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第133節: 創世暦10225年、春。

アークシティの全ての民の総意によって可決された『アーク憲章』。 法という魂を手に入れた彼らの、次なるステップ。 それは、自らの誕生を世界に高らかに宣言する、壮大な建国式典でした。 どうぞ、その歴史的な瞬間をお見届けください。 それでは、第四巻の第二十一話となる第百三十三話、お楽しみください。

創世暦10225年、春。 大陸の歴史において、永く、永く、記憶されることとなる、その運命の一日が幕を開けた。 空はどこまでも青く澄み渡り、まるでこの新しい国家の誕生を祝福するかのように、柔らかな陽光がアークシティの真新しい石畳の上へと降り注いでいた。 都市は、これまでにないほどの厳粛な、そして晴れやかな熱気に包まれていた。 住民投票から三日。 そのあまりにも短い期間で、この都市はケイ・フジワラの神の如き指揮の下、その姿を一変させていた。


中央広場。 そこはもはや、ただの集会の場所ではなかった。 ドゥーリン・ストーンハンマーが、その弟子たちと文字通り不眠不休で創り上げた、一つの芸術品へと昇華されていた。 広場の中心には、あの黒曜石の丘から切り出された、高さ十メートルを超える巨大な一枚岩のオベリスクがそびえ立っている。 その鏡のように磨き上げられた、四つの側面。 その一つには『アーク憲章』の全文が、ドワーフの神業によって、一文字、一文字、寸分の狂いもなく刻み込まれている。 そして残る三つの側面は、まだ空白のまま。 それはケイの指示だった。 『――歴史とは、我々がこれから、自らの手で刻み込んでいくものだ。……この空白こそが、我々の無限の可能性の象徴だ』 そのオベリスクの前には、白亜の大理石で作られた荘厳な演台が設置されている。


その広場を埋め尽くしていたのは、このアークシティの全ての住民たちだった。 その数、二百十七名。 彼らは皆、この日のために、エリアーデの魔術師団が風の精霊の加護を与えた、真新しい統一の意匠の衣服を身に纏っていた。 種族ごとに異なる色。 狼獣人族は大地を象徴する深い茶色。 ドワーフ族は鋼を象徴する鈍色の灰色。 エルフ族は森を象徴する鮮やかな緑色。 猫獣人族は影を象徴するしなやかな黒。 兎人族は薬草を象徴する純粋な白。 そして新しく加わった仲間たちもまた、それぞれに自らの誇りを示す色を身につけている。 その色とりどりの装束が、まるで一つの巨大なモザイク画のように広場を彩っている。 彼らはもう、ただの寄せ集めの難民ではない。 『アーク連邦』という一つの理想の下に集った、誇り高き最初の市民たちだった。


彼らは息を殺して待っていた。 その視線の先にあるのは、ただ一つ。 白亜の演台。 そこに、彼らの運命を導く小さなリーダーが姿を現す、その瞬間を。


やがて、庁舎の鐘が正午を告げた。 その荘厳な鐘の音と共に。 ケイ・フジワラが、ゆっくりとその姿を現した。 彼の服装は、いつもと変わらないシンプルで機能的な白いシャツと黒いズボン。 だが、その小さな肩には、アークシティの全ての種族の色を織り込んだ、美しいケープが掛けられていた。 それは、ルナリアとエリアーデがこの日のために三日三晩徹夜で織り上げた、世界に一つだけの礼装だった。


彼は一人で演台へと進み出た。 ガロウもドゥーリンもエリアーデもルナリアも、彼と共には立たない。 彼らは今、この瞬間、それぞれの民と共に、広場でこの歴史的な瞬間を見守る一市民であることを選んだのだ。 ケイは、その仲間たちの想いを背中に感じながら、ゆっくりと演台の中央に立った。 二百十七対の瞳。 その全ての視線が、今、彼一人の上に注がれている。 それは、尋常な人間であればその重圧だけで倒れてしまいそうな、あまりにも巨大な期待と信頼の塊だった。


だがケイは静かだった。 彼の青い瞳には、一切の緊張も高揚もなかった。 そこにあるのは、ただこれから実行する一つの重要なタスクを見据える、プロジェクトマネージャーのどこまでも澄み切った覚悟だけだった。 彼はゆっくりと息を吸い込んだ。 そしてその声を、この都市の全ての魂に、そしてこの世界の全ての理に響き渡らせるかのように、高らかにその第一声を放った。


「――アークシティ、市民諸君」


その声は、マイクも魔術も使っていない。 だがそれは、広場の隅々にまで染み渡るように響き渡った。 「我々は今日、この日、この瞬間に立ち会うために生まれてきた。……我々は人間に追われた。理不尽な暴力に故郷を奪われた。……我々は飢え、凍え、そして絶望した。……だが我々は屈しなかった」


彼の言葉が、住民たち一人一人の胸の奥に刻まれた痛みの記憶を呼び覚ます。 「我々は出会った。……この見捨てられた土地で、種族も過去も違う我々は出会った。……そして我々は決意した。……もう誰にも奪わせはしない、と。……自らの尊厳と未来を、その手で掴み取るのだ、と」


彼の視線が炎のように燃え上がる。 「我々は戦った!


飢えと戦い、冬と戦い、そして我らの理想を踏みにじろうとする、圧倒的な暴力と戦った!


……そして我々は勝った!」


その言葉に、住民たちの拳が強く握りしめられる。


「我々は創った!


この荒れ果てた大地に、鋼の技術を打ち立て、魔法の奇跡を呼び起こし、そして何よりも、強固な絆で結ばれたこの理想郷を創り上げた!」 彼の手が、眼下に広がる美しい都市の光景を指し示す。


「そして今!


我々は、その全ての営みの集大成として、我らが魂の拠り所となる憲章を手に入れた!


……もはや我らを縛る不当な権力はない!


我らを支配する王も貴族もいない!


我らの主はただ一つ!


我らが自ら選び取った、この偉大なる『法』、ただ一つだ!」


その宣言に、広場から地鳴りのような歓声が上がろうとする。 だがケイはそれを手で制した。 今、この瞬間こそが最も重要な瞬間。 彼は、その小さな身体の奥底から絞り出す全ての想いを込めて、最後の言葉を紡いだ。 その言葉こそが、この世界の歴史を永遠に変えることになる、建国の産声だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます! アークシティの建国式典が、ついに始まりました。 ケイの魂の演説。 彼と仲間たちが歩んできた苦難の道のり。 その全てが報われる瞬間の序章です。


さて、ついに次回。 ケイの口から、あの言葉が放たれます。 アーク連邦、建国宣言。 第六巻、最大のクライマックスです。 どうぞ、その歴史的な瞬間をお見逃しなく。


「面白い!」「演説、感動した!」「ついに建国だ!」など思っていただけましたら、ぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アーク連邦建国の第一声となります!

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