第165節: 欲望の奔流
いつもお読みいただきありがとうございます! 第七巻『外交戦線』ついにクライマックスです。エリアーデ様の圧巻の大逆転勝利でした。 ケイ様が仕込んでいた秘密兵器が見事に火を噴きましたね。リオニスの卑劣な罠を逆手に取り、アーク連邦の正当性を大陸中に知らしめました。 さて外交任務は目的を果たしました。彼らはついに故郷アークシティへと凱旋します。ですがその前に……。
嵐は去った。 だが宿屋『銀の天秤』の一室に残された血の匂いと五つの死体、そして無様に連行されていくバルテルミー侯爵の姿は、クロスロードの治安部隊の兵士たちの脳裏に強烈に焼き付いた。
アーク連邦。 その未知の亜人の国家。 その全権大使であるエルフの女性は、ただ美しいだけの姫君ではなかった。 彼女は冷徹な頭脳と鋼の意志を持ち、そして敵対する者には一切の容赦をしない、恐るべき外交官だった。
隊長のエリアーデに向けられる視線はもはや侮蔑ではなかった。 それは恐るべき新しいプレイヤーの誕生を目の当たりにした畏敬の念そのものだった。
「ふう」
リリナがダガーの血を振り払い、音もなく影の中に戻っていく。 ボルツもまた興奮冷めやらぬ様子で、その巨大なウォーハンマーを肩に担ぎ直した。
エリアーデはその惨状の中心で静かに息を吐いた。 彼女は治安部隊の隊長へと向き直ると、完璧な外交官の笑みを浮かべて一礼した。
「隊長殿。この度の迅速かつ公正なご対応、心より感謝申し上げます。この部屋の修繕費用および迷惑料は、後ほど我らがアーク連邦が全額負担させていただきますわ」
「い、いや……。こちらこそ見苦しいところを。このクロスロードの名において、侯爵閣下の非礼を謝罪いたします」
隊長は慌てて兜を脱ぎ、その額の汗を拭った。
事件の処理が終わり、エリアーデたちが宿屋のロビーへと戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた。 ロビーが人で埋め尽くされているのだ。 彼らは皆、このクロスロードで暗躍する各国の大商人たちだった。
昨夜のサロンでの一件。そして今夜のこの暗殺未遂事件。 その二つの衝撃的なニュースが、彼らの商人の魂に火を点けたのだ。
バルテルミー侯爵が捕まった。 リオニス王国が公然と恥をかかされた。 そして何よりも、あのアーク連邦という国家は本物だ。 彼らはリオニスに屈しないどころか、彼らを返り討ちにするほどの「力」を持っている。 そして彼らは、あの『機械式時計』と『魔導銃』という規格外の宝を持っている。
沈黙は一人の恰幅のいい商人によって破られた。
「ア、アーク連邦大使閣下!」
その声が引き金だった。
「大使閣下! あの時計を! あの時計をどうか私共に!」
「魔導銃だ! あの銃を一丁でいい! 金貨千枚出そう!」
「いや、我らドワーフの国ゴルディアとの盟約を忘れてもらっては困るな!」
ギムレク(ドルゴ)の姿さえそこにはあった。
欲望の奔流。 ロビーは一瞬にして彼らの剥き出しの欲望で満たされた。 誰もがこの新しい宝の山を独占しようと必死だった。
エリアーデはその光景に一瞬たじろいだ。 だが彼女はすぐにケイの顔を思い浮かべた。
(『彼らは必ず来る。だが決して売るな。安売りは我らの価値を下げるだけだ』)
彼女は背筋を伸ばし、その翡翠の瞳に再び絶対零度の光を宿らせた。
「皆様。お静まりになって」
凛とした声が響き渡る。
「わたくしどもの商品にご興味をお持ちいただき光栄ですわ。ですがあいにく、わたくしどもの任務はこれにて終了となります」
「なっ!?」
「任務終了だと!?」
商人たちから悲鳴が上がる。
「ええ。わたくしどもは明日このクロスロードを後にし、故郷アークシティへと帰還いたします」
「そ、そんな! どうか! どうかその品を!」
「ですが」
エリアーデはそこで完璧な笑みを浮かべた。
「わたくしどもの門戸は常に開かれております。アークシティは『公正な取引』を望む全ての商人を歓迎いたしますわ」
彼女は地図を取り出した。
「道は整備されております。リオニス王国の許可など必要ありません。真の『勇気』と『誠意』をお持ちの方だけが、我らの都市へとたどり着くことができるでしょう」
彼女はそう言い残すと、リリナとボルツを伴い、その欲望の渦の中をモーゼの海のように割って進み、自室へと戻っていった。 後に残された商人たちはただ呆然と立ち尽くす。 そして彼らの脳裏には、『アークシティ』という未知の黄金郷への地図が強烈に焼き付いていた。
アーク連邦使節団。 彼らはこのクロスロードでの全ての任務を完璧に果たし尽くした。 彼らがこの都市に投じた一石は、彼らが去った後もなお巨大な波紋となって、大陸全土へと広がっていくことになる。
エリアーデ様、圧巻の外交術でした! 最後の最後まで主導権を握り続け、商人たちの欲望を最大限に煽り、そして完璧な形でアークシティへと誘導しましたね。 さて使節団はついに故郷へと帰還します。彼らの帰りを待つケイ。そして彼らを迎える仲間たち。 第七巻『外交戦線』堂々のクライマックスです。 面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや、下の☆での評価をいただけますと、執筆の励みになります!




