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第16節:システム実装:希望のアーキテクチャ

いつもお読みいただき、ありがとうございます。皆様からの応援、毎日ありがたく拝見しております。

前回、ケイとルナリアの連携が奇跡を起こし、ついにガロウと狼獣人族の完全な信頼を勝ち取りました。

しかし、それは問題解決のスタートラインに立ったに過ぎません。ここから、ケイが本来の能力を最大限に発揮する、本格的な村作りが始まります。

絶望の集落は、希望の拠点へと生まれ変わることができるのか。

それでは、第十六話をお楽しみください。

ルナリアがもたらした奇跡は、狼獣人族の心を根底から揺さぶった。

子供たちが病から解放され、母親たちの嗚咽が感謝の祈りへと変わる光景は、何よりも雄弁な説得材料だった。ケイが示した未来への道筋は、もはや疑うべくもない、唯一の希望の光として、集落全体に認識されたのだ。


翌朝、集落の空気は一変していた。

昨日までの、澱んだ絶望と相互不信は嘘のように消え去り、代わりに、ぎこちないながらも確かな活気が満ち溢れていた。獣人たちの黄金色の瞳には、ケイとルナリアに対する、畏敬と信頼の色がはっきりと浮かんでいる。


その変化を誰よりも強く感じていたのは、リーダーであるガロウだった。

彼は、集落の中央広場に集まった同胞たちを前に、ケイとルナリアを伴って進み出た。そして、その傷だらけの顔に、苦渋と、安堵と、そして決意をない交ぜにした複雑な表情を浮かべ、深く、深く頭を下げた。


「ケイ殿、ルナリア殿。昨日は、我々の無礼を許してほしい。そして……同胞の命を救ってくれたこと、一族を代表して、心から感謝する」


その言葉に、集まった獣人たちも、次々と頭を下げていく。それは、誇り高い狼獣人族にとって、最大の敬意を示す行為だった。


ケイは、その光景を静かに見つめていた。

彼の頭の中では、プロジェクト管理ツールのウィンドウが開かれている。

『マイルストーン達成:ステークホルダーとの信頼関係構築』

そのタスクに、完了のチェックマークが入った。


「顔を上げてくれ、ガロウ。謝罪も感謝も、まだ早い」

ケイの声は、いつも通り冷静だった。

「病を治し、食料を確保したのは、あくまで緊急対応だ。僕たちのプロジェクトは、まだ始まったばかりなのだから」


彼は、集まった獣人たち全員を見渡した。その小さな身体から放たれる存在感は、もはや誰も子供のものだとは思わなかった。


「昨日も言った通り、この集落は、システムとして多くの脆弱性を抱えている。外部からの脅威に対する防御力。安定した食料生産能力。そして、衛生的な居住環境。これら全てが、最低基準に達していない」


ケイは、地面に木の枝で簡単な図を描き始めた。それは、集落の現状と、これから作るべき新しい村の、単純な概念図だった。

「僕がこれからやろうとしているのは、この脆弱なシステムを、全て破棄し、全く新しい、強固なシステムへと再構築することだ。すなわち――新しい村を、ゼロから作る」


ゼロから、村を作る。

その、あまりにも壮大な言葉に、獣人たちは息を呑んだ。


「幸い、僕のスキルを使えば、誰が、何に適しているかは、完全に把握できている。そして、君たち狼獣人族は、個々の能力も、集団としての連携力も、極めて高いポテンシャルを秘めている。ただ、それを活かすための『設計図』と『管理体制』がなかっただけだ」


ケイは、ガロウに向き直った。

「ガロウ。あなたには、昨日言った通り、このプロジェクトの現場監督を任せる。僕が全体の設計とタスク管理を行い、あなたは、現場の指揮を執る。それでいいな?」


「……ああ。あんたの言う通りにする。俺たちは、あんたに全てを賭ける」

ガロウの答えに、迷いはなかった。


その言葉を合図に、ケイの指揮による、驚異的な村作りが始まった。

それは、前日に見せた光景の、完全な再現であり、そして、それを遥かに上回る規模の、組織的な活動だった。


まず、ケイが取り掛かったのは、防衛システムの再構築だ。

「ガロウ、あなた直属の精鋭十名を、伐採チームとする。先日切り倒したテツカシに加え、さらに二十本を切り出してくれ。伐採方法は、昨日教えた通りだ。切り出した丸太は、皮を剥ぎ、先端を鋭く尖らせろ」


ガロウ率いる伐採チームは、ケイが《クリエイト・マテリアル》で生成した、鋼鉄の刃を持つ斧を手に、森へと駆けていく。これまで彼らが使っていた石斧とは比較にならない切れ味に、彼らは驚愕しながらも、与えられたタスクを驚異的な速度でこなしていった。


次に、ケイは残りの戦士たちを集めた。

「君たちには、防御柵の建設と、塹壕の掘削を行ってもらう。設計図はこれだ」

ケイは、地面に、より詳細な図を描く。それは、単なる柵ではなく、侵入者を効果的に迎撃するための、計算され尽くしたキルゾーンを形成する、本格的な城壁の設計図だった。

「柵の高さは三メートル。二重に設置し、その間には、僕が指示する場所に、落とし穴と、鋭い杭を配置する。掘り出した土は、柵の内側に盛り、土塁として強度を確保しろ」


戦士たちは、その合理的な設計に感心しながらも、その作業量の多さに顔をしかめた。だが、ケイが《プロジェクト・マネジメント》の権能を発動させると、彼らの身体は、再び、魔法にかかったかのように、効率的に動き始めた。誰がどこを掘り、誰が杭を打ち、誰が土を運ぶのか。その全てが、言葉を交わさずとも、完璧に連携していく。


