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第168節: 指導者と補佐官

いつもお読みいただき、ありがとうございます! ついに第七巻『外交戦線』、その最後の一節となりました。 歴史的な外交的勝利を収め、アークシティは祝賀の熱狂に包まれています。 今回は、その熱狂の中心から少し離れた場所で紡がれる、静かな、しかし重要な物語。 我らがリーダー、ケイと、彼のために全てを捧げた宰相補佐官エリアーデ。 二人の絆が今、新たなステージへと進みます。 それでは第七巻最終話、第百六十八話、お楽しみください。

その夜、アークシティは建国式典の再来とも言えるほどの祝賀の熱狂に包まれていた。 中央広場には巨大な篝火が焚かれ、ガロウがこの日のために特別に仕留めてきた巨大な森猪の丸焼きが豪快に振る舞われている。ドゥーリンがこっそり持ち出したとっておきのドワーフエールが樽で開けられ、獣人たちの陽気な歌声が夜空に響き渡っていた。


その熱狂の渦の中心にいたのは、間違いなく今日凱旋した三人の英雄たちだった。 ボルツは師であるドゥーリンにその無骨な手で頭をぐしゃぐしゃに撫で回され、照れくさそうに、しかしこれ以上ない誇らしげな顔で故郷の酒を煽っている。 リリナは猫獣人の子供たちに囲まれ、クロスロードでの武勇伝(そのほとんどは彼女が面白おかしく脚色したものだが)を身振り手振り面白おかしく語り聞かせていた。


そしてエリアーデは、各部族の長老たちから代わる代わる賛辞の言葉を浴び、その全てに完璧な外交官としての笑みで応えながらも、その翡翠の瞳は群衆の中の一つの影を探していた。 だが、その影の主――ケイ・フジワラの姿は、いつの間にかその祝賀の輪から消えていた。


(また、あそこですのね)


エリアーデはそっとその喧騒の輪から抜け出すと、一つの場所へと向かった。 庁舎の最上階。最高指導者執務室のバルコニー。 そこにはやはり、ケイが一人静かに立っていた。 彼は手すりに肘をつき、眼下に広がる自らが創り上げた理想郷の、その温かい光の海を静かに見下ろしていた。 その小さな背中は、この二百人を超える国家の全ての未来を背負う、リーダーの孤独な背中だった。


「ケイ様」


エリアーデが静かに声をかける。 ケイは驚くことなくゆっくりと振り返った。


「ああ、エリアーデか。君が主役だというのに、こんな所にいていいのか?」


「それはこちらの台詞ですわ」


エリアーデはその美しい顔に優雅な笑みを浮かべ、彼の隣に並び立った。 彼女の手にはルナリアが特別に用意してくれたエルフ族の故郷の果実酒が、二つのガラスの杯に注がれている。 彼女は、その一つをケイに差し出した。


ケイはそれを受け取り、静かに杯を合わせた。 カチン、とドゥーリンが作り上げた硬質ガラスの澄んだ音が夜空に響く。


「まずは乾杯を」


ケイが言った。


「アーク連邦全権大使、エリアーデ・ウィンドソング。君の完璧な仕事に」


「いいえ」


エリアーデは静かに首を横に振った。


「この勝利は全て、あなた、ケイ様の描いた完璧な設計図のおかげですわ。わたくしはただ、その脚本の上で踊っただけの操り人形に過ぎません」


「謙遜するな」


ケイはその青い瞳で彼女の翡翠の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「僕は確かに脚本を書いた。だが、それをあれほど完璧に演じきり、さらには脚本にはなかったあのアドリブ(リオニス侯爵への水ぶっかけ)まで加えて観客ゴルディアの心を完全に掴んでみせたのは、君の才能だ。君でなければ、この任務は決して成功しなかった」


そのあまりにも真っ直ぐな賛辞。 そして彼が、自分のあの無礼な行動さえも全てお見通しだったという事実。 エリアーデの白い頬が、月明かりの下でさえ分かるほどかすかに赤く染まった。


