第136節: 最高指導者の最初の仕事
いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。 第六巻『アーク連邦建国』編も、いよいよ終盤の二章へと突入いたします。
前回、アーク連邦はその歴史的な産声を上げました。 しかし、国家とは宣言するだけでは成立しません。 その存在を外の世界に認めさせ、そして差し迫る脅威に備えなければならない。 今回は、最高指導者に就任したケイの『最初の仕事』が描かれます。 それでは、第四巻の第二十四話となる第百三十六話、お楽しみください。
建国式典の熱狂的な興奮が、ようやく穏やかな祝祭の余韻へと変わったその翌日。 アークシティは、既に新しい国家としての日常を歩み始めていた。 だが、その中枢である庁舎の最上階。 最高指導者、ケイ・フジワラの執務室だけは、戦場のような緊張感に包まれていた。
「――では、これよりアーク連邦、第一回最高幹部会議を開始する」
円卓には、ケイと彼が任命した各部門の最高責任者たちが顔を揃えていた。 軍務大臣、ガロウ。 工務大臣、ドゥーリン。 宰相補佐官、エリアーデ。 保健衛生局長、ルナリア。 そして、新しく法務省と財務省の長官代行を兼任することになったハクとリリナ。 (法務と財務の専門家が育つまで、ケイが最も信頼する二人にその重責が一時的に任されたのだ) アーク連邦の全てを動かすドリームチーム。 彼らの顔には、もう建国の高揚感はなかった。 そこにあるのは、自分たちがこの新しい国家の運営を担うのだという、重い、重い責任感だけだった。
「……まずは、現状の再確認からだ」 ケイは、黒板に現在のアーク連邦が置かれている状況を冷徹に書き出していった。 「我々は、辺境伯軍を退けた。……だが、それはリオニス王国との全面戦争の始まりを意味する。……僕のシミュレーションでは、彼らが次なる本格的な討伐軍を編成し、このアークシティに到達するまで、……猶予はおよそ半年」
半年。 そのあまりにも短いタイムリミット。 幹部たちの顔に緊張が走る。
「我々は、この半年間で王国軍を再び迎え撃つための全ての準備を完了させなければならない。……それこそが、今の我々に課せられた最優先プロジェクトだ」 ケイは、きっぱりと断言した。
「軍務省」 「おう!」 ガロウが即座に応える。 「君の任務は常備軍の設立だ。アーク憲章に基づき徴兵制を施行。都市の全ての若者たちに基礎訓練を施し、兵力と練度を早急に引き上げろ。……それと同時に、ドゥーリン殿と連携し、クロスボウの追加量産と、……例の新しい兵器の開発を急いでほしい」 「……任せとけ。……次の戦までに、大陸最強の軍隊を創り上げてやる」
「工務省」 「うむ」 ドゥーリンが重々しく頷く。 「あなたの任務は防衛網の再構築だ。……先の戦いで露呈した全ての脆弱性を修正する。……城壁のさらなる強化。そして、『神の槌』の再チャージと安定化。……何よりも、敵の進軍を遅らせるための街道の要塞化を頼む」 「フン。……わしの仕事にケチがついたままというのが、気に食わんかったところよ。……完璧な芸術品に仕上げてくれるわい」
軍事と工業。 二人の天才が頷く。 だが、ケイの真の狙いはそこにはなかった。 「……だが、ガロウ、ドゥーリン殿。……君たちのその仕事は、あくまで『保険』だ」 「……なんだと?」
ケイの青い瞳が、会議室のもう二人の女性を捉えた。 エリアーデとリリナ。 「僕がこの半年間で本当に成し遂げたい仕事。……それは、『戦わずして勝つ』ための布石だ。……すなわち、『外交』と『諜報』」
彼は、エリアーデへと向き直った。 「エリアーデ。……君には、宰相補佐官としてアーク連邦建国の名代として正式な使節団を率い、中立都市『クロスロード』へと向かってもらう」 「……クロスロードへ?」 エリアーデがその翡翠の瞳を見開いた。 「そうだ。……僕たちの建国を大陸全ての国々に宣言し、そして我々の存在を認めさせる。……それだけではない。……君のその類稀なる交渉術で、リオニス王国と敵対する北方のドワーフ国家『ゴルディア王国』と接触し、……『同盟』を結んでくるんだ」
同盟。 そのあまりにも大胆な戦略。 ガロウたちが息を呑んだ。
「そして、リリナ」 彼は、次に小さな猫の少女を見つめた。 「君と君の諜報部隊には、エリアーデ殿の使節団に影として同行してもらう。……そして、クロスロードに集まる全ての情報を収集し、……ザルツガルド商業ギルドの内部に我々の協力者を作り出してほしい」
「……ギルドの中に、ですか……?」 リリナがゴクリと喉を鳴らした。
「ああ。……リオニス王国が我々と戦うためには莫大な戦費が必要だ。その戦費を裏で支えているのは商業ギルドの莫大な富だ。……もし、その資金源を内側から断ち切ることができたなら。……あるいは、その富の一部を我々へと向けることができたなら。……戦局は、戦う前に決する」
軍事、工業、外交、諜報。 そして経済。 その全ての要素を複雑に組み合わせ、半年後の勝利というただ一点のゴールへと向かわせる。 それは、まさに一人の天才プロジェクトマネージャーが描き出した壮大な国家戦略のグランドデザインだった。
幹部たちは、もはや言葉もなかった。 彼らは、ただ自分たちのリーダーのその恐るべき頭脳と、その底知れない深謀遠慮に圧倒されていた。
「――これが、僕の最高指導者としての『最初の仕事』だ」 ケイは、静かに宣言した。 「異論は、あるか?」 その問いに否と答える者は一人もいなかった。 彼らの心は今、確かに一つになった。 この偉大なリーダーと共に、この絶望的な未来へと立ち向かう覚悟。
こうして、アーク連邦建国最初の日。 この小さな理想郷の運命を左右する四つの巨大なプロジェクトが、同時にその産声を上げたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに、アーク連邦が国家として本格的に動き出しました。 建国の熱狂も束の間。ケイの視線は、既に半年後のリオニス王国との決戦を見据え、そのための壮大な布石を打ち始めました。 軍事、工業、外交、諜報、経済。 その全てを連動させるケイのプロジェクトマネージャーとしての真価が発揮されていきます。
さて、これにて第六巻『アーク連邦建国』は完結となります。 この第六巻の物語は、いかがでしたでしょうか。
次回より、物語はいよいよ第七巻『外交戦線』へと突入します。 エリアーデとリリナ、二人のヒロインがケイの名代として、未知なる大都市クロスロードへと旅立ちます。 彼女たちを待ち受ける、華やかな、しかし腹黒い外交の舞台。 どうぞ、ご期待ください。
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