ケイの指揮は、防衛だけに留まらない。

彼は、集落の女性たちと、戦士ではない男たちを集めた。

「君たちには、住居の建設を任せる。今の小屋は、全て解体し、新しく、頑丈な家を建てる」


彼は、地面に、シンプルな、しかし機能的なログハウスの設計図を描いた。

「壁には、この粘土と藁を混ぜたものを塗り込め。そうすれば、冬の寒さを、今よりも遥かに凌ぎやすくなる。屋根の角度は、雨水が効率的に流れるように、この角度を厳守してくれ」

彼は、前世の建築知識を、彼らにも理解できる形で、丁寧に説明していく。

そして、再び《クリエイト・マテリアル》を発動させ、ノコギリや、金槌、そして鉄の釘といった、この森には存在しなかったはずの、近代的な工具を生成し、彼らに与えた。

獣人たちは、その便利な道具に驚きながらも、見よう見まねで、新しい家の建設に取り掛かっていった。


そして、ケイ自身が直接指揮を執ったのが、農業と、用水路の建設だった。

彼は、ルナリアと共に、集落の周辺の土地を、改めて詳細に調査した。

《アナライズ》で、土壌の成分、日当たり、風の流れ、そして地下水脈の位置までを、完全にマッピングしていく。


「……ここだ」

ケイは、集落の南側に広がる、緩やかな斜面を指さした。

「この土地が、最も農耕に適している。そして、あそこの川から、ここまで用水路を引く」


彼の脳内には、既に、高低差を利用した、完璧な灌漑システムの設計図が完成していた。

彼は、手先の器用な獣人たちを集め、自ら先頭に立って、鍬を振るい始めた。

十歳の少年の、か細い腕。だが、その動きには一切の無駄がなく、驚くほど正確に、地面を切り開いていく。

その姿に、獣人たちも鼓舞され、懸命に後を追った。


時間は、飛ぶように過ぎていった。

ケイの指揮の下、狼獣人族という、極めて優秀なリソースは、そのポテンシャルを最大限に発揮した。

一日が経ち、二日が経ち……。

集落の姿は、もはや「変貌」という言葉では生ぬるいほどの、劇的な進化を遂げていた。


かつて、頼りなかった木の柵は、先端を鋭く尖らせたテツカシの丸太が二重に並ぶ、堅固な城壁へと生まれ変わっていた。

雨漏りのした粗末な小屋は、整然と区画整理された土地に並ぶ、清潔で頑丈なログハウスへと姿を変えた。

痩せこけていた畑は、川からの清流を引き込んだ用水路によって潤され、ケイが生成した栄養豊富な土が混ぜ込まれた、希望の大地へと生まれ変わった。


獣人たちは、日に日に変わっていく自分たちの住処を、夢でも見ているかのような心地で眺めていた。

彼らは、ただ指示に従っていただけではない。

ケイは、常に彼らに対話を求め、彼らの意見や、獣人ならではの知恵を、積極的にプロジェクトに取り入れていった。

「この見張り台の角度は、狼の目の高さに合わせた方が、遠くが見やすい」

「この罠の匂いは、森猪を誘き寄せるには、少し弱いかもしれない」

そういった現場からのフィードバックを、ケイは即座に設計に反映させた。

その結果、獣人たちは、自分たちが、この村作りの、単なる労働力ではなく、重要な「当事者」なのだという、誇りと自覚を持つようになっていった。


そして、プロジェクト開始から、一週間が経った日の夕暮れ。

ついに、新しい村の、基礎が完成した。


ガロウは、新しく作られた見張り台の上から、その光景を、感無量といった面持ちで見下ろしていた。

眼下には、自分たちの手で作り上げた、新しい故郷が広がっている。

堅固な壁に守られ、整然と家々が並び、畑には水が満ちている。

それは、彼が、人間たちに故郷を追われて以来、ずっと夢に見てきた光景だった。

いや、夢にさえ見ることができなかった、理想郷そのものだった。


彼の隣には、いつの間にか、ケイが立っていた。

「……どうだ、ガロウ。これが、僕たちの新しい村の、最初の姿だ」


ガロウは、ケイの方をゆっくりと見た。

その黄金色の瞳には、もう、一片の疑いもなかった。

彼は、目の前の、この小さな少年に、自分たち一族の、いや、あるいは、この土地に住む全ての亜人の未来を、託すことを決意した。


彼は、深く、深く、息を吸い込むと、その傷だらけの顔に、何年ぶりかの、穏やかな笑みを浮かべた。


「……ああ。大したもんだ、大将」


その呼び方は、彼が、ケイを、自分たちの新しいリーダーとして、心から認めた証だった。

ケイは、その言葉に、少しだけ照れたように、しかし、満足げに頷いた。


プロジェクトは、まだ終わらない。

だが、最も重要な基礎工事は、今、確かに完了したのだ。

夕日に染まる新しい村を、二人のリーダーは、静かに、そして誇らしげに、見つめていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

一週間で、集落は驚くべき変貌を遂げました。ケイのプロジェクトマネジメント能力、恐るべしですね。

そして、ガロウの「大将」呼び! これで、名実ともに、ケイはこの集落のリーダーとなりました。

しかし、ハードウェア(村)が完成しても、それだけでは組織は機能しません。次に必要なのは、ソフトウェア(ルール)です。

そして、リーダーとなったケイには、新たな苦悩が待ち受けていました。

「面白い!」「この村作り、ワクワクする!」「ガロウ、完全にデレたな!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、村の発展の原動力です!

次回、最初の仲間たちとの絆が、試される時。

本日21時半頃の更新を、どうぞお楽しみに。

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