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第153節:北のドワーフ、南の亜人

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき誠にありがとうございます! 第七巻『外交戦線』、ついに外交の舞台、中立都市クロスロードでの物語が本格的に始まります。


前回エリアーデたちが開いた小規模な展示会とサロンでの鮮烈なデビューは、ついにこの都市の「本物」のプレイヤーの関心を引きました。 そう、北方のドワーフ国家「ゴルディア王国」です。 今夜アーク連邦の運命を左右する最初の秘密会談が始まります。 それでは第百五十三話お楽しみください。

その夜、クロスロードの喧騒はエリアーデたちにとって遠い世界の出来事のように感じられた。 彼女たちが宿を取る中級宿屋『銀の天秤』。その一番奥に用意された最も防音性の高い特別室は、今やアーク連邦の最初の大使館であり、そして戦場の司令室と化していた。


「――お待たせいたしました、ドルゴ閣下」


エリアーデ・ウィンドソングは、そのエルフとしての完璧な美貌に一切の感情を浮かべない鉄仮面のような微笑を貼り付けて訪問者を迎え入れた。 彼女のその一分の隙もない態度に、ドルゴと呼ばれた片目のドワーフ――ゴルディア王国の宰相補佐官ギムレク・ストーンフィストは、その鋼色の髭の奥でわずかに感嘆の息を漏らした。


(昼間のサロンでのあの派手な立ち回りといい。ただの森育ちの姫君ではない。ケイ・フジワラとかいう小僧、とんでもない『駒』をこの戦場に送り込んできたわい)


「うむ。厳重な警備ご苦労であったな、大使殿」


ギムレク(ドルゴ)は、商人『ドルゴ』としての人好きのする笑みを捨て、ゴルディア王国の軍人としての無骨な顔で部屋の中を見渡した。 部屋の四隅の影。そこには、まるで闇そのものが凝って形になったかのようにリリナ・テールウィップが音もなくその気配を潜めている。その金色の猫の瞳は、ギムレクが連れてきた二人の護衛の、その鎧の僅かな隙間さえも見逃すまいと冷徹な光を宿していた。 そしてエリアーデの斜め後ろ。そこには若きドワーフの職人ボルツ・ストーンハンマーが、緊張で顔を石のように硬直させながらも、師のそして国家の威信を背負っているのだという誇り高い光をその瞳に宿して直立不動の姿勢を保っていた。


「さて」


ギムレクが部屋の中央に用意されたテーブルに着くと、エリアーデもまたその向かいに優雅に腰を下ろした。テーブルの上には、ただ水差しとグラスだけが置かれている。


「昼間のサロンでのあのような派手なお披露目の後だ。さぞかし多くの商人どもが貴殿らの元を訪れたことだろう。それらを全て退けてこのわしとの会談を受諾された。その意味、大使殿は無論理解しておられるな?」


それは最初のジャブだった。 我々は、お前たちのそのおもちゃのような技術に浮かれて群がってきたハイエナどもとは違う。我々は、お前たちと対等な「国家」としての対話を求めている。その暗黙のメッセージ。


「ええ。もちろんですわ、閣下」


エリアーデは完璧な微笑でそれを受け流した。


「我らがアーク連邦はまだ生まれたばかりの小さな国家です。ですが我らが指導者ケイ・フジワラはこう申しておりました。『無益な雑談ノイズに費やす時間リソースはない。本質的な対話ができる本物のパートナーとだけ話をしろ』と。ゴルディア王国がその『本物のパートナー』であることを願っておりますわ」


そのあまりにも堂々とした返答。 ギムレクは満足げに頷いた。


(よかろう。前置きはここまでか)


「大使殿」


ギムレクの声のトーンが変わった。


「単刀直入に聞かせてもらう。先のリオニス王国ギュンター辺境伯との戦。あれの詳細を教えていただきたい」


彼の唯一の黒い瞳が、獲物を狙う鷹のように鋭くエリアーデを射抜いた。


「わしらが掴んでおる情報では。辺境伯の千の軍勢は貴殿らの都市を包囲し、そして全滅した、と。だがにわかには信じ難い。あのギュンターの私兵はゴブリン如きとは訳が違う。王国の正規軍にも匹敵する精鋭ぞろいだ。それを貴殿らはいかにして打ち破った?」


彼はテーブルの上に視線を落とした。そこにはエリアーデたちが展示会で見せたあの精密な歯車の模型が置かれていた。


「このような精密な細工物。あるいはあのサロンで見せたという鋼鉄を貫く魔導銃。それらの秘密兵器を使ったのか? それとも貴殿らエルフ族に伝わるという古代の大魔術か?」


「あるいは」


彼は最も聞きたかった核心へと踏み込む。


「貴殿らの指導者ケイ・フジワラ。彼が、あの『神の槌』と呼ばれる規格外の魔導兵器を再び使ったのか?」


それこそがゴルディア王国が最も知りたい情報だった。 アーク連邦の真の軍事力。その力の源泉は何なのか。それは彼らが制御可能な技術なのか。それともあの指導者一人に依存した再現性のない奇跡なのか。 それによってアーク連邦という「カード」の価値は天と地ほども変わってくる。


エリアーデは、そのあまりにも直接的でそして貪欲な情報の要求を受けてもなお、その優雅な微笑を崩さなかった。 彼女はこの瞬間をケイと共に何度もシミュレーションしていた。 その脳裏に、アークシティの執務室であの小さなリーダーが自分に語った言葉が蘇る。


(――『彼らは必ず我々の力の源泉を探ってくる。だが決して全てを見せるな。彼らに見せるべきは我々の「結果」ではない。我々の「可能性」だ』)


エリアーデはゆっくりと口を開いた。 その声は、まるで森の精霊が歌うかのような不思議な説得力を持っていた。


「閣下。あなた様のその疑問はもっともです。ですがその答えは、あなた方が想像しているものとは少し異なります」


彼女は静かに立ち上がると、窓の外、クロスロードの華やかな夜景を見下ろした。


「ギュンター辺境伯を打ち破った力。それは単一の秘密兵器でも古代の大魔術でもありません。ましてや我が主ケイ・フジワラの奇跡などという曖昧なものでもない」


「ならば何だ、と?」


「――『システム』ですわ」


エリアーデは振り返りきっぱりと断言した。


「我らがアーク連邦の真の強さ。それは個々の兵士の勇猛さでも一つの兵器の性能でもない。それら全てを有機的に結合させ、その力を百倍にも千倍にも増幅させる、ケイ・フジワラが設計した完璧なまでの『戦闘システム』そのものなのです」


そのあまりにも抽象的で、しかしそれ故に底知れない恐ろしさを感じさせる答え。 ギムレクは思わず息を呑んだ。 戦闘システム。その言葉の意味を、彼らドワーフの無骨な思考ではまだ完全には理解できなかった。だがそれが自分たちの常識を遥かに超えた恐るべき何かであることだけは確かだった。

最後までお読みいただきありがとうございます! ついに始まったゴルディア王国との秘密会談。 敵の核心を突く問いに対し、エリアーデはケイから授けられた完璧な答え――『システム』という言葉を返しました。 そのあまりにも抽象的で底知れない答え。 ドワーフたちはどう受け止めるのでしょうか。


次回、エリアーデはその『システム』の一端を具体的に提示します。 ケイの指示通り情報を巧みにコントロールし、ゴルディア王国を交渉のテーブルへと引き摺り込む彼女の華麗なる外交術。 どうぞご期待ください。


「面白い!」「エリアーデ様、かっこいい!」「『システム』、痺れる!」など思っていただけましたら、ぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が彼女の交渉の力となります!

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