独立した、魔法術式モジュールの、集合体。

┃ ┗ 各モジュールは、『システム統合インテグレーション』と呼ばれる、上位の、制御術式によって、統括されている。

┣ 解決策(提案):

┃ ┗ 破損した、安定化術式の、修復は、不可能。

┃ ┗ 唯一の、解決策は、上位の、制御術式に、直接、介入し、全ての、下位モジュールの、機能を、強制的に、停止シャットダウンさせること。


「…………」

ケイは、無言だった。

だが、彼の、口の端は、確かに、不敵な、笑みを、描いていた。


(……なるほどな。要するに、OSが、クラッシュしたまま、アプリケーションだけが、暴走してる、ゾンビサーバー、か。……そして、それを止めるための、管理者権限での、強制シャットダウンコマンドも、ちゃんと、用意されている、と)


それは、彼にとって、最も、得意とする、分野だった。

バラバラに、機能不全に陥った、複数の、システムを、一つに、統合し、制御する。

それこそが、彼の、ユニークスキルの、まだ、一度も、使ったことのない、第三の権能の、本質だったからだ。


「……二人とも、下がっていろ」

ケイは、静かに、しかし、有無を言わせぬ口調で、言った。

「ここから先は、僕の、専門分野だ」


彼は、ルナリアと、エリアーデが、困惑しながらも、後方へと、下がるのを、確認すると、ゆっくりと、その、暴走する、古代の、怪物へと、歩み寄った。

そして、彼は、その、小さな、両の手のひらを、禍々しい光を放つ、黒曜石の、冷たい、表面へと、そっと、置いた。

そして、目を、閉じた。


「――ユニークスキル【ワールド・アーキテ-クト】」


彼の、声が、静まり返った、洞窟の、最深部に、響き渡る。


「第三権能、解放アンロック。――《システム・インテグレーション》、起動!」


瞬間。

ケイの身体から、蒼い、閃光が、迸った。

それは、彼の、魂そのものの、輝き。

異世界の、システム・アーキテ-クトが、ついに、この世界の、最も、古く、そして、最も、危険な、バグの、修正デバッグへと、その、神業の、メスを、入れようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに、森を蝕む、病の、全ての元凶が、明らかになりました。古代魔法文明が遺した、暴走する、魔力蓄積装置。あまりにも、絶望的な、その存在を前に、ケイは、ついに、自らの、ユニークスキルの、第三の権能、《システム・インテグレーション》を、解放します。


果たして、彼の、神の如き、スキルは、この、五千年の、長きにわたって、暴走を続けてきた、古代の怪物を、止めることができるのでしょうか。

そして、残された時間は、あまりにも、少ない。


「面白い!」「ついに、新スキル!」「古代文明、ヤバすぎる!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、ケイの、複雑な、術式構築の、助けとなります!


次回、ケイの、神業が、炸裂する! そして、種族の垣根を越えた、最初の、共同作業が、奇跡を、起こす。どうぞ、お楽しみに。

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