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第46節: 総反撃:村人たちの咆哮

いつもお読みいただき、ありがとうございます!皆様のブックマーク、評価、そして温かい感想の数々が、吹雪の中のフロンティア村を照らす、何よりの力となっております。


前回、ケイが放った「火計」という禁断の一手。それは、戦況を覆すための、あまりにも非情で、そして合理的な殲滅戦術でした。ゴブリンの群れは炎に焼かれ、大混乱に陥ります。


しかし、敵の数はまだ三百以上。この好機を逃せば、次はありません。今回は、混乱した敵に対し、ついにフロンティア村の全住民が、その牙を、その爪を、その魂を剥き出しにします。村の存亡を賭けた、総反撃の火蓋が切られます。どうぞ、お楽しみください。

地獄とは、おそらく、この光景のことを言うのだろう。

フロンティア村の防壁周辺は、ケイが放った火計によって、雪と氷の世界から、灼熱の煉獄へと姿を変えていた。天を焦がす炎、肉の焼けるおぞましい悪臭、そして、炎に巻かれたゴブリンたちの、鼓膜を突き破るような断末魔の絶叫。

それは、正気な者であれば、目を背け、耳を塞ぎたくなるような、この世の終わりの光景だった。


だが、フロンティア村の住民たちは、誰一人、その光景から目を逸らさなかった。

彼らは、防壁の内側、塹壕の陰から、ただ、じっと、その地獄絵図を見つめていた。その瞳に宿るのは、恐怖でも、憐憫でもない。自らの故郷を蹂躙しようとした侵略者が、その報いを受けているのだという、冷徹なまでの、静かな怒りだった。


司令塔の、一番高い見張り台の上。

ケイは、その地獄の全景を、ただ一人、神の視点から、俯瞰していた。

彼の《アナライズ》が、戦場の全ての情報を、リアルタイムで、データへと変換していく。


(……火計による敵兵力の削剥率、約三割。残存兵力、推定三百二十。敵指揮系統、麻痺状態。士気、著しく低下。……だが、依然として、数は我々を上回っている)


炎は、確かに、敵の勢いを削いだ。だが、それは、あくまで、戦局を五分に戻したに過ぎない。このまま、敵が体勢を立て直し、再び波状攻撃を仕掛けてくれば、ジリ貧になるのは、こちらの方だ。

勝機は、一瞬。

今、この、敵が混乱の極みにある、この瞬間しかない。


ケイは、静かに、息を吸い込んだ。

そして、彼の、ユニークスキルが、再び、その真価を発揮する。


『――今だ』


その声は、もはや、彼の口から発せられたものではなかった。

それは、村の、全ての仲間たちの、魂の、最も深い部分に、直接、響き渡る、絶対的な、天啓だった。


『――全軍、総反撃を開始する! 敵を、一人残らず、この村から、叩き出せッ!』


その、魂の号令が、引き金だった。

防壁の内側で、息を殺して待機していた、狼獣人族の戦士たちが、一斉に、その黄金色の瞳を、カッと見開いた。

先ほどまでの、防衛戦で蓄積した疲労。仲間を傷つけられた、怒り。そして、リーダーが示してくれた、勝利への、絶対的な確信。

それら、全ての感情が、一つの、巨大な、闘争本能の塊となって、爆発した。


「――聞いたな、野郎どもォッ!!!!」


血塗れの鋼鉄の斧を、その肩に担ぎ直しながら、ガロウ・アイアンファングが、大地を揺るがす、魂の咆哮を上げた。

その、傷だらけの顔には、もはや、リーダーとしての、冷静さはない。ただ、目の前の、獲物を、喰らい尽くすことだけを考える、獰猛な、獣の王の、歓喜の笑みが、浮かんでいた。