「改めて礼を言う。ありがとう、エリアーデ。君は僕の期待を遥かに超える最高の仕事をしてくれた」


ケイはそう言うと、杯の果実酒を一口、口に含んだ。


エリアーデは何も言えなかった。 彼女の胸の奥底から、これまでに感じたことのない温かい、そして少し切ない感情が込み上げてくるのを感じていた。 エルフとして千年を生きる自分が、今このたった十歳そこそこの人間の少年のたった一言に、こんなにも心を揺さぶられている。 その事実が彼女を戸惑わせ、そして同時に喜ばせていた。


「光栄ですわ、ケイ様」


彼女はようやくそれだけを絞り出すと、自らも杯を口に運んだ。 甘酸っぱい故郷の味が、彼女の心の緊張を解きほぐしていく。


「ですが、わたくし…少し怖かったのです」


「怖い?」


「はい」


彼女は眼下の熱狂的な宴を見下ろしながら、その胸の内を吐露した。


「あのクロスロードという都市…あそこは欲望の渦でした。誰もが嘘と欺瞞の仮面を被り、互いを出し抜くことだけを考えている。それに比べて」


彼女の視線が、宴の中で豪快に笑い転げるガロウやボルツ、そして子供たちと無邪気に戯れるリリナの姿を捉えた。


「このアークシティは、なんと真っ直ぐで、なんと温かい場所なのでしょう」


彼女はケイへと向き直った。 その翡翠の瞳には、深い尊敬と、そしてそれ以上の熱を帯びた想いが浮かんでいた。


「わたくし、外の世界を知ったからこそ、改めて確信いたしました。あなたが創ろうとしているこのアーク連邦という理想郷、その理念の気高さと尊さを。そしてわたくしは、そのあまりにも眩しい理想を、この外の汚れた世界から守るための『盾』になりたい。そう、心の底から願ったのです」


その魂からの誓い。 ケイは静かにそれを受け止めた。


「エリアーデ。君はもう僕の盾ではない」


「え?」


「君は、僕と同じ場所に立つ、最高の『パートナー』だ」


ケイはそう言うと、残っていた果実酒を一気に飲み干した。 そして彼は、この世界に来て初めて見せるような、穏やかで、そして優しい笑みを浮かべた。


「これからもよろしく頼む。宰相補佐官殿」


その言葉と、その笑顔。 それがエリアーデの心の最後の城壁を完全に打ち破った。 彼女は自らの心臓が、エルフの悠久の時にはそぐわない激しい鼓動を打つのを感じていた。 二人の間にはもはや、指導者と部下という一線は存在しなかった。 そこにあるのは、同じ理想を見つめ、同じ未来を歩むことを誓った二人の同志としての、そしてそれ以上の何かが芽生え始めた、強固な信頼の絆だけだった。


――第七巻・了――

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました! これにて第七巻『外交戦線』は堂々の完結となります。 エリアーデたちの華々しい外交的勝利。 そして、その勝利がもたらしたケイとエリアーデの新しい絆。 二人のこれからの関係にも注目ですね。


さて、次回より物語はいよいよ第八巻『経済戦争』へと突入します! アーク連邦はゴルディア王国という強力な盾を手に入れました。 だが、そのあまりにも目立ちすぎた行動は、この大陸のもう一つの巨大な支配者『ザルツガルド商業ギルド』の逆鱗に触れることになります。 彼らが仕掛けてくる次なる戦い。 それは剣でも魔法でもない『経済』という見えざる戦争。 果たしてケイは、この新しい戦場でどう戦うのか。 どうぞご期待ください。


「面白い!」「第七巻、完結お疲れ様!」「エリアーデ、ヒロイン力高い!」「経済戦争楽しみ!」など思っていただけましたら、ぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価を何卒よろしくお願い申し上げます。 皆様からの応援が、作者が第八巻の難解な経済戦争を描き切るための何よりの力となります!

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