第134節: アーク連邦、誕生の刻
いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。 第六巻『アーク連邦建国』編、ついに、そのクライマックスの瞬間がやってまいりました。
前回、アークシティの中央広場で始まった建国式典。 ケイの魂の演説は、住民たちの心を一つにしました。 今回は、その熱狂の頂点で彼が放つ、歴史的な第一声。 どうぞ、その瞬間にお立ち会いください。 それでは第四巻の第二十二話となる第百三十四話、お楽しみください。
中央広場を支配していたのは、熱狂的な、しかしどこか厳粛な静寂だった。 二百十七の魂が息を殺して見守っている。 彼らの小さな、しかし偉大なリーダーが次に紡ぐ言葉を。 その一言が自分たちの未来の全てを決定づける、歴史的な一言になることを誰もが予感していたからだ。
ケイ・フジワラは演台の上に立ち、その二百十七対の真っ直ぐな視線を一身に受け止めていた。 彼の背後には、ドゥーリンが魂を込めて刻み上げた『アーク憲章』の石碑が春の陽光を反射して眩いほどに輝いている。 『第一条:全ての市民は、法の下に平等である』 その黄金の文字が、まるで彼の背中を押しているかのようだった。
彼はゆっくりと息を吸い込んだ。 そして、その青い瞳にこの世界を変えるのだという絶対的な意志の光を宿らせた。
「――故に、僕はここに宣言する!」
その声はもはや十歳の少年のものではなかった。 それは、一つの新しい時代の幕開けを告げる歴史の声だった。
「今日、この日、この瞬間!
創世暦10225年、春の満月の日!」 「我らフロンティア村の全ての民は、その旧き名を捨て、自らの尊厳と未来を守る誇り高き市民として生まれ変わる!」 「我らが築き上げたこのアークシティを永遠の首都と定め!」 「我らが魂の誓いであるこのアーク憲章を国家不動の礎とする!」
彼の言葉の一つ一つが住民たちの魂を震わせる。 そして彼は、この日のためにエリアーデとリリナが徹夜で作り上げた一つの旗を天に掲げた。 それは、黒曜石のような漆黒の地に、白い月(ルナリアを象徴する)と緑の若葉(エリアーデを象徴する)が絡み合い、その中心で鋼鉄の槌(ドゥーリンを象徴する)と狼の牙(ガロウを象徴する)が力強く交差するデザイン。 そして、それら全てを大陸の地図を模した蒼い円環(ケイの知識と法を象徴する)が優しく包み込んでいる。 多種族の融和と、技術と自然の共存。 アークの理想の全てが込められたその美しい旗を。
彼は高らかに掲げ、そして叫んだ。 この世界の歴史に永遠に刻まれることになるその名前を。
「――我ら、アーク連邦の建国をここに高らかに宣言するッ!!!!」
その言葉が放たれた瞬間。 時は止まったかのように思えた。 そして、次の刹那。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあれおおおおお!!!!」」」
二百十七の魂が一つになった歓喜の咆哮。 それはもはやただの声ではなかった。 それは、この見捨てられた土地に生まれた新しい国家の産声そのものだった。 地が揺れ、空が震え、まるで世界そのものがその誕生を祝福しているかのようだった。 狼獣人たちがその鋼の槍を天に突き上げ、ドワーフたちがその無骨なハンマーを打ち鳴らす。 エルフたちは祝福の光の矢を空へと放ち、猫獣人たちはその身軽な身体で宙を舞った。 誰もが泣き、笑い、そして叫んでいた。 自分たちの国が生まれた。 自分たちの手で創り上げた理想の国が。
ケイは、その熱狂の渦の中心で静かにその光景を見つめていた。 彼の胸の奥底から、これまでに感じたことのない熱い感情が込み上げてくるのを感じていた。 前世、システムエンジニア藤堂慧として彼が感じていた達成感。 それは、納期を守ったという安堵とクライアントの満足を得たというささやかな喜びだけだった。 だが今、彼が感じているこの感情は全く違う。 これは安堵ではない。 これは始まりだ。 二百十七の魂の未来をその両肩に背負う、重く、しかし何よりも誇り高い責任の始まり。 彼はそっと、両脇で同じように涙を流しながら微笑んでいる二人の美しいパートナーの手を強く握りしめた。 ルナリアとエリアーデ。 彼女たちがいなければ、この奇跡は決して起こらなかった。
彼は空を見上げた。 そのどこまでも青い空の向こう側。 かつて自分をこの世界へと送り出したあの世界のシステム管理者の顔が浮かんだ気がした。 (……見ていますか、神様) 彼は心の中で静かに語りかけた。 (……あなたが、仕様外のバグだと言った僕の人生。……そのバグが今、ここに一つの新しい世界を創り出しました。……あなたが望んだシミュレーションの結果とは違うかもしれない。……だが、これこそが僕が僕たちが見つけ出した最高の答え(ソリューション)だ)
アーク連邦、建国。 それは、一人の元・社畜SEの壮大な異世界再起動が、その最初のそして最も重要なマイルストーンを達成した記念すべき瞬間だった。 だがそれは決してゴールではない。 壮大な物語のまだ序章に過ぎないことを、ケイ・フジワラだけは知っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます! ついにアーク連邦が建国されました! ケイの魂の宣言。 そして、それに応える仲間たちの歓喜の咆哮。 第六巻『アーク連邦建国』、そのクライマックスとなるこの歴史的な瞬間を皆様と共有できたことを、心から嬉しく思います。
さて、国家は誕生しました。 しかし、プロットにも示されている通り、物語はここで終わりません。 次回、第135節。 この熱狂の中で、ケイとその仲間たちはそれぞれ何を想うのか。 そして、ケイが最高指導者として最初に取り掛かる、「最初の仕事」とは。 第六巻のエピローグへと続いていきます。
「面白い!」「建国おめでとう!」「感動した!」など思っていただけましたら、ぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、新しい国家アーク連邦の未来を照らす光となります!




