第132節: 熱狂と、次なるタスク
アークシティは、歴史的な住民投票を終え、ついに一つの国家としての魂を手に入れました。
前回、圧倒的多数の『賛成』によって可決された『アーク憲章』。 それは、彼らが自らの意志で未来を選択した、感動的な瞬間でした。 今回は、その民の総意を受け、ついにこの新しい国家が世界にその誕生を告げる、壮大な建国式典が始まります。 第六巻『アーク連邦建国』、そのクライマックスの始まりです。 それでは、第四巻の第二十話となる第百三十二話をお楽しみください。
「――よって、『アーク憲章』は、たった今このアークシティ全市民の総意として、正式に可決されたッ!!!!」
ケイのその高らかな宣言は、それまで息を詰めて結果を見守っていた中央広場の静寂を、粉々に打ち砕いた。 一瞬の沈黙。 そして、次の瞬間。 二百人を超える魂が、一つの巨大な歓喜の塊となって爆発した。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」
地鳴りのような雄叫びが、アークシティの堅固な城壁を震わせ、春の夜空へと響き渡る。 狼獣人たちが天に向かって遠吠えを上げる。 ドワーフたちがその無骨な拳を突き上げ、大地を踏み鳴らす。 エルフたちは互いに抱き合い、その美しい瞳に涙を浮かべて微笑み合った。 猫獣人たちはその身軽な身体で空中へと飛び上がり、蜥蜴人たちはその硬い鱗に覆われた胸を誇らしげに叩いた。 種族の垣根も過去の確執も、今この瞬間、全て消え失せた。 彼らはただ一つの新しい国家の誕生を、その魂の全てで祝福していた。
庁舎のバルコニーの上で。 その熱狂の渦を見下ろしながら、ガロウはその傷だらけの顔をくしゃくしゃに歪め、子供のように声を上げて泣いていた。 「……やったな、大将……! ……本当に、やりやがった……! 俺たち獣の国が……。……誰にも虐げられねえ、俺たちの国が、本当に……!」 その巨体を震わせ、しゃくり上げる最強の戦士長。
「フン。……うるさい奴じゃわい」 隣でドゥーリンがそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言った。だが、その白い髭の奥で、彼の黒い瞳が赤く潤んでいるのを、ケイは見逃さなかった。 「……まあ、悪くはない。……わしが骨を折って建てた都市の門出としては、……まあ上出来じゃ」
エリアーデとルナリアは、ただ静かにその光景を見つめていた。 二人の美しい顔には、同じ穏やかな笑みが浮かんでいる。 そして彼女たちはそっと、その中央で静かに佇む一人の少年の手を取った。 エリアーデが右手を。 ルナリアが左手を。 その小さな、しかしこの全ての奇跡を成し遂げた偉大なリーダーの手を、まるで宝物のように優しく握りしめた。
ケイは、その両側からの温かい感触に、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。 彼は眼下に広がる歓喜の海原を見つめていた。 二百十七の魂の総意。 それは彼がこの世界に来て、最も手に入れたかったものだった。
(……プロジェクトフェーズ完了) 彼の脳内で、システムエンジニアとしての冷静な思考が、一つの巨大なタスクに完了のチェックマークを付ける。 プロジェクト名:『アーク憲章 合意形成』 ステータス:『完了』
前世の彼ならば、ここで安堵の息を吐き、次のタスクへと意識を切り替えていただろう。 だが、今の彼は違った。 彼はただこの瞬間の温かさを、仲間たちと分かち合う喜びを噛み締めていた。 システムエンジニア、藤堂慧はもういない。 ここにいるのは、アーク連邦最高指導者、ケイ・フジワラ。 そして何よりも、二百十七人のかけがえのない仲間たちと共に未来を歩む、一人の「人間」だった。
彼はゆっくりと息を吸い込んだ。 そしてその歓喜の渦に向かって、次なる未来への一歩を高らかに宣言した。 「――皆、聞いてくれ!」 その声に熱狂が静まり、全ての視線が再び彼へと注がれる。 「憲章は可決された! 法は生まれた! ……だがそれは、この紙の上の文字が生まれたに過ぎない! この法に本当の命を吹き込むのは、これからだ!」 彼の青い瞳が強い光を宿す。 「僕たちはこの勝利を世界に知らしめなければならない! 僕たちがもはや、リオニス王国の不当な干渉に屈するただの亜人の集落ではないということを! 僕たちがこのアーク憲章という崇高な理念の下に結束した、一つの独立国家なのだということを!」
彼は天にその小さな拳を突き上げた。 「――三日後! この中央広場で、『アーク連邦、建国式典』を執り行う! 僕たちの国家の誕生を、この大陸の全ての国々に、そして天におわす神々にさえ高らかに宣言する祝祭だ!」
そのあまりにも壮大で、そしてあまりにも誇り高い、次なるプロジェクトの宣言。 住民たちの心に再び熱狂の火が灯る。 そうだ。 まだ終わりではない。 これからが本当の始まりなのだ。
「ガロウ!」 「おうよ!」 「建国式典の警備と式典の進行、その全てを君に任せる! アーク連邦最初の国家行事だ。……失敗は許されない!」 「任せとけ大将! 人生で最高の祭りにしてやるぜ!」 「ドゥーリン殿!」 「うむ!」 「式典のためのモニュメントと、このアーク憲章を永遠に刻み込む石碑を! 三日いや二日で創り上げろ!」 「フン! 二日もいらんわい! わしの生涯最高の芸術品を、一晩で仕上げてくれるわ!」 「エリアーデ! ルナリア! リリナ!」 「「「はい!」」」 「君たちにはこの式典に、諸外国からの使節を招待するための準備を始めてほしい!」
その言葉に、三人の少女たちの顔に緊張が走った。 「……しょ、諸外国ですって、ケイ!?」