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第52節:緊急タスク:レスキュー・プロジェクト

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

皆様の温かい応援に支えられ、フロンティア村は未来へと続く道を、着実に伸ばしております。


前回、若き斥候隊長ハクがその道の先で発見したのは、飢えと絶望の淵で倒れる猫獣人族の集団でした。その中で、最後まで幼い命を守ろうとしていた、金色の瞳の少女。彼らの命の灯火は、今にも消えようとしています。


報せは、風のようにフロンティア村へと届きました。この緊急事態に対し、我らがプロジェクトマネージャー、ケイ・フジワラが、どのような決断を下すのか。彼の神業が、再び、絶望を希望へと塗り替えます。

それでは、第三巻の第四話となる第五十二話、お楽しみください。

その報せは、一本の、鋭利な槍のように、フロンティア村の穏やかな日常を突き刺した。

斥候部隊の一員であるリクが、文字通り血の滲むような形相で街道を駆け抜け、庁舎に飛び込んできたのは、昼餉の準備が始まろうかという、平和な時間帯だった。


「大将! 大変です! ハク隊長たちが、森の奥で……!」


リクの報告は、途切れ途切れだった。だが、その断片的な言葉と、彼の瞳に宿る切迫した光だけで、ケイには、事態の深刻さを理解するのに、十分だった。

飢えで倒れた、十数名の、猫獣人族。

意識不明の、重症者多数。


その報告を聞いた瞬間、庁舎の執務室の空気は、一瞬で凍りついた。隣で報告を聞いていたガロウは、その傷だらけの顔を、苦渋に歪める。ルナリアは、息を呑み、その手を、固く握りしめた。


(……最悪のケースだ)


ケイの頭脳は、即座に、状況分析を開始した。

発見場所までの距離、約五キロメートル。新設した街道を使えば、徒歩でも一時間とかからない。問題は、そこではない。

問題は、相手が、極度の飢餓と衰弱状態にある、ということだ。下手に動かせば、衰弱死を招きかねない。かといって、このまま放置すれば、夜の冷え込みと、魔物の脅威によって、確実に、全滅する。

残された時間は、極めて少ない。


「……ガロウ!」

ケイの、子供とは思えないほど、冷静で、そして、有無を言わせぬ声が、部屋に響いた。

「今すぐ、村の男たちで、動ける者を、二十名招集! 担架と、毛布、そして、水と、携帯食料を、ありったけ用意させろ!」

「おう!」

ガロウは、即座に、ケイの意図を理解した。彼は、返事もそこそこに、執務室を駆け出していく。


「ルナリア!」

「はい!」

「君は、村の診療所へ! 持ち出せる限りの、ポーション、滋養強壮剤、そして、応急処置用の医療器具を、全て用意してくれ! それと、村に、一時的な、野戦病院を設営する! 炊き出しチームの女性たちに、指示を!」

「分かりました!」

ルナリアもまた、その真紅の瞳に、医療責任者としての、強い光を宿らせ、風のように、部屋を飛び出していった。


「ドゥーリン殿!」

「……なんだ、小僧。わしは、泥遊びは好かんぞ」

会議室の隅で、腕を組んでいたドゥーリンが、不機嫌そうに答える。

「あなたの力が必要だ。工務部隊を動かし、大型の荷車を、急遽、二台、用意してほしい。サスペンション付きで、可能な限り、揺れの少ないものを。設計図は、今、あなたの頭に送る!」

