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第163節: 闇夜の死闘

いつもお読みいただきありがとうございます! 第七巻『外交戦線』、その血塗れの一夜。 前回、リオニス王国の私怨に燃えるバルテルミー侯爵が、ついに禁断の暗殺者を放ちました。 エリアーデの寝室になだれ込む死の影。 しかし、その前にはアーク連邦が誇る二人の若き守護者が立ちはだかります! リリナとボルツ。二人の死闘が今、始まります!

「――死ねッ! 獣の姫よ!」


漆黒の影が三方から同時にエリアーデのベッドへと殺到する。 窓から二人、破壊された扉から三人、合計五人。 その連携は完璧だった。訓練され尽くしたプロの暗殺者だ。 彼らの毒の刃が交差し、エリアーデの華奢な身体を瞬時にミンチに変える。 ――そのはずだった。


「――遅い」


その氷のように冷たい呟きが暗殺者たちの耳元で響いた瞬間、最初に窓から飛び込んできた男の視界が暗転した。 彼が最後に認識したのは、自らの喉笛を音もなく切り裂いていく黒い影と、その影の中で妖しく光る二つの金色の瞳だった。


「なっ!?」


二人目の暗殺者が仲間の異変に気づき振り返る。だが彼もまた間に合わない。 天井からまるで重力を無視したかのように降り注いできたもう一つの影、リリナ・テールウィップ。 彼女の両手に握られた黒色鋼のダガーが、無慈悲な逆手となって暗殺者の両の腎臓を正確に貫いていた。


「二人完了」


リリナは血振りもせず音もなく床に着地した。 その金色の瞳にもはやいつものいたずらっぽい光はない。 そこにあるのは、自らの主君の命令に従い、ただ淡々と害虫を駆除する冷徹なハンターの光だけだった。


「き、貴様ァ! 猫ふぜいがァッ!」


残った三人の暗殺者たちがようやく事態を飲み込んだ。 彼らはターゲットをエリアーデからこの恐るべき猫の少女へと変更し、三方から同時に襲いかかった。 連携の取れた完璧な包囲網。 いかにリリナが素早くとも、この三方向からの同時攻撃を捌き切ることは不可能。 ――かに思われた。


「――させんッ!!!!」


その三人の刃がリリナの華奢な身体を捉える寸前、彼らの間に一つの巨大な岩塊が割り込んだ。 いや岩塊ではない。 隣の部屋の壁を粉々に突き破って現れた、鋼鉄の胸当てと巨大なウォーハンマーを構えた若きドワーフ、ボルツ・ストーンハンマー。


ガギンッ! ガギンッ! ガギンッ!


三本の毒の刃が、ドゥーリンが鍛え上げた完璧な鋼鉄の胸当てに叩きつけられ、甲高い悲鳴を上げて弾き返された。 暗殺者たちの手が痺れる。


(馬鹿な!? 俺たちの渾身の一撃が、傷一つつけられんだと!?)


「師匠の教え、その一!」


ボルツはその無骨な顔に獰猛な笑みを浮かべ唸った。


「――『防御とは耐えることではない。叩き潰すための準備だ』ッ!!!!」


彼はその巨大なウォーハンマーを床すれすれに薙ぎ払った。 その狙いは敵の身体ではない、足元だ。 ドワーフの圧倒的な膂力が込められた一撃。 それは宿屋の脆い木の床を粉々に粉砕し、三人の暗殺者たちの体勢を根こそぎ奪い去った。


「ぐっ!?」


足場を失いバランスを崩す暗殺者たち。 その一瞬の無防備な隙を、リリナが見逃すはずがなかった。


「――お見事ボルツ!」


彼女の黒い影が再び舞う。 宙に浮いた三つの身体。その一つ一つの心臓の位置を正確に貫いていく二本の黒い牙。 断末魔の叫びを上げる暇さえなく、三人の暗殺者たちは物言う肉の塊となって床に崩れ落ちた。


戦闘は開始からわずか十数秒で終わっていた。 後に残されたのは、血の鉄臭い匂いと破壊された扉、壁、そして五つの死体だけ。


「ふう」


リリナはダガーの血を振り払いそっと息を吐いた。


「少し騒ぎすぎましたかね、エリアーデ様」


「ええ、まったくですわ」


ベッドからゆっくりと身を起こしたエリアーデは、そのあまりにも一方的な蹂躙劇をただ呆然と見つめていたが、すぐに我に返った。 彼女のエルフとしての鋭い耳が、宿屋の外からけたたましい笛の音と多くの鎧の足音が、こちらへと猛スピードで近づいてくるのを捉えていた。


「――ボルツ、リリナ! 来ます! クロスロードの治安部隊です!」


その言葉と同時に、破壊された扉の向こう側、廊下から荒々しい声が響き渡った。


「何事だ! この部屋か! 全員武器を捨てて出てこい! 抵抗すれば容赦なく射殺するぞ!」


十数人の重装備の兵士たちがクロスボウを構え、血の匂いが充満する部屋の入り口を完全に包囲していた。 その隊長らしき男は部屋の中の惨状――五つの死体とその中央に血塗れの武器を構えたまま立つ三人の亜人――を認めると、その目を険しく細めた。


「これは一体どういうことだ、アーク連邦の大使殿。公然たる殺人か? 中立都市の法を破るとは、いい度胸だ」


そのあまりにも高圧的で、そして最初からこちらを犯人だと決めつけた物言い。 リリナとボルツが再び戦闘態勢に入ろうとするのを、エリアーデは手で制した。


(落ち着いて。これこそがケイ様が予測していた『第二の罠』!)


彼女はここで武力に訴えればどうなるかを理解していた。 アーク連邦は「外交の場で殺人を犯した野蛮な国家」としてこのクロスロードから追放される。 それこそがリオニス王国の真の狙い。 彼女は絶体絶命の窮地に立たされたのだ。

リリナとボルツ、お見事でした! アークが誇る若き守護者の完璧な連携でしたね。 しかし、敵の本当の罠はこの後に待っていました。 暗殺者を返り討ちにした結果、今度はクロスロードの治安部隊に殺人犯として包囲されてしまうという最悪の事態。 この絶体絶命のピンチ。 今こそエリアーデの、アーク連邦の真の「外交力」が試される時です。 面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや下の☆での評価をいただけますと執筆の励みになります!

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