表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/67

第41節:開戦:ノイズだらけのデプロイメント

いつもお読みいただき、ありがとうございます!皆様の応援の一つ一つが、吹雪の中のフロンティア村を照らす、温かい希望の灯火です。


前回、五百を超えるゴブリンの大群という絶望的な報せに対し、我らが大将ケイは、村そのものを巨大な迎撃システムへと変貌させる、壮大な防衛プランを提示しました。彼の魂のプレゼンテーションは、恐怖に凍りついていた村人たちの心を、再び希望の炎で燃え上がらせました。


しかし、残された時間はあまりにも少ない。果たして、彼らは決戦の時までに、防衛システムを完成させることができたのか。そして、ついに地平線の彼方から迫り来る、赤い絶望の奔流。


物語は、いよいよ最初の、そして最大の決戦の火蓋を切ります。それでは、運命の第四十一話、お楽しみください。

夜明けは、まだ来ない。

だが、フロンティア村は、不眠不休の二時間半を経て、全く新しい姿へと生まれ変わっていた。それは、もはや生活の場としての村ではない。ただひたすらに、敵を殺し、自らが生き残るためだけに最適化された、巨大な殺戮要塞だった。


吹雪は、その勢いを少しも弱めることなく、猛威を振るい続けている。だが、その白い闇の中、村は、不気味なほどの静寂と、機能美に満ちていた。


ケイが『プロジェクト・ディフェンス』と名付けた防衛システムの構築は、彼の《プロジェクト・マネジメント》スキルによって、驚異的な精度と速度で完了していた。村人一人一人の脳内に直接インストールされた仕様書は、一切の迷いと無駄を排除した。誰もが、自らの役割を完璧に理解し、まるで一つの巨大な生命体の一部であるかのように、連携し、動いた。


村の北側に広がる雪原は、一見すると、ただの美しい白銀の世界だ。だが、その静謐な光景は、死へと誘う、偽りの仮面だった。雪の下には、ケイが設計した通りの配置で、先端を鋭く尖らせた鋼鉄の杭が上を向く落とし穴が、無数に口を開けている。狼獣人の狩りの知恵を応用した、足を絡めとる茨の罠も、巧妙に偽装され、その時を待っていた。そして、その防衛ラインの要所には、ドゥーリンが弟子たちと魂を込めて作り上げた、魔力式の地雷が、静かに眠っている。それは、踏まれた瞬間に、炸裂するのではなく、ケイの指揮所からの遠隔操作によって、任意のタイミングで起爆させることが可能な、高度な指向性兵器だった。


その奥、村を囲む二重の防壁は、さらなる強化が施されていた。壁の上には、熱湯を満たした巨大な大釜がいくつも設置され、その下では、尽きることのない薪が、ごうごうと音を立てて燃えている。女子供、老人たちでさえも、投擲用の石を山と積み上げ、ルナリアが調合した、目や喉を焼く刺激性の液体を詰めた土瓶を、その手に握りしめていた。彼らの顔に、もう恐怖の色はない。自らの手で、故郷と家族を守るのだという、強い意志の光が宿っていた。


そして、その全てを見下ろす、村で最も高い中央見張り台。そこが、ケイの司令部ブリッジだった。


「……来る」


吹雪の向こうの闇を、その青い瞳で凝視しながら、ケイは静かに呟いた。

彼の《アナライズ》スキルは、索敵範囲を最大に広げられ、村の周囲数キロメートルの、地形、魔素の流れ、そして、生命反応の全てを、リアルタイムで、三次元のワイヤーフレームとして、その脳内に投影していた。


彼の視界の、北東の端に、無数の、赤い光点が、突如として現れた。

それは、雪崩のように、凄まじい速度で、その数を増やし、やがて、一つの巨大な、赤い奔流となって、こちらへと向かってくる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


それは、音ではなかった。大地そのものが、恐怖に震える、振動だった。吹雪の轟音さえも、飲み込んでしまうほどの、おびただしい数の足音と、地獄の釜が開いたかのような、飢えた雄叫び。


「……来たか、クソッタレどもが……!」


ケイの隣で、巨大な鋼鉄の両刃斧を肩に担いだガロウが、その黄金色の瞳を、好戦的な光でぎらつかせた。彼の全身からは、この村の、いや、この森の王であるという、絶対的な自信と、闘志が、オーラのように立ち上っている。


「フン。掃き溜めのネズミが、行列をなして、死にに来たか。……わしの新しい作品の、錆にしてくれるわ」


逆の隣では、ドゥーリンが、自らが作り上げた、最新式のウォーハンマーを、まるで赤子でもあやすかのように、その手で撫でていた。彼の瞳にもまた、自らの神業を試す、絶好の機会を前にした、職人としての、歪んだ喜悦が浮かんでいた。


ルナリアは、見張り台の下、野戦病院として準備された最大の小屋で、息を殺して祈っていた。どうか、一人でも、怪我人が少なく済みますように、と。


赤い奔流は、瞬く間に、その全貌を現した。

それは、もはや、軍勢というよりも、生命を持った、巨大な津波だった。

先頭を駆けるのは、巨大な狼に跨った、ゴブリン・ウルフライダー。その後ろに、通常種の倍はあろうかという巨体を持つホブゴブリンが、巨大な棍棒を振り回しながら続き、そして、その間を埋め尽くすように、数え切れないほどの、小柄なゴブリンたちが、錆びついた剣や、石斧を振りかざし、奇声を上げながら、殺到してくる。


