第159節:対リオニス相互防衛条約
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
前回ルナリアが開発した奇跡の特効薬。それはゴルディア王国の頑ななプライドを完全に打ち砕き、交渉の流れを決定づけました。
完全に主導権を握ったエリアーデ。
いよいよ彼女がケイから託された、この交渉の真の目的を提示します。
「どうか、その奇跡の薬を、我らに……」
ギムレク・ストーンフィストのそのすがるような懇願。
それは百戦錬磨の彼がその生涯で初めて他国に見せた、完全な屈服の姿だった。
だが、エリアーデ・ウィンドソングはそのあまりにも劇的な勝利の瞬間にも、決して驕らなかった。
彼女の翡翠の瞳はどこまでも冷静に、そしてどこか優しく目の前の老ドワーフを見つめていた。
彼女はここで相手を叩き潰すことが、ケイの望む結末ではないことを知っていたからだ。
「顔をお上げください、ギムレク閣下」
彼女は静かに言った。
「先ほども申し上げたはずです。我らは薬を売りに来たのではありません、と」
「な……?」
ギムレクははっとしたように顔を上げた。
「この薬は、我らの友情の証」
エリアーデはその美しい顔に、完璧なしかしどこまでも温かい微笑を浮かべた。
「我らが『対等なる仲間』と認めた相手にのみ、無償で提供することを約束された、絆の証です」
「対等なる、仲間……」
ギムレクはその言葉の重みを噛み締めていた。
先ほど自分たちが一方的に拒絶したその言葉。
それを今、この絶対的に優位な立場で彼女は再び口にしたのだ。
そのあまりにも気高い誇りと、そして深い度量。
ギムレクは完全に打ちのめされていた。
もはや技術力でも軍事力でもない。
このアーク連邦という国家が持つ、その底知れない器の大きさに。
「我らが求めるのは金でも資源でもありません。我らが求めるのは、ただ一つ」
エリアーデは懐から一枚の巻かれた羊皮紙を取り出した。
それはケイがこの日のために書き上げておいた、この交渉の最終的なゴール。
『条約』の草案だった。
「これこそが、我らが貴国と結びたい『絆』の形ですわ」
彼女はその羊皮紙をゆっくりとテーブルの上へと広げた(プロット159)。
その一番上に記されていたタイトル。
それを見たギムレクの黒い瞳が鋭く光った。
『――対リオニス王国、相互防衛条約(草案)――』
「これは……」
ギムレクはゴクリと喉を鳴らし、その条文に目を通し始めた。
その内容は驚くほどシンプルで、そして驚くほど合理的だった。
一、アーク連邦およびゴルディア王国は、本条約の締結をもって不可侵の友好関係を結ぶ。
一、締約国の一方が、リオニス王国による不当な軍事的侵略を受けた場合。
一、もう一方の締約国は、侵略国の背後を脅かすための陽動、あるいは補給線の攪乱といった軍事行動を開始し、侵略を受ける同盟国を間接的に支援する義務を負う(プロット159)。
一、また、締約国は平時においても、リオニス王国に関する全ての軍事的な情報を共有し、相互の安全保障に努めるものとする。
一、技術供与や経済支援に関しては、本条約とは別の個別の協定によって定める。
ギムレクはその羊皮紙から目を上げることができなかった。
彼の政治家としての頭脳が、この条約の持つ本当の意味を分析し、そして戦慄していた。
(なんと、なんと現実的な条約だ……)
彼が当初懸念していたような、無謀な全面戦争の要求などどこにも書かれていない。
あくまで陽動と補給支援(プロット159)。
それはゴルディア王国にとってリスクを最小限に抑えながら、宿敵リオニス王国に最大のプレッシャーをかけることができる完璧な内容だった。
そして何よりも恐るべきは、その最後の一文。
『技術供与は別協定とする』。
彼らは決してあの奇跡の技術を安売りはしない。
この軍事同盟という対等な関係を築いたその先に、初めてその恩恵を与える、と。
飴と鞭。
いや、飴を見せながら先に対等な仲間としての誓いを立てさせる。
そのあまりにも巧みで、そして誠実な交渉術。
(ケイ・フジワラ。恐るべき小僧だ……)
ギムレクはもはやその会ったこともない、亜人の国の指導者に絶対的な畏敬の念を抱いていた。
ついにエリアーデは、ケイから託された完璧な条約案を提示しました。リスクを最小限にリターンを最大化するその現実的な内容は、ゴルディア王国の心を完全に掴んだようです。
果たしてドワーフの王は、どのような決断を下すのでしょうか。
面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや下の☆での評価をいただけますと、執筆の励みになります!




