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第57節:三位一体のデバッグチーム

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。皆様からのブックマーク、評価、そして温かい感想の一つ一つが、この物語を紡ぐ大きな力になっております。


前回、ケイのあまりにも大胆な交渉術が、ついにエルフたちの固い心の扉をこじ開けました。しかし、彼らに与えられたのは「一日で森の病を癒せ」という、不可能とも思える過酷な条件。絶体絶命の状況は、まだ続いています。


今回は、その絶望的な課題に対し、ケイ、ルナリア、そしてエルフの若き精霊術師エリアーデが、それぞれの専門知識を結集させ、一つのチームとして立ち向かいます。科学と魔法、そして異世界の叡智が交差する時、果たして奇跡は起こるのか。物語が大きく動き出す第五十七話、どうぞお楽しみください。

森の静寂は、死の静寂だった。

エルフの長老が、氷のように冷たい最後通牒を突きつけて去った後、ケイたち三人と一匹(?)の周囲には、監視役として残された数名のエルフを除いて、誰もいなくなった。だが、その場を支配する空気は、数十本の矢に狙われていた時よりも、さらに重く、そして絶望的なものに変わっていた。


「……一日、だと……?」


ガロウが、絞り出すような、信じられないといった声で呟いた。彼の、百戦錬磨の戦士としての経験則が、その要求の、絶対的な不可能を告げていた。

「大将、いくらなんでも、無茶だ。樹齢二千年の大樹だぞ? それが枯れかけてるなんざ、原因を突き止めるだけでも、何年もかかる話だ。それを、たった一日で、癒しの兆しを見せろだなんて……。奴ら、最初から、俺たちを殺すための、口実が欲しいだけじゃねえか!」


その、あまりにも正論な指摘に、ルナリアも、不安そうに顔を曇らせた。彼女の薬師としての知識をもってしても、これほどの規模の、しかも原因不明の植物の病を、これほど短時間でどうこうできるとは、到底思えなかった。


その、絶望的な空気の中で。

一人、この状況を、全く異なる次元で捉えている者がいた。

ケイ・フジワラ。

彼の青い瞳には、焦りの色も、絶望の色も、一切浮かんでいなかった。そこにあるのは、クライアントから、無茶な納期を提示された、プロジェクトマネージャーの、どこまでも、冷徹で、そして、どこか、楽しげでさえある、挑戦的な光だけだった。


「……いや、違うな、ガロウ」

ケイは、静かに、しかし、きっぱりと、首を横に振った。

「これは、最高の『好機』だ」


「……好機、だと?」

ガロウが、怪訝な顔で問い返す。


「ああ。考えてもみろ。僕たちの目的は、彼らと『対等な盟約を結ぶ』ことだ。そのためには、僕たちが、彼らにとって、無視できない、価値のある存在だと、証明する必要がある。そして、その『価値』を証明するための、最高のプレゼンテーションの機会を、彼らの方から、与えてくれたんだ。しかも、期限付きでな」


その、あまりにも、前向きな、というか、常軌を逸した思考回路。

ガロウとルナリアは、呆気に取られて、言葉を失った。


ケイは、そんな二人の様子には、お構いなしに、くるりと、一人のエルフへと向き直った。

それは、長老に逆らい、ケイたちに、この、絶望的な機会を与えてくれた、張本人。金色の髪を持つ、美しい、精霊術師、エリアーデ・ウィンドソングだった。

彼女は、仲間たちが去った後も、ただ一人、その場に立ち尽くしていた。その、翡翠のような瞳には、自らの、一世一代の賭けが、本当に正しかったのかという、深い苦悩と、そして、この森の未来を憂う、痛切な悲しみの色が、浮かんでいた。


