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第139節: 敵の敵は

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。 第六巻『アーク連邦建国』編も、いよいよ終盤へと差し掛かってまいりました。


前回、アーク連邦の建国宣言は、リオニス王国の逆鱗に触れ、本格的な討伐軍の派遣が決定されました。 絶望的な未来が迫り来る中。 今回は、その大陸のパワーバランスの変化を異なる視点から見つめる者たちの物語。 リオニスの敵。そして、大陸の覇者。 彼らの思惑が、アーク連邦の運命に複雑な影を落とします。 それでは、第百三十九話、お楽しみください。

アーク連邦の建国宣言。 そのあまりにも荒唐無稽な報せは、大陸西部諸国に二つの全く異なる反応を引き起こしていた。 一つは、リオニス王国とその同盟国、あるいはその権威を恐れる国々が示す、「嘲笑」と、「侮蔑」。 そして、もう一つは。 そのリオニス王国の強大化を快く思わない者たちが示す、静かな、しかし強烈な、「興味」だった。


その「興味」を示した筆頭。 それは、大陸北方にその強大な版図を構えるドワーフの国家、『ゴルディア王国』だった。 雪深い山脈の地下深くに築かれた巨大な地下都市。 その玉座の間で、ゴルディア王国の王ドルガン・アイアンビアードは、その見事に編み込まれた鋼色の髭をしごきながら、興味深そうに唸っていた。 彼の目の前には、アーク連邦からの使者が届けたあの『アーク憲章』の写しが広げられている。


「……『法の下の平等』……。……『種族による差別を禁ず』……。……『最高指導者さえも、法の下にある』、か」 ドルガン王の、その低いしゃがれた声が広間に響く。 「……面白い。……面白いではないか。……まるで古代の賢王が描いた理想論のようだが。……これを、あのリオニスの獅子の鼻先で宣言したというのが、また愉快千万よ」


彼の周囲を囲む屈強なドワーフの将軍たちもまた、その無骨な顔に獰猛な笑みを浮かべていた。 彼らゴルディア王国は、長年にわたり、アークシティの北に連なる『世界の背骨』山脈の豊富な鉱物資源を巡って、リオニス王国と一触即発の睨み合いを続けてきた。 その宿敵の足元、それも最も無防備な南の辺境で、このような大規模な「反乱」が起きた。 彼らにとって、それはまさに天の恵みとも言える報せだった。


「……陛下。……この『アーク連邦』。……使えるやもしれませぬな」 一人の片目の老将軍が進み出た。 「……彼らが本当にあのギュンター辺境伯の軍勢を打ち破ったのだとすれば。……その戦力は本物。……我らがリオニスの北の国境で小競り合いを起こす。……その隙に、このアーク連邦が南から奴らの尻を突く。……あるいは、その逆も然り。……これほど見事な挟撃の形はありますまい」


「うむ」 ドルガン王は頷いた。 「……だが、相手はまだ得体が知れん。……その指導者は人間の小僧だとも聞く。……人間は信用ならん。……我らドワーフを騙し、裏切ってきたその歴史を忘れたわけではあるまい」 その言葉に、将軍たちの顔にも警戒の色が浮かぶ。


「……だが、価値はある」 ドルガン王は結論を下した。 「……まずは、接触を試みよ。……だが、公式な使者ではない。……『商人』に化けさせ、かの中立都市クロスロードで彼らの動向を探らせよ。……彼らが本当に我らと手を組むに値する相手なのか。……その鋼の魂の色を、見極めて参れ」 「ははっ!」 ドワーフの王のその狡猾な一手。 それは、アーク連邦にとって最初の同盟国候補が、その重い腰を上げた瞬間だった。



そして、もう一つの勢力。 ザルツガルド商業ギルド。 その巨大な経済帝国の水面下でも、確かな地殻変動が起ころうとしていた。 ロックウェル支部の支部長ゴードンが、哀れな商人バート・ランガーの報告を一笑に付し、握り潰したあの事件。 その顛末は、ギルドの情報網を通じて、瞬く間に一部の幹部たちの耳にも届いていた。


中立都市クロスロード。 ギルドの最大拠点の一つ。 その最上階にある会議室で、一人の痩身の男が、窓の外、雑多な人種が行き交う広場を見下ろしながら、その薄い唇に冷たい笑みを浮かべていた。 彼の名はザルツ。 この商業ギルドの創設者一族の末裔にして、ギルドの暗部を一手に担う情報部門の統括者。


「……ゴードンのあの豚。……またやりおったか」 彼は、吐き捨てるように呟いた。 「……本物の『金鉱』の地図を目の前に差し出されて、それを『ガラクタ』だと言って、床に叩きつけるとは。……あれほど節穴の男を支部長に据え置いた、本部の連中の顔も見てみたいものよ」


彼の手元には、一枚の羊皮紙が広げられている。 そこには、あの日ゴードンが叩き落としたあの鋼鉄の鍬の詳細なスケッチと、そしてそれを分析したギルド専属の錬金術師による驚愕のレポートが添えられていた。 『――結論。……この鋼は、現存するいかなるドワーフの技術をも凌駕する。……未知の製鉄法。……おそらく、古代魔法文明の遺物。……その価値、測定不能――』


「……古代文明の遺物を量産だと?」 ザルツの目が蛇のように細められる。 「……そして、その価値を知らぬ亜人たち。……指導者は人間の子供。……あり得ん。……あり得なさすぎる。……だが、この鋼が本物である以上。……そのあり得ない物語は、真実だと判断するしかあるまい」


彼は、金儲けの匂いを嗅ぎつけていた。 それも、これまでの人生で経験したことのない最大級の儲け話の匂いを。 リオニス王国が軍を動かす? 結構。 戦争は、いつだって最大のビジネスチャンスだ。 重要なのは、その戦争が始まる前にどちらに賭けるか。 いや、違う。 両方に賭け、そしてどちらが勝っても、最大の利益を上げられる仕組みを作ることだ。


「……面白い。……実に面白いぞ、アーク連邦とやら」 彼は、部下に指示を飛ばした。 「……あの落ちぶれのバート・ランガーを探せ。……彼が持っているもう一つの『お宝』。……あの赤いポーション。……その現物を手に入れる。……それと同時に、ギルドの息のかかっていない腕利きの『商人』を何人か見繕え。……彼らに、あの亜人の村へと向かわせる。……リオニス王国に気づかれぬような」


リオニス王国という巨大な獅子。 その獅子の尻尾に火をつけ、その隙に獲物を横取りしようと企む、北のドワーフと狡猾なギルドのハイエナたち。 彼らは皆、アーク連邦を自分たちの利益のための「カード」としてしか見ていなかった。 だが、その「カード」がやがてゲームの盤面そのものをひっくり返すジョーカーであることを、まだ誰も知らなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます! アーク連邦の建国宣言が、大陸の勢力図に静かな、しかし確実な亀裂を入れ始めました。 リオニスの敵対勢力がついにアークの価値に気づき、動き出します。 これで、アーク連邦は「外交」という新しい武器を手に入れる可能性が出てきましたね。


さて、次回は、この波紋の最後にして最大の一石。 大陸東方の絶対的覇者、『ガルバニア帝国』。 彼らは、この新しいプレイヤーの登場をどう見ているのでしょうか。 第六巻最終話(第140節)へと続きます。


「面白い!」「外交戦、面白くなってきた!」「ギルドの動きも気になる!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アーク連邦の最初の同盟国を引き寄せる力となります!

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