その、あまりの数。その、あまりの、純粋な、破壊の意志。

それは、正気な人間であれば、見ただけで、戦意を喪失してしまうほどの、絶望的な光景だった。


だが、ケイは、冷静だった。

彼の脳内には、赤い光点の奔流が、一つの巨大なデータブロックとして表示されている。


(……敵前衛、ゴブリン・ウルフライダー、約五十。その後方に、ホブゴブリンの集団、約三十。主力のゴブリン、推定四百以上。……斥候の報告通り、総数五百。陣形は、ない。ただの、無秩序な突撃ブルートフォースアタックだ。……ならば、対処は、容易い)


彼の思考は、どこまでも、システムエンジニアのそれだった。

無秩序な攻撃には、秩序だった防御ファイアウォールを。

彼は、思考を、村の全ての仲間へと、飛ばした。


『――全軍、第一種戦闘態勢。僕の合図があるまで、決して動くな。敵を、第一防衛ライン、『偽りの平原』の、キルゾーン中央まで、引きつける』


その、魂に直接響く、冷静な命令が、戦いの直前の、極度の興奮と緊張状態にあった獣人たちの心を、強制的に、クールダウンさせる。

彼らは、息を殺し、ただ、ひたすらに、その時を待った。


ギャアギャアと、耳障りな奇声を上げながら、ゴブリンの先鋒が、ついに、第一防衛ラインへと突入した。

彼らの、濁った、小さな目には、目の前の、静まり返った雪原が、何の抵抗もしない、無防備な獲物に見えたことだろう。

彼らは、競い合うように、その速度を、さらに上げた。


「……今だ」


ケイの脳内で、最初のトリガーが、引かれた。


『――ドゥーリン殿。セクター・アルファ、起爆』


「応よ!」


見張り台の上で、ドゥーリンが、手元にあった、魔力式の起爆装置の、水晶を、親指で、強く、押し込んだ。


次の瞬間。


ゴブリンの先鋒が、駆け抜けていた雪原の、その中央部が、何の前触れもなく、爆発した。


ドオオオオオオオオオオオンッ!!


凄まじい轟音と共に、雪と、土と、そして、ゴブリンの身体の破片が、空高く、舞い上がる。

指向性を持つように設計された魔法の地雷は、その爆発の力を、上方ではなく、水平方向へと、解き放った。無数の、鋼鉄の破片が、嵐のような勢いで、周囲のゴブリンたちを、薙ぎ払う。


先頭を駆けていた、数十体のゴブリンが、一瞬で、悲鳴を上げる間もなく、血塗れの肉塊へと変わった。


「なっ……!?」

「ぎゃああああ!?」


突然の、そして、理解不能な攻撃に、ゴブリンの群れに、初めて、混乱が生じた。

勢いが、わずかに、鈍る。

だが、ケイは、その、一瞬の隙を、見逃さない。


『――落とし穴、起動!』


彼が、第二のトリガーを引くと、混乱したゴブリンたちが、足元で、次々と、雪を踏み抜いた。

雪の下に、巧妙に隠されていた、落とし穴の蓋が、彼らの体重に耐えきれず、弾け飛ぶ。


「ギッ!?」

「ア、アアアアアッ!?」


吸い込まれるように、奈落へと落ちていく、ゴブリンたち。

その下で待ち受けていたのは、無慈悲な、鋼鉄の串。断末魔の叫びが、次々と、地底から響き渡り、すぐに、途絶えた。


『――弓兵部隊、セクター・ブラボーおよびチャーリーに、集中射撃! 敵の混乱を、拡大させろ!』


防壁の上から、エルフたちが放つ、正確無比な矢と、獣人たちが放つ、鋼鉄の鏃をつけた、重い矢が、雨のように、降り注ぐ。それは、無差別に射るのではない。ケイの《アナライズ》によって、敵が最も密集し、そして、混乱しているポイントへと、正確に、誘導された、外科手術のような、精密射撃だった。


第一防衛ラインは、もはや、ただの雪原ではなかった。

それは、ゴブリンたちにとって、一歩進むごとに、仲間が、謎の力によって惨殺されていく、悪夢の、処刑場と化していた。


「……よし。第一フィルター、正常に機能。敵の前衛、約三割を、無力化」


ケイは、脳内に表示される、戦況データを、冷静に確認しながら、呟いた。

彼の顔には、何の感情も浮かんでいない。ただ、システムが、設計通りに、稼働していることを確認する、管理者の顔があるだけだ。


だが、敵の数は、まだ、四百以上も残っている。

混乱しながらも、恐怖よりも、飢えと、狂気が上回った後続の部隊が、仲間たちの死体を踏み越えて、第二防衛ライン――『絶望の塹壕』へと、殺到しつつあった。


本当の、地獄は、まだ、始まったばかりだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに、フロンティア村の、存亡を賭けた、最初の防衛戦が、始まりました。ケイが設計した、冷徹で、しかし、合理的な、多層防衛システム。その、最初のフィルターが、見事に機能し、ゴブリンの先鋒に、痛撃を与えました。


しかし、敵の数は、まだ、圧倒的です。仲間たちの死体を踏み越えて進んでくる、ゴブリンの狂気。彼らは、次なる防衛ライン、『絶望の塹壕』と、そして、ガロウたちが待ち構える、最後の砦、フロンティア村の防壁へと、迫ります。


果たして、ケイたちは、この、圧倒的な数の暴力を、最後まで、凌ぎきることができるのでしょうか。


「面白い!」「防衛戦、熱い!」「ケイの指揮、かっこよすぎる!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、フロンティア村の、防壁の、強度となります!


次回、ついに、ガロウと、狼の戦士たちが、牙を剥く! どうぞ、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