「――エリアーデ殿」

ケイが、静かに、彼女の名前を呼んだ。

「……なんだ、人間」

彼女の声は、まだ、硬い。だが、その響きには、以前のような、剥き出しの敵意は、なかった。


「僕は、あなたの、その、勇気ある決断に、感謝する。そして、その信頼に、必ず、結果で応えると、約束しよう」

ケイは、その場で、深々と、頭を下げた。

「そのために、あなたの力が必要だ。いや、あなたがいなければ、このプロジェクトは、絶対に成功しない。……僕たちに、力を貸してはくれないだろうか」


その、あまりにも、真っ直ぐで、そして、誠実な、協力の要請。

エリアーデは、一瞬、戸惑ったように、目を伏せた。だが、彼女は、静かに、頷いた。

「……私に、できることがあるのならば。……全ては、この森を、救うため」


「ありがとう」

ケイは、顔を上げると、プロジェクトマネージャーの顔に戻った。

「では、これより、緊急プロジェクト、『森の再生フォレスト・リジェネレーション』を、始動する。……これより、我々は、一つの、チームだ」


彼は、その場で、即座に、役割分担を、定義し始めた。

それは、まるで、熟練の指揮官が、盤上の駒を、動かすかのような、淀みなき、采配だった。


「まず、ルナリア。君は、病理分析担当だ。この森の、病に侵された植物を、可能な限り、多くサンプリングし、その、病理の、根本原因を、特定してほしい。君の、薬師としての、知識と、五感が、このプロジェクトの、最初の、鍵となる」

「……分かりました。任せてください」

ルナリアは、力強く頷いた。彼女の瞳には、既に、未知の病に挑む、研究者の光が宿っている。


「次に、エリアーデ殿。あなたは、索敵および、ナビゲーション担当だ。あなたの、その、精霊と交信する能力を使い、この森の、病が、最も、深く、そして、濃い場所……汚染の、中心地エピセンターを、特定してほしい。あなたの、その、常人にはない、感覚だけが、頼りだ」

「……やってみよう。精霊たちの声は、今、ひどく、弱まっているが……」

エリアーデもまた、その、美しい顔に、専門家としての、厳しい表情を浮かべた。


「そして、僕は、システム分析と、全体の、プロジェクト管理を担当する。二人が集めた、アナログな情報を、僕の《アナライズ》スキルで、デジタルデータへと変換し、統合インテグレーションする。そして、そこから、最も、合理的で、最適な、解決策を、導き出す」


ケイの、その、完璧なまでの、役割分担の定義。

それは、三人の、全く、出自も、能力も異なる、スペシャリストを、一つの、目的のために機能する、最強の、デバッグチームへと、変貌させる、魔法の言葉だった。


「ガロウ。君は、僕たちの、護衛と、周辺警戒を。この森には、僕たちの知らない、危険が、まだ、潜んでいるかもしれない」

「おうよ、大将! 誰一人、指一本、触れさせやしねえぜ!」


チームは、結成された。

彼らは、即座に、行動を開始した。


まず、動いたのは、ルナリアだった。

彼女は、腰の革袋から、愛用の、小さなナイフと、ピンセットを取り出すと、病に侵され、どす黒く変色した、シダの葉を、そっと、採取した。

彼女は、その葉を、鼻に近づけ、匂いを嗅ぎ、指先で、その、脆くなった、細胞の感触を、確かめる。そして、ナイフで、その茎を、慎重に、切り裂き、陽光にかざして、その、断面の、色の変化を、観察する。

「……これは、菌類や、ウイルスによる、一般的な病気では、ありません」

彼女は、すぐに、結論を下した。

「植物の、内部から、その、生命活動の根幹である、魔素の循環機能そのものが、破壊されています。まるで、強力な、毒素トキシンによって、細胞が、壊死させられているかのよう……。ですが、これほどの、広範囲に、そして、持続的に、作用する毒など、私の知識には……」

彼女は、悔しそうに、唇を噛んだ。


次に、動いたのは、エリアーデだった。

彼女は、その場に、静かに、膝をつくと、目を閉じ、その、白く、美しい、両の手のひらを、そっと、地面につけた。

「……森よ。……精霊たちよ。……我らが、声を聞け……」

その、囁くような、しかし、どこまでも、澄み切った、祈りの言葉。

彼女の身体から、淡い、緑色の光が、オーラのように、立ち上り、それが、森の、大地へと、波紋のように、広がっていく。

森が、ざわめいた。

風が、止み、鳥の声が、消える。

だが、その、静寂の、奥の、奥から。

ケイと、ルナリアにさえ、聞こえない、か細い、無数の、声が、エリアーデの、意識の中へと、流れ込んでくる。

それは、痛み。苦しみ。そして、助けを求める、悲痛な、叫び声だった。

『……いたい……』

『……くるしい……』

『……黒い、影が……。……根を、蝕む……』

「……っ!」

エリアーデの、美しい顔が、苦痛に、歪んだ。あまりにも、多くの、負の感情が、一気に流れ込み、彼女の精神を、苛む。

「……だめ……。声が、多すぎる。……ノイズが、ひどくて、汚染の、中心が、どこなのか、正確には……。ただ、分かるのは、この森の、さらに、奥深く……。北の、方角から、最も、強い、嘆きの声が、聞こえてくる……。それだけ……」

彼女は、額に、玉のような汗を浮かべ、ぜえぜえと、肩で息をしながら、かろうじて、それだけを、報告した。


病理は、特定できた。だが、原因は、不明。

方角は、特定できた。だが、正確な、場所は、不明。

二人の、天才的な、スペシャリストをもってしても、その、情報には、致命的な、欠落があった。


だが、その、欠落した、ピースを、埋めることこそが、ケイ・フジワラの、真骨頂だった。


「――二人とも、感謝する。……十分だ」


ケイは、静かに、そう言うと、まず、ルナリアが採取した、病める葉に、手を触れた。

「《アナライズ》」

彼の脳内に、その葉を構成する、全ての、分子レベルの情報が、展開される。

『対象:汚染された植物細胞』

『分析結果:細胞内の、魔素伝導器官に、未知の、高密度エネルギー結晶体が、付着。正常な、魔素循環を、92.7%阻害。当該結晶体は、周辺の魔素を、無差別に吸収・結晶化する性質を持ち、自己増殖的に、汚染を拡大させている』

(……ルナリアの、見立て通りだ。これは、生物的な病じゃない。化学的な、汚染だ。それも、自己増殖する、悪性の、ナノマシンのような……)


次に、彼は、エリアーデが指し示した、北の、方角へと、その、意識を、向けた。

「《アナライズ》。スキャン範囲を、最大に。対象エリアの、『魔素汚染濃度』の、分布を、マッピングせよ」

彼の、青い瞳が、淡い光を放つ。

彼の視界には、この森全体の、三次元マップが、ワイヤーフレームとなって、展開され、その上に、魔素汚染の濃度が、サーモグラフィーのように、色分けされて、表示されていく。

ほとんどの場所は、安全な、緑色。

だが、エリアーデが指し示した、北の方角に向かうにつれて、その色は、徐々に、危険な、黄色へ、そして、赤色へと、変化していく。

そして、その、真っ赤な、エリアの、さらに、中心。

一点だけが、まるで、ブラックホールのように、全ての色を、飲み込んだ、絶対的な、「黒」に、染まっていた。


(……見つけた)


ケイは、静かに、結論を下した。

「原因は、生物的な、毒ではない。高密度の、エネルギー汚染だ。そして、その、発生源は、ここから、北へ、約三キロ。……古い、洞窟の、奥深く」


彼の、その、あまりにも、断定的で、そして、正確な、宣告。

ルナリアと、エリアーデは、息を呑んだ。

自分たちが、手探りで、ようやく掴んだ、断片的な情報を、この少年は、たった一瞬で、一つの、完璧な、真実へと、統合してみせたのだ。

科学と、魔法。

その、二つの、異なる、叡智が、今、ケイ・フジワラという、異世界の、規格外のOSの上で、完全に、一つになった、瞬間だった。


「……行こう」

ケイは、短く、言った。

「原因が、分かれば、対処法は、ある。……プロジェクトは、次の、フェーズへと、移行する」


彼は、動揺する、二人の天才を、そして、その背後で、ただ、呆然と、成り行きを見守っていた、最強の戦士を、振り返った。

その顔には、既に、この、不可能とも思える、プロジェクトを、必ず、成功させるという、絶対的な、自信の光が、宿っていた。


「――これより、我々は、この森の、バグの、根源を、完全に、『駆除』する」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ケイ、ルナリア、そしてエリアーデ。三人の、異なる才能が、見事に融合し、ついに、森を蝕む病の、原因と、その発生源を、突き止めました。

まさに、最強の、デバッグチームが、誕生した瞬間でしたね。


しかし、原因が分かったからといって、問題が、解決したわけではありません。

古代の洞窟の奥深くに眠るという、汚染の源。そこには、一体、何が、待ち受けているのでしょうか。

そして、残された時間は、あまりにも、少ない。


「面白い!」「このチーム、最強!」「汚染源の正体が気になる!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、彼らの、未知への一歩を、後押しする力となります!


次回、ついに、汚染の源へと、たどり着く。そこで、彼らが見たものは、古代の、恐るべき、遺物だった。どうぞ、お楽しみに。

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