「大将の、ありがてえ、号令だ! 宴の、続きと行こうじゃねえか! 奴らの、汚ねえ血反吐で、乾杯だァッ!!」


彼は、そう叫ぶと、自ら、先頭に立って、まだ、炎が燻る、防壁の亀裂へと、躍り出た。

その、圧倒的な、カリスマと、闘志に、他の戦士たちも、呼応する。


「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」


狼たちの、血脈に刻まれた、遠吠え。

それは、もはや、ただの、戦意高揚の叫びではなかった。

それは、これから始まる、「狩り」の、開始を告げる、祝砲だった。


ガロウ率いる、鋼鉄の牙の群れが、炎と煙の中から、悪夢のように、姿を現す。

彼らは、混乱し、右往左往するゴブリンの群れの中に、まるで、熱したナイフが、バターを切り裂くかのように、いとも容易く、突入していった。

ドゥーリンが鍛え上げた鋼鉄の刃が、吹雪の中で、赤い軌跡を描くたびに、ゴブリンの、醜い首が、面白いように、宙を舞う。


だが、戦場に躍り出たのは、彼ら、プロの戦士たちだけではなかった。


「……遅れるな、てめえら!」

「わ、分かってるわい!」


亀裂の、両翼。

防壁に備え付けられた、縄梯子や、簡易的なスロープから、第二波、第三波が、次々と、戦場へと、なだれ込んでくる。

彼らは、戦士ではない。

昨日まで、槌を振るい、畑を耕し、そして、家庭を守っていた、ただの、村人たちだった。


建築チームの、棟梁である、年老いた熊獣人は、その手に、巨大な木槌を握りしめていた。

「ワシが、ワシたちが、魂込めて、作り上げた、この村を! てめえら、ゴミクズどもに、土足で、踏み入れさせるかァッ!」

その木槌が、振り下ろされるたびに、ゴブリンの、脆い頭蓋骨が、熟れた果実のように、砕け散る。


農作業をしていた、兎人族の若者たちは、その手に、鋼鉄の鍬や、鋤を、握りしめていた。

「僕たちの、畑を、荒らしたこと! 後悔させてやる!」

その、鋭い刃先は、武器ではない。だが、故郷を、仲間を、守るのだという、強い、強い意志が、ただの農具を、必殺の凶器へと、変えていた。


そして、その、男たちの背後から。

女性たち、年寄りたち、そして、武器を持つことさえできない、幼い子供たちまでもが、支援の声を、上げる。

「行けぇっ!」

「やっちまえ!」


彼らは、防壁の上から、石を投げ、弓を射り、そして、残っていた熱湯を、敵の頭上から、浴びせかける。

その、一つ一つは、非力な攻撃かもしれない。

だが、その、無数の、小さな意志が、一つの、巨大なうねりとなって、戦士たちの背中を、力強く、押し続けていた。


フロンティア村の、全ての住民が、今、一つの、巨大な、戦う生命体と化していた。

戦士が、前線で、敵を切り裂く。

職人が、その、後ろで、敵の頭を砕く。

農民が、その、横で、敵の足を薙ぎ払う。

そして、女子供たちが、その、遥か後方から、声援と、援護射撃で、彼らの、魂を、鼓舞する。


司令塔の上で、ケイは、その、あまりにも、壮絶で、そして、あまりにも、美しい、光景を、ただ、静かに、見つめていた。

彼の脳内には、絶え間なく、戦場のデータが、流れ込み続ける。


(……ガロウの部隊、敵の中核を、突破。……建築チーム、右翼から、敵の側面を圧迫。……農民部隊、負傷者を、後方に送りながら、戦線を維持。……連携は、完璧だ)


彼の《プロジェクト・マネジメント》は、もはや、彼らに、具体的な指示を与える必要はなかった。

彼の、魂の命令は、既に、彼らの、行動原理そのものと、なっていた。

彼らは、互いが、何をすべきかを、本能で、理解していた。


それは、ケイが、夢に見た、理想の、組織の姿だった。

トップダウンの命令で動く、機械的なシステムではない。

一人一人が、自らの意志で、自らの役割を、果たし、そして、それが、結果として、一つの、完璧な、ハーモニーを、奏でる。

有機的で、そして、何よりも、強い、生命体。


「……大将!」

その、感傷を、打ち破るように、ガロウからの、魂の通信が、飛び込んできた。

『敵の、陣形が、完全に、崩れた! だが、あの、デカブツ……魔法使いの、ホブゴブリンだけが、まだ、抵抗を続けてやがる! あいつを、どうにかしねえと、被害が、広がる一方だ!』


ケイの視線が、戦場の、一点へと、収束する。

そこには、炎と、煙の中で、孤立しながらも、なお、その枯れ木のような杖を振り回し、禍々しい魔法の弾丸を、乱射している、ホブゴブリン・シャーマンの姿があった。

その、無差別な攻撃が、何人もの、村人たちを、傷つけている。


(……最後の、バグ)


ケイの、青い瞳が、氷のように、冷たく、輝いた。

システムが、正常に、稼働するためには、その、最後の、害悪を、完全に、「駆除」しなければならない。


「……ガロウ。……僕が、行く」


『なっ!? 大将が、自ら!? 無茶だ! あんたは、ここで、指揮を……!』


「指揮は、もう、必要ない。君たちは、僕が、いなくても、もう、戦える。……それに」


ケイは、静かに、司令塔の、手すりに、足をかけた。

その、小さな背中には、いつの間にか、《クリエイト・マテリアル》で生成された、漆黒の、滑空用の、マントが、装着されていた。


「このプロジェクトの、最後の、コミットは、プロジェクトマネージャーである、僕自身の手で、行うのが、筋、というものだ」


彼は、そう言うと、ガロウの、制止の声を聞くこともなく、その、小さな身体を、躊躇なく、吹雪の、そして、戦場の、ど真ん中へと、躍らせた。


漆黒のマントが、風を孕み、彼は、まるで、一羽の、黒い、死の天使のように、最後の、標的へと、滑空していく。

その、あまりにも、幻想的で、そして、あまりにも、常識外れの、光景。

戦場で、戦う、全ての者が、一瞬、その動きを止め、空を、見上げた。


フロンティア村、防衛戦。

雌雄は、今、まさに、決しようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


フロンティア村の、魂の総反撃。戦士だけでなく、村の全ての住民が、手を取り合って、故郷のために戦う。その、熱い、熱い、光景が、少しでも、皆様の心に、届いていれば、幸いです。


そして、ついに、我らが大将ケイが、自ら、戦場へと、舞い降りました。彼の目的は、ただ一つ。この戦いの、元凶である、ホブゴブリン・シャーマンを、討ち取ること。


果たして、彼の、最後の「コミット」は、無事に、成功するのでしょうか。


「面白い!」「総反撃、熱すぎる!」「ケイ、ついに自ら戦場へ!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、ケイの、滑空する翼に、力を与えます!


次回、ついに、ケイと、ホブゴブlinシャーマンが、激突する! どうぞ、お楽しみに。

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