第172節: 武器なき戦争
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第八巻『経済戦争』編、その反撃の狼煙が上がります。
ギルドの卑劣な経済封鎖によって混乱に陥ったアークシティ。
その絶望的な状況の中、我らがリーダーケイがついに立ち上がります。
彼が提示する驚くべきカウンタープラン。
どうぞその鮮やかな逆転劇の序章をお楽しみください。
アークシティ庁舎第一会議室。
そこは数時間前までの活気に満ちた空気とは打って変わり、重く焦燥に満ちた沈黙に支配されていた。
緊急招集された最高評議会のメンバーたち――ガロウ、ドゥーリン、エリアーデ、ルナリア、リリナ、ハク、そして各部族の長老たち。
彼らの顔には都市の混乱を目の当たりにした動揺と、差し迫る危機への焦りの色が隠せない。
「大将どういうことだ」
ガロウがその苛立ちを隠そうともせず口火を切った。
「塩がねえ。布もねえ。商人どもがぱったりと来なくなった。まさかとは思うが、こいつはあのリオニスの連中の仕業か!?」
「いや」
そのガロウの問いを遮ったのは、上座に座るケイの冷徹な声だった。
彼はその青い瞳で集まった全ての仲間たちの顔を見渡した。
「これはリオニスではない。それよりももっと厄介で、狡猾な敵の仕業だ」
彼は立ち上がると、黒板に一つの名を書き記した。
『ザルツガルド商業ギルド』。
その名にクロスロードでの交渉を経験したエリアーデとリリナの顔がこわばる。
「やはり彼らでしたか」
エリアーデが悔しそうに呟いた。
「ああ。僕の読みが甘かった」
ケイは自らの失策を潔く認めた。
「僕は彼らをただの利益集団だと過小評価していた。だが彼らは違った。彼らはこの大陸の経済という血流を支配する一つの『帝国』だったんだ。そして僕たちは、その帝国の逆鱗に触れてしまった」
彼はこの一連の事態の全ての構造をリーダーたちに説明した。
商人バートの報告、ギルド上層部の決断、そして今行われているこの経済封鎖という名の攻撃。その全ての狙いはただ一つ。
「彼らの狙いは僕たちの殲滅ではない」
ケイはきっぱりと断言した。
「彼らの狙いは僕たちの『経済的な従属』だ。我々を飢えさせ渇かせ、その喉元にナイフを突きつけ、あのドゥーリン殿の鋼の技術もルナリアのポーションの技術も、その全てを二束三文で差し出させる。僕たちを彼らの富を生み出すためだけの便利な『奴隷工場』に変えること。それこそが奴らの真の狙いだ」
そのあまりにも醜悪で現実的な敵の戦略に、ガロウの拳がわなわなと震えた。
「ふざけやがって! 奴ら商人のやることなすこと、あのクソ貴族どもと何も変わらねえじゃねえか!」
「うむ。反吐が出るわい」
ドゥーリンもまたその白い髭の奥で、心底軽蔑したように吐き捨てた。
議場は怒りと、それ以上にどうしようもない無力感に包まれた。
敵は軍隊ではない。剣も槍も通用しない。
だが彼らは確かにアークシティの命の根幹を握っている。
このままではジリ貧だ。いずれ僕たちは彼らの前に膝を屈するしかないのか。
その絶望的な空気を切り裂いたのは、ケイの静かな、しかし絶対的な自信に満ちた声だった。
「――だから僕は宣言する」
彼は黒板に大きくこう書き記した。
『――これは、戦争だ』
「剣も魔法も使わない。血も涙も流れない。だがその実態は、リオニス王国とのあの防衛戦よりも遥かに残酷で、遥かに重要な『武器なき戦争』だ」
そのあまりにも鮮烈な言葉に、リーダーたちの瞳に再び光が宿った。
「だが大将」
エリアーデが冷静に問いかけた。
「武器がなければどう戦うのですか? 我々には彼らの生命線を断ち切る手段がありません。ですが彼らは我々の生命線を握っている。あまりにも非対称すぎます」
「その通りだ」
ケイは頷いた。
「だから僕たちは新しい武器を創る。いや、既に持っている僕たちの最強の武器を使うんだ」
「俺たちの武器?」
ケイは不敵に微笑んだ。
「彼らは僕たちから『買う』ことをやめた。ならば答えは簡単だ。僕たちが彼らから『買う』必要がない世界を創ればいい」
彼は黒板に次なるプロジェクトの名前を書き出した。
『プロジェクト・インディペンデンス(独立計画)』。
「――彼らの狙いが僕たちの『経済的な従属』にあるのなら、僕たちのカウンタープランはただ一つ。『完全なる経済的自立』の達成だ」
そのあまりにも壮大で無謀な宣言に、リーダーたちは息を呑んだ。
「だが大将!」
ルナリアが悲痛な声を上げた。
「塩はどうするのですか!? 塩だけはこの土地では!」
「ああ。だから探しに行く」
ケイは即座に答えた。
「リリナの斥候部隊は既にその任務に移行している。必ず見つけ出す。この大陸のどこかに必ずあるはずの新しい塩の供給源を」
「だがそれだけでは足りない!」
ケイの声に熱がこもる。
「僕たちの生活はあまりにも彼らの製品に依存しすぎている。布も紙も、そして生活の雑多な道具も。それら全てを今この瞬間から、このアークシティの内部で自給自足できる体制へと切り替える!」
彼はその恐るべきカウンタープランの全貌を語り始めた。
「――国家の総力を挙げて新たな国内産業の育成を開始する!」
その言葉こそが、ザルツガルド商業ギルドの傲慢な鼻をへし折るアーク連邦の反撃の狼煙。
経済戦争の本当の火蓋が今、切って落とされたのだ。
ついにケイの口から反撃の狼煙が上がりました。
『武器なき戦争』。そしてその勝利条件は『完全なる経済的自立』。
あまりにも壮大なプロジェクトが今、始まろうとしています。
次回、その具体的な第一弾。
『製紙プロジェクト』と『繊維プロジェクト』が始動します。
ケイの前世の知識が再びこの異世界に革命を起こす!
どうぞご期待ください。
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