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第161節: ギルドの影

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 第七巻『外交戦線』激動の中盤です。 前回、エリアーデは見事にゴルディア王国との秘密同盟を締結しました。ケイ様の描いたシナリオが今、大陸の勢力図を塗り替えようとしています。 しかし、これほどの大きな動きをこの大陸で見過ごす者たちではありません。 アーク連邦の前に、新たな、そして最も厄介な「影」がその姿を現します。

嵐のような交渉が去った。ゴルディア王国のあの岩塊のようだった宰相補佐官ギムレクが、満足げにそしてどこか畏敬の念さえその瞳に宿して去っていった後、部屋には張り詰めた糸が切れたかのような深い静寂が訪れた。


「やりましたねエリアーデ様!」


その沈黙を破ったのはボルツの興奮した声だった。


「すげえ すげえや! あの石頭のじじいどもに俺たちのいや大将の力を認めさせちまった!」


彼はまるで自分のことのようにその無骨な拳を握りしめ喜んでいる。


影の中から音もなくリリナも姿を現した。 その金色の猫の瞳は普段のいたずらっぽさとは違う深い尊敬の色に輝いていた。


「お見事でしたエリアーデ様。ケイ様の描いたシナリオ通り。いえ、それ以上の完璧な交渉でしたわ」


その二人の素直な称賛。だがエリアーデはその言葉に応えることさえできなかった。 彼女は張り詰めていた極度の緊張の糸が切れたかのように、その場にふらふらと崩れ落ちそうになった。


「エリアーデ様!?」


リリナが慌ててその華奢な身体を支える。


「いえ、大丈夫。ただ少し疲れただけ…」


彼女の額には玉のような汗が浮かび、その雪のように白い肌は蒼白になっていた。 彼女はこの数日間、生まれて初めての国家の存亡を賭けた外交という極限の精神労働に、その魂の全てをすり減らしていたのだ。


「ボルツ。申し訳ありませんが、少し水を…」


「お おう! 今すぐに!」


ボルツが慌てて部屋の水差しへと駆け寄る。


リリナはエリアーдеをベッドへと優しく横たわらせた。


「今はゆっくりとお休みください。警戒は私が続けます」


「ええ… お願いしますわ、リリナ」


その翡翠の瞳には疲労の色を遥かに凌駕する、深い深い達成感の光が宿っていた。 彼女は成し遂げたのだ。 ケイから託されたあまりにも重い任務、『対リオニス包囲網』の形成。 その最初の、そして最も重要な一歩を。


アーク連邦はついにその最初の同盟国を手に入れた。 それはまだ誰にも知られることのない水面下の秘密の同盟。 だがその小さな一つの約束こそが、やがてこの大陸の勢力図を根底から塗り替える巨大な地殻変動の始まりとなることを、この時知る者はまだ誰もいなかった。


◆ ◆ ◆


同じ頃。中立都市クロスロードの夜の喧騒とは無縁の一角。 大陸の経済の全てを牛耳ると言われるザルツガルド商業ギルドの巨大な支部ビルの最上階、情報部門を統括するザルツの執務室は不気味なほどの静寂に包まれていた。


彼のその蛇のように冷たい瞳が、机の上に置かれた一枚の報告書を見つめている。 そこにはこの数日間にこの都市で起こった全ての「異常」が記されていた。 『――アーク連邦大使エリアーデ・ウィンドソング サロン『白亜の円卓』にてリオニス王国バルテルミー侯爵の顔に水を浴びせる』 『――同日 同大使ドワーフのボルツ・ストーンハンマーを伴い 未知の技術『機械式時計』および『魔導銃』を公開』 『――本日日没後 ゴルディア王国宰相補佐官ギムレク・ストーンフィストが商人『ドルゴ』を名乗り アーク連邦使節団と極秘裏に接触』


「ほう」


その薄い唇から感嘆とも嘲笑ともつかない息が漏れた。


「面白い。実に面白い。『見捨てられた土地』の亜人の小僧 ケイ・フジワラか。ただの技術者かと思えば、とんでもない外交官をこの盤面に送り込んできたものだ」


彼の脳が高速で回転する。 アーク連邦とゴルディア王国が手を組む。それは何を意味するのか。 北の豊富な鉱物資源。アークの未知の超技術。その二つが結びつく。 そしてその二つの力が、共通の敵リオニス王国へと向けられる。


(だが それだけでは終わらん)


ザルツの目が細められる。


(奴らの目的はただリオニスを叩くことではない。奴らは独自の『経済圏』を創ろうとしている。ゴルディアとアークを結ぶ新しい交易路。それは我らザルツガルド商業ギルドの独占体制を根底から脅かす反逆だ)


彼はベルを鳴らした。 影の中から音もなく部下が現れる。


「あのエルフの姫君。潰す必要があるか?」


「いや 待て」


ザルツは指先でテーブルを叩きながら思考する。


「下手に手を出せばゴルディアを本気で怒らせる。それにあのケイ・フジワラという男。底が知れん。今はまだ泳がせておけ。だが」


彼の瞳に冷たい光が宿る。


「彼らがこれ以上我らの庭を荒らすようであれば その時は彼らに『ルール』というものを教えてやらねばなるまいな」


ザルツは知っていた。 このゲームの本当のルールはただ一つ。金を持つ者が全てを支配するというルールだ。 だが彼はまだ気づいていなかった。 そのゲームの盤面そのものをひっくり返す存在が、既に動き出していることに。 そして彼よりも遥かに短絡的でプライドの高い別のプレイヤーが、既に最悪の一手を打とうとしていることに。

アーク連邦、初の国家間同盟、秘密裏に締結! エリアーデの、そしてケイ様の完璧な外交戦略が実を結びました。 しかし、その華々しい外交的成功は、ついに大陸の経済を牛耳るザルツガルド商業ギルドの警戒を招いてしまいました。 そして、ギルドよりも早く、そして愚かに動く者が一人。…そう、あの侯爵です。 次回、卑劣なる復讐の刃が使節団に襲いかかります。 面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや下の☆での評価をいただけますと、執筆の励みになります!

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