第160節:最初の同盟国
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 前回エリアーデが提示した、あまりにも合理的で、そして魅力的な『相互防衛条約』。 ドワーフの宰相補佐官ギムレクは、その完璧な提案に完全に心を掴まれました。 いよいよ、歴史が動きます。
「大使殿」
ギムレク・ストーンフィストは羊皮紙に記された条文から目を上げると、その無骨な顔にドワーフらしい豪快な笑みを浮かべた。
「参った。完全に一本取られたわい」
彼はその場に立ち上がると、エリアーデの前に進み出た。そしてこれまでの全ての無礼を詫びるかのように、ドワーフ族の最も丁重な戦士の礼を取った。
「このギムレク・ストーンフィスト、我が王ドルガン・アイアンビアードの全権代理として、貴殿らのその勇気ある、そして何よりも賢明な提案を、ゴルディア王国の名誉にかけて受け入れさせていただこう」
そのあまりにもあっけない、しかし何よりも力強い承諾の言葉。 エリアーデの張り詰めていた心の糸が、ぷつりと切れるのを感じた。 彼女の翡翠の瞳から、一筋の熱い涙がこぼれ落ちる。
「……っ! ありがとうございます、閣下……!」
「礼を言うのはこちらの方だ、大使殿」
ギムレクはその岩塊のような手を差し出した。
「いや、『盟友』よ。これより我ら北の熊と南の新星は、血よりも濃い鋼の絆で結ばれた。あの傲慢な獅子の喉笛に、共に食らいつくその日までな」
エリアーデはその涙を誇らしげに拭うと、エルフの細い、しかし強い意志を宿した手で、そのドワーフの無骨な手を固く固く握り返した。
こうして創世暦10225年、中立都市クロスロードの一室で、大陸の歴史を大きく塗り替えることになるアーク連邦史上初の軍事同盟が、人知れず誕生した(プロット160)。
「では、早速だが」
ギムレクはビジネスライクな顔に戻ると、ボルツが差し出した『マナ・デトックス』のサンプル瓶を、まるで宝物のように受け取った。
「この奇跡の薬の製造法と、そしてあの『連弩』の技術供与についての、具体的な話し合いを……」
「閣下」
エリアーデは優雅に、しかしきっぱりとその言葉を遮った。
「そのお話は、また別の機会に。それらは我らが最高指導者ケイ・フジワラと、直接詰めていただく必要がございます」
(『カードは決して一度に全て切るな』。ケイ様の教えでしたわね)
彼女は完璧なポーカーフェイスを保っていた。
「むう。そうか。いや、そうだろうな。あの恐るべき指導者殿と、か」
ギムレクはどこか嬉しそうに、その鋼色の髭をしごいた。
(一筋縄ではいかんか。だが、それがいい。そうでなくては我らの盟友は務まらんわい)
最後に、エリアーデはケイからの最後の念押しを伝えた。
「そして閣下。この条約はまだ公にすべきではありません。リオニス王国を不必要に刺激し、彼らに警戒を与えるのは得策ではないでしょう」
「うむ。賢明なご判断だ」
ギムレクもその政治的な配慮に深く頷いた。
「獅子がその牙を剥き、貴殿らの喉元に食らいつこうとするその瞬間。我ら北の熊は、その背後から最大の一撃を加えてやろう。それまでこの同盟は、我ら両国の胸の内に秘めておくこととしようぞ」
秘密同盟の成立。ギムレクたちが満足げに、そして興奮した面持ちで部屋を去っていく。 その重い扉が閉ざされた瞬間、それまで影のように気配を消していたリリナと、石像のように固まっていたボルツが、同時にエリアーデの元へと駆け寄った。
「や、やりましたね、エリアーデ様ッ!」
「す、すげえ……。本当にやっちまった……!」
三人は種族も立場も忘れ、子供のようにその手を取り合い、小さな歓声を上げた。 アーク連邦史上初の外交的勝利。そのあまりにも大きな成果を、彼らは確かにその手で掴み取ったのだ。
エリアーデは窓の外、クロスロードの雑踏を見つめた。 その視線の遥か彼方、自分を信じ送り出してくれた小さなリーダーの顔が浮かんでいた。
(ケイ様。第一の任務、無事完了いたしました)
彼女のその美しい顔には、全権大使としての誇りと、そして自らの手で国家の未来を切り拓いた確かな自信が満ち溢れていた。
ついに、アーク連邦初の同盟国が誕生しました! ケイの完璧なシナリオと、エリアーデの見事な交渉術。そしてルナリアとリリナ、ボルツの完璧なサポート。 彼らのチームワークがもたらした、大きな勝利でしたね。 しかし[直後の文脈]にもある通り、彼らのこの華々しい外交的成功は、既に見えざる敵の知るところとなっていました。 面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや下の☆での評価をいただけますと、執筆の励みになります!