「……サスペえション、だと……? フン、また、訳の分からんものを。……だが、面白そうだ。やってやろうではないか」

ドゥーリンは、口では悪態をつきながらも、その瞳は、職人としての、挑戦意欲に、爛々と輝いていた。


ケイの、矢継ぎ早の、しかし、驚くほど的確な指示。

それは、彼が、この瞬間に、脳内で起動させた、新しいプロジェクトの、タスクリストだった。


プロジェクト名:『キャット・レスキュー』

目標:発見された猫獣人族、全員の、生存確保。

制限時間:日没までの、約四時間。


彼は、自らのユニークスキル【ワールド・アーキテクト】の権能を、最大限制限なく解放した。

《プロジェクト・マネジメント》によって、彼の指示は、単なる命令ではなく、受け取った者たちの、思考と行動を、最適化する、魂のコマンドとなる。

指示を受けた村人たちは、何が起こったのかを、詳細に知らなくとも、今、自分たちが、一刻を争う、緊急事態にあること、そして、自らが、その中で、何をすべきかを、本能で、理解した。


村の、穏やかな空気は、一変した。

だが、それは、ゴブリン・スタンピードの時のような、パニックや、絶望ではない。

一つの、明確な目標に向かって、全ての住民が、一つの、巨大な生命体のように、機能的に、そして、力強く、動き始めたのだ。



それから、一時間後。

フロンティア村の北門から、大規模な救出部隊が、静かに、しかし、迅速に、出発した。

先頭を行くのは、ケイ、ルナリア、そして、完全武装したガロウ率いる、十名の護衛部隊。

その後ろを、ドゥーリンが、わずか一時間で作り上げた、驚異的な性能を持つ、板バネ式のサスペンションを備えた、二台の大型荷車が続く。荷台には、担架や、医療品、そして、温かいスープの入った大鍋が、満載されていた。


彼らが進むのは、自分たちの手で切り拓いた、希望の道。

その道を、今、彼らは、まだ見ぬ、仲間たちの命を救うために、駆け抜けていく。


現場への到着は、あまりにも、早かった。

ハクたち斥候部隊が、焚き火を起こし、生存者の体温を、必死に維持しているのが、遠目にも見えた。


「――状況は!?」

現場に到着するなり、ケイが、鋭く問う。

「大将! ご無事で……! 意識があるのは、三名のみ! 他は、呼びかけにも、反応がありません!」

ハクの、憔悴しきった報告に、ケイは、静かに頷いた。


「ルナリア!」

「はい!」

ルナリアは、ケイの合図を待たず、既に、医療キットを手に、倒れている猫獣人たちの元へと、駆け寄っていた。

彼女は、戦場の衛生兵のように、冷静に、そして、迅速に、一人一人の状態を確認し、その深刻度を、判断していく。

トリアージだ。


「この方は、まだ大丈夫! 水分補給を、優先して!」

「この子は、危険です! すぐに、高濃度の栄養剤を、経口投与!」

「……この方は……もう……」


彼女の、プロフェッショナルな指示が、次々と飛ぶ。救護班の女性たちが、その指示に従い、的確に、処置を施していく。

その、あまりにも、手際の良い、組織的な救護活動の光景を、ハクたち斥候部隊は、ただ、呆然と、見つめていた。


ケイは、その間に、倒れている、全ての猫獣人たちに、《アナライズ》を実行していた。

彼の脳内に、一人一人の、詳細なバイタルデータと、健康状態が、リストとなって、表示されていく。


▼ 対象:猫獣人族(14名)

┣ ステータス:

┃ ┣ 危険(生命活動レベル10%未満):2名

┃ ┣ 重篤(生命活動レベル10%~30%):5名

┃ ┣ 衰弱(生命活動レベル30%~50%):7名

┃ ┗ 死亡:1名(推定死亡時刻:約6時間前)

┣ 共通症状:

┃ ┣ 極度の栄養失調

┃ ┣ 重度の脱水症状

┃ ┗ 低体温症

┗ 結論:即時の、専門的な、医療介入がなければ、今後、24時間以内に、半数以上が、死亡する可能性、95%以上。


(……間に合った。だが、ギリギリだ)


ケイは、静かに、結論を下した。

そして、彼の視線は、データリストの中の、ある、一人の少女へと、引き寄せられた。


▼ 対象:リリナ・テールウィップ

┣ 種族:猫獣人族(二尾の希少種)

