表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/176

第158節:力の再評価

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 前回エリアーデが提示した『坑道病の特効薬』。それはゴルディア王国の国家的かつ絶望的な問題を解決し得る唯一の希望でした。 このあまりにも強すぎるカード。 百戦錬磨のドワーフの心をどう動かすのでしょうか。

ギムレク・ストーンフィストは動けなかった。 彼の唯一の黒い瞳は、テーブルの上に置かれたその小さなガラスの小瓶に釘付けになっていた。 淡く青白い光を放つ液体。 『特効薬』。 その言葉の響きが、彼の頭の中で何度も何度も反響する。


(馬鹿な)


彼の理性が叫んでいた。


(あり得ない。我がゴルディア王国の全ての賢者、全ての錬金術師が束になっても解明さえできなかった、あの呪いの病の薬だと? こんなぽっと出の亜人の小国がそれを開発した?)


(罠だ。これは我らを油断させるための甘言だ。そうだ、そうに決まって)


だが、彼のもう一つの本能。ドワーフとしての魂に刻み込まれたスキル【神眼】が、その液体の本質を見抜いてしまっていた。


(なんだ、この魔力は)


(清浄すぎる。このクロスロードの淀んだ空気の中にあって、まるで万年雪の頂から湧き出す最初の一滴の水のような純粋な魔素の塊。そして、この複雑な術式の構成。これは、本物だ)


彼の喉がゴクリと鳴った。 プライドと現実が、彼の心の中で激しくぶつかり合う。 だが、彼の脳裏に浮かんだのは政治的な計算ではなかった。 それは故郷の鉱山で今も血を吐きながら死を待っている、かつての戦友たちの苦悶の表情だった。


「……」


ギムレクはその岩塊のような手で顔を覆った。 そして、その巨体が微かに震えているのをエリアーデは見逃さなかった。 やがて彼はゆっくりと顔を上げた。 その顔から先ほどまでの宰相補佐官としての傲慢さも、戦士としての威圧感も全て消え失せていた。 そこにあったのは、ただ同胞の命を救いたいと願う一人のドワーフの老人の、すがるような瞳だけだった。


「大使殿」


その声はひどく嗄れていた。


「もし。もし、その薬が本物であるならば。どうか、どうか我らにそれをお分け願えんか。いや、売っていただきたい。金か? 鉱石か? 我がゴルディア王国が出せるものなら何でも用意しよう。だから、どうか」


そのあまりにも痛切な懇願。 立場は完全に逆転した。 アーク連邦はもはや技術を切り売りする交渉相手ではない。 ゴルディア王国の国家の命運そのものを、その手のひらの上で握っている絶対的な上位者となったのだ。


(ケイ様)


エリアーデは内心で自らの主君の恐るべき深謀遠慮に改めて戦慄していた。 彼はこの瞬間さえも予測していたのだ。 技術力だけでは決して動かせないドワーフの頑なな誇り。 それを融解させるのが、命という絶対的な価値であることを。


この提案によって、ギムレクのアーク連邦に対する評価は完全に塗り替えられた。 彼らはもはや単なる軍事力だけの蛮族ではない。 『連弩』や『魔導銃』といった恐るべき『軍事力』。 『時計』を生み出す超『精密技術』。 そして、この不治の病さえも理論的に解明し治療法を『開発』する、計り知れない『知性』と『医療技術』。 それら全てを併せ持つ底知れない新興国家。 それこそが、今ギムレクが抱いたアーク連邦への新しい評価だった。

交渉の流れは完全に変わりました。特効薬というあまりにも強力なカードは、ドワーフのプライドさえも打ち砕きましたね。


完全に立場が逆転したこの交渉。エリアーデは、この絶対的な優位性を武器にどのような条約を提示するのでしょうか。


面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークや下の☆での評価をいただけますと執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