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第28節<前編>:デプロイメント:塩の洞窟への道

いつもお読みいただき、ありがとうございます。皆様からの応援、一つ一つが私の血肉となり、物語を紡ぐ糧となっております。

前回、フロンティア村の未来を左右する「塩」を求め、ケイは探索隊の結成を決断しました。

今回は、ついに彼らの旅が始まります。しかし、冬を間近に控えた『見捨てられた土地』は、これまで以上に危険な貌をしています。

新たな冒険の幕開け、どうぞお楽しみください。

『越冬プロジェクト』における最重要クリティカルパス――塩の確保。

そのミッションを遂行するための探索隊は、翌日の早朝、フロンティア村の門前に集結していた。

メンバーは、ケイの指名通り、プロジェクトリーダーであるケイ自身、医療兼知識担当のルナリア、そして現場指揮官兼最高戦力のガロウ。それに加え、ガロウが選抜した、森の地理と狩りに精通する腕利きの狼獣人戦士が三名。合計六名の、少数精鋭パーティーだ。


「……本当に、大将も行くのか?」

ガロウが、心配そうに、しかし、どこか誇らしげな表情でケイを見下ろした。

「あんたは、村の頭脳だ。万が一のことがあったら……」


「だからこそ、僕が行くんだ」

ケイは、その言葉をきっぱりと遮った。彼の小さな身体には、この遠征のために特別に生成した、軽くて丈夫な革鎧と、防水性のマントが身につけられている。

「今回のミッションの成否は、僕の《アナライズ》による、正確な情報分析にかかっている。僕が現場にいなければ、予測不能な事態インシデントに対応できない。それに……」


彼は、一度、言葉を切ると、集まった獣人たちを見渡した。

「リーダーが、最も危険な場所に、自ら赴かなくて、誰がついてくる?」


その言葉に、ガロウは、ぐっと息を呑んだ。

目の前の少年は、もう、彼が庇護すべき、か弱い子供ではなかった。自分たちが、命を懸けて従うに値する、真の「大将」だった。

「……へっ。分かったよ。あんたがそこまで言うなら、このガロウ、命に代えても、あんたを守り抜いてみせるぜ」


「頼りにしている、ガロウ」

ケイは、静かに頷いた。


ルナリアもまた、旅の支度を整えていた。彼女の背負う革袋は、様々な種類の薬草や、毒の小瓶で、パンパンに膨らんでいる。その真紅の瞳には、未知への不安と、ケイと共に困難に立ち向かうという、強い決意の色が宿っていた。


「……ケイ。絶対に、無茶はしないでくださいね」

「分かっている。リスク管理は、プロジェクトの基本だ」


そんな彼らを、村の全員が見送りに来ていた。

子供たちは、不安そうな顔で、ケイやルナリアの服の裾を掴んでいる。女性たちは、道中の安全を祈り、手作りの干し肉や木の実を、彼らの荷物に詰め込んでくれた。

戦士たちは、何も言わず、ただ、力強く、探索隊のメンバーたちの肩を叩いた。


その光景は、ケイの胸を、温かく、そして、少しだけ締め付けた。

これが、仲間を、故郷を、背負って旅立つということなのか。

前世では、決して経験することのなかった、重く、そして、誇らしい責任感。


「――では、行ってくる」


ケイの、短い号令を合図に、探索隊は、朝日が差し込み始めた森へと、その第一歩を踏み出した。

背後から、村人たちの、力強い声援が、いつまでも、いつまでも、追いかけてきた。



フロンティア村から、北西へ。

ケイが《アナライズ》で導き出した、岩塩鉱脈が存在する可能性が最も高い谷までは、直線距離で約五十キロ。道なき道を行くことを考えれば、片道三日以上はかかる、厳しい道のりだ。


旅の初日は、比較的、順調に進んだ。

彼らが普段、狩り場として利用している、慣れ親しんだ森。ケイの《アナライズ》が危険を事前に察知し、ガロウの知識が、最も安全で、効率的なルートを選択していく。

だが、二日目に入ると、森の様相は、一変した。


「……空気が、違う」

先頭を歩いていたガロウが、立ち止まり、鋭い嗅覚で、風の匂いを嗅ぎ分けた。

「……血と、獣の匂いが濃い。ここから先は、俺たちも、滅多に足を踏み入れねえ、危険な領域だ」


彼の言葉を裏付けるように、周囲の木々は、より太く、そして、天を突くように高く聳え立ち、昼間だというのに、森の奥は、薄暗い闇に包まれている。地面には、巨大な獣の足跡や、得体の知れない魔物の粘液の跡が、生々しく残っていた。


ケイの《アナライズ》もまた、ひっきりなしに、警告を発していた。


警告:前方300メートル、高濃度の魔素汚染エリアを検知。

警告:樹上に、擬態型の捕食性植物『デビルズ・スネア』の反応多数。

警告:地下に、大型の肉食性蟲型魔獣『サンドワーム』の振動を感知。


「……迂回する。右手の尾根沿いを進もう。少し遠回りになるが、安全性を優先する」

ケイは、脳内に構築した三次元マップと、リアルタイムで更新されるハザード情報を元に、即座にルートを修正する。

ガロウたちは、ケイの、まるで未来予知のような、的確な危険回避能力に、改めて舌を巻きながら、黙ってその指示に従った。


だが、彼らが直面した脅威は、魔物だけではなかった。

天候が、急速に悪化し始めたのだ。

空は、鉛色の雲に覆われ、気温が、肌を刺すように、急激に低下していく。

やがて、大粒の、氷のように冷たい雨が、彼らの身体を、容赦なく打ち付け始めた。


「くそっ、この時期に、こんな冷たい雨は、珍しい……!」

ガロウが、悪態をつく。

防水性のマントを身につけていても、体温は、容赦なく奪われていく。特に、まだ身体の小さいケイとルナリアにとっては、この急激な体温の低下は、命に関わりかねない。


「……このまま進むのは、危険だ。近くに、雨を凌げる場所を探す」

ケイは、即座に判断を下した。

彼は、再び《アナライズ》で、周囲の地形をスキャンする。

そして、数百メートル先に、小さな洞窟らしき、岩の裂け目があることを発見した。


一行は、ずぶ濡れになりながらも、必死に歩を進め、ようやく、その洞窟へとたどり着いた。

幸い、洞窟は、雨風を凌ぐには十分な広さがあり、内部は乾いていた。

彼らは、濡れたマントを脱ぎ、小さな焚き火を起こして、冷え切った身体を温め始めた。


「……すまねえ、大将。俺の、判断が甘かった」

ガロウが、悔しそうに、自分の拳を握りしめた。

「この時期の、山の天候を、なめていた。あんたたちを、危険な目に……」


「君のせいじゃない、ガロウ」

ケイは、静かに首を横に振った。

「予測不能なリスクは、どんなプロジェクトにもつきものだ。重要なのは、そのリスクが発生した時に、いかに迅速に、そして、的確に対応するかだ。僕たちは、正しい判断をした。それだけだ」


その、どこまでも冷静な言葉に、ガロウは、救われたような顔をした。

ルナリアは、黙って、温かい薬草茶を淹れ、皆に配っていく。その、ささやかな優しさが、疲弊した一行の心を、温かく癒していった。


雨は、夜になっても、降り続いた。

彼らは、交代で見張りを立てながら、洞窟の中で、束の間の休息を取ることにした。


その、深夜のことだった。

見張りに立っていた、若い狼獣人の戦士が、息を殺して、眠っているケイの肩を揺さぶった。

「……大将。……何か、来ます」


ケイは、即座に目を覚ました。

洞窟の外では、雨音が、少し弱まっている。だが、その雨音に混じって、微かに、しかし、確実に、地面を揺るがすような、重い足音が聞こえてくる。

一つではない。複数だ。


ケイは、音もなく起き上がると、洞窟の入り口から、そっと外を窺った。

闇と、雨に煙る森の中。

二つの、巨大な影が、ゆっくりと、こちらへと近づいてくるのが見えた。

その影は、時折、鼻を鳴らし、地面の匂いを嗅いでいるようだった。


ケイは、即座に、その影に《アナライズ》を実行した。


▼ 対象:アーマー・ボア(2体)

┣ 分類:魔獣(縄張り意識が極めて強い)

┣ 脅威レベル:C+

┣ 特性:

┃ ┣ 全長約4メートル。巨大な猪型の魔獣。

┃ ┣ 岩のように硬い皮膚と、鋼鉄さえも貫く、巨大な牙を持つ。

┃ ┣ 突進力は絶大で、大木さえも容易にへし折る。

┃ ┗ 弱点:視覚はあまり良くないが、嗅覚と聴覚が非常に鋭い。首の後ろの、装甲の薄い部分が、唯一の急所。

┣ 状況分析:

┃ ┗ つがいのアーマー・ボア。この一帯を、自らの縄張りとしている。

┃ ┗ 我々の焚き火の匂いを嗅ぎつけ、縄張りを侵す、侵入者と見なして、排除しようとしている可能性:98.2%。


「……まずいな」

ケイは、静かに呟いた。

アーマー・ボア。一体でも、熟練の戦士が、数人がかりで、ようやく仕留められるかどうか、というレベルの、強力な魔獣。

それが、二体。

しかも、ここは、狭い洞窟の前。逃げ場は、ない。


ガロウも、ルナリアも、そして、他の戦士たちも、既に目を覚まし、臨戦態勢に入っていた。

彼らの顔には、絶望的なほどの、緊張の色が浮かんでいる。

真正面からぶつかれば、こちらに、勝ち目はない。


だが、ケイの頭脳は、この、絶望的な状況下でさえ、冷静に、最適解を、模索していた。

彼は、脳内で、周囲の地形、敵の弱点、そして、自分たちの手持ちのリソースを、高速で組み合わせ、一つの、活路を、見出した。


それは、あまりにも、大胆で、そして、危険な、賭けだった。


「……ガロウ」

ケイは、振り返り、狼獣人族のリーダーに、静かに、しかし、有無を言わせぬ口調で、告げた。


「――今から、僕の言う通りに動いてくれ。コンマ一秒でも、ずれれば、全員、死ぬ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

塩を求める旅は、早くも最大の危機を迎えました。相手は、強力な魔獣アーマー・ボアが二体。絶体絶命の状況です。

しかし、ケイの瞳には、まだ諦めの色はありません。彼が導き出した、危険な賭けとは、一体何なのでしょうか。

手に汗握る展開のまま、次回に続きます!

「面白い!」「どうなっちゃうの!?」「ケイの作戦に期待!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、彼らに活路を切り拓く力となります!

次回の更新は、本日12時半頃です。絶対にお見逃しなく。

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