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第175節: 魔法の繊維(アーク・テキスタイル)

いつもお読みいただきありがとうございます! 『プロジェクト・インディペンデンス』第二弾。 紙の次は『布』。 ギルドの粗悪な麻布に頼る生活はもう終わりです。 ケイの知識とエリアーデの魔法が融合する時この異世界に存在しなかった奇跡の繊維が生まれます。

製紙工場が本格的な稼働を始めたその数日後。 ケイは次なるプロジェクトのキーマンたちを庁舎の会議室へと招集していた。 今回のメンバーは工務大臣のドゥーリン、軍務大臣のガロウ、そして宰相補佐官のエリアーデ。 アーク連邦の最強の頭脳と技術が再び集結した。


「さて」


ケイは机の上に一枚のゴワゴワとした灰色の布切れを置いた。 それは先日の経済封鎖の直前に商人から購入していた、この大陸で一般的に流通している安価な麻布だった。


「これが僕たちの今直面している第二の問題だ」


「布か」


ガロウがその布切れを指でつまみ顔をしかめた。


「確かにゴワゴワして肌触りは最悪だ。俺たち狼獣人族は毛皮があるからまだマシだが、肌の弱い兎人族や猫の連中にとっては苦痛だろうな」


「それだけではない」


エリアーデもまたその布をエルフとしての美的感覚が許さないといった表情で見つめている。


「この染色、あまりにも酷い。美しさの欠片もない。こんな色の服を着て生活するなど私には耐えられませんわ」


その二人の真っ当な意見に「その通りだ」とケイは頷いた。


「品質もデザインも最悪。おまけにギルドのせいでこれさえも手に入らなくなった。ならばどうするか? 答えは紙の時と同じだ。僕たちの手でこれよりも遥かに優れた『最強の布』を創り出す」


彼は黒板に次なるプロジェクトの名前を書き出した。 『アーク・テキスタイル・プロジェクト』。


「だが小僧、問題は原料だ」


ドゥーリンがその無骨な指で机を叩いた。


「紙は木という無限の原料があった。だが布はどうする? この都市に綿花は育たん。羊もいない。麻だけではあのゴワゴワの布しか作れんぞ」


「その原料こそがこのプロジェクトの鍵だ」


ケイはニヤリと笑った。 彼はガロウへと向き直る。


「ガロウ。君の狩猟部隊が時折持ち帰ってくるあの厄介な魔物『ロック・スパイダー』を覚えているか?」


「ロック・スパイダーだと?」


ガロウの顔が一瞬引き攣った。


「ああ忘れるものか。奴らの糸は鋼鉄の矢でさえ弾き返す厄介な……ん? 待て大将。まさか」


「そのまさかだ」


ケイは頷いた。


「あの糸、あれこそが僕たちの新しい繊維の原料だ。《アナライズ》によればあの糸の強度は鋼鉄の五倍、重さは十分の一。これを繊維として加工することができれば、僕たちはこの大陸のどの鎧よりも強靭で軽い『戦闘服』を作ることができる」


「ば馬鹿な!」


ガロウが叫んだ。


「あんな化け物の糸をどうやって繊維に……」


「そこでドゥーリン殿の出番だ」


ケイはドワーフの工匠へと設計図の束を差し出した。


「これは『自動紡績機』の設計図だ。水車の動力を利用し、ロック・スパイダーの糸を安全に効率的に巻き取り、一本の強靭な糸へと紡ぎ上げるための機械だ」


ドゥーリンはそのあまりにも複雑で精巧な歯車の設計図を食い入るように見つめ、その髭の奥で楽しそうに笑った。


「フン。水車に製粉機、今度は糸車か。小僧、貴様はわしを何でも屋と思っておるな。だがいいだろう。その挑戦受けてやるわい」


「だがそれだけではない」


ケイはもう一つの原料を指し示した。


「戦闘服だけでは市民の生活は豊かにならない。僕たちには日常的に着るための快適な布も必要だ。そのための原料がこれだ」


彼が差し出したのは一本の銀色に輝く植物の茎だった。


「これは?」


エリアーデがその茎を手に取りその中に流れる清浄な魔力を感じ取った。


「『銀麻シルバー・フラックス』。この土地の高魔素帯にしか自生しない特殊な亜麻だ。その繊維は通常の麻とは比較にならないほどしなやかで高い魔力伝導率を持っている」


「そしてその魔力伝導率の高さこそがエリアーデ殿、あなたの出番だ」


ケイはエルフの姫君へと向き直った。


「この銀麻の糸にあなたの『精霊染色』の技術を応用してほしい」


「精霊染色?」


「ああ。ただ色を染めるだけではない。糸そのものに精霊の力を『付与エンチャント』するんだ。例えば風の精霊の加護を与えれば風を通さない防寒着ができる。水の精霊の加護なら水を弾くレインコートだ。火の精霊なら燃えにくい作業着。土の精霊なら汚れにくい子供服。どうだ? 素晴らしいと思わないか?」


そのあまりにも夢のような提案に、エリアーデの翡翠の瞳がこれまでに見せたことのないほどの輝きを放った。 エルフの神聖な魔法をただの日用品に応用する。それは彼女の長老たちが聞けば卒倒しそうな冒涜的な発想だが、それによってこの都市に住む全ての仲間たちが笑顔になる。 その光景を想像しただけで彼女の心は歓喜に打ち震えていた。


「やってみます。いえ、やらせてくださいケイ様!」


こうしてアークシティの繊維プロジェクトは始動した。 ガロウが命懸けでロック・スパイダーを狩り、ドゥーリンが神業で自動紡績機を組み上げ、そしてエリアーデがその魂で奇跡の糸を染め上げる。 それはアーク連邦の最強のドリームチームにしかできない究極の共同作業だった。

紙に続き『布』の革命も始まりました! 魔物の糸で作る戦闘服、そしてエルフの魔法が込められた日常着。 まさにファンタジーの世界ならではの最強のテキスタイルが生まれようとしていますね。 さて次回はこれらの新産業がアークシティの住民たちの生活と意識をどう変えていったのか。 経済的自立への確かな第一歩が描かれます。 面白いと思っていただけましたらぜひブックマークや下の☆での評価をいただけますと執筆の励みになります!

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― 新着の感想 ―
一気に読んでしまいました! とても面白いです。主人公が全て創るのではなく、あくまで設計して、知恵を与えて獣人達の手で成し遂げさせるという主人公の1人だけの力で解決しないところがすごく大好きです。 続き…
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