┣ ステータス:重篤(生命活動レベル:12%)

┣ 備考:強い精神力により、かろうじて、生命活動を維持。その手に、薬草らしきものを、強く握りしめている。


《アナライズ》が、彼女の名前と、その、特異な血筋までをも、示していた。

そして、その、驚異的な精神力。

ハクが、目を合わせたという、あの、金色の瞳の少女だ。


「ルナリア。あの子を、最優先で」

ケイは、静かに、リリナの元で、処置を始めているルナリアに、指示を出した。

「彼女が、この集団の、おそらく、リーダーだ。彼女の、精神的な支柱を、失うわけにはいかない」

「……分かっています」

ルナリアは、ケイの、冷徹なまでの、合理的判断に、静かに頷き返した。


温かいスープが、彼らの、乾ききった喉を、潤していく。

高濃度のポーションが、彼らの、消えかけた、命の炎を、再び、燃え上がらせていく。

一人、また一人と、虚ろだった瞳に、かすかな、光が、戻り始めた。


そして、ついに。

ハクが、そして、ケイが、その存在を、気にかけていた、金色の瞳の少女――リリナ・テールウィップが、うっ、と、小さく呻き、その、長い睫毛を、震わせた。


ゆっくりと、開かれた、その瞳。

その、美しい、金色の虹彩が、最初に映したのは、自分の顔を、心配そうに覗き込んでいる、銀髪の、兎の耳を持つ、少女の姿だった。

そして、その、少し後ろで、冷静な、しかし、どこか、温かい、青い瞳で、自分を、静かに見下ろしている、銀髪の、人間の、少年の姿だった。


(……てき……? にんげん……?)


彼女の、朦朧とした意識が、最大級の、警報を鳴らす。

人間は、敵だ。

自分たちの、全てを奪い、仲間を殺し、そして、自分たちを、ここまで、追い詰めた、絶対的な、悪。


「……う……あ……」


声にならない、声を上げ、彼女は、反射的に、身を起こそうとした。

だが、その身体には、指一本、動かすだけの力も、残されていなかった。


「動かないで」

ルナリアの、穏やかな、しかし、有無を言わせぬ声が、彼女の、混乱した思考に、染み渡る。

「あなたは、助かったの。……私たちを、信じて」


その、あまりにも、真っ直ぐで、そして、優しい、言葉。

そして、自分の口の中に、ゆっくりと、流し込まれてくる、温かく、そして、信じられないほど、美味しい、液体の、感触。


彼女の、金色の瞳が、困惑に、揺れた。

何が、起こっているのか、分からない。

だが、確かなことが、一つだけあった。

目の前にいる、この、人間と、亜人たちは、自分に、敵意を、向けてはいない。

それどころか、自分たちを、助けようとしてくれている。


その、信じられない、事実を、彼女の、疲弊しきった、思考が、受け入れるよりも、早く。

温かいスープと、薬の効果が、彼女の、限界を超えていた、身体と、精神を、深い、深い、しかし、穏やかな、眠りの、底へと、誘っていった。


彼女が、次に、目を覚ました時。

彼女の世界は、根底から、覆されることになるのを、まだ、彼女は、知らなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ハクの報せを受け、ケイが始動させた、緊急救助プロジェクト。彼の、神業のようなプロジェクトマネジメント能力が、再び、絶望の淵にある命を、救い出しました。


そして、ついに、ヒロインの一人、リリナ・テールウィップが、ケイと、運命的な(?)出会いを果たしました。人間への、強い不信感を抱く彼女。彼女が、次に目を覚ます場所は、彼女の常識を、根底から覆す、理想郷、フロンティア村です。


果たして、彼女は、そして、彼女の仲間たちは、この村を、どう、受け止めるのでしょうか。


「面白い!」「リリナ、助かってよかった!」「ケイの指揮、痺れる!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、彼らの、新しい仲間を、温かく、迎え入れる力となります!


次回もどうぞ、お楽しみに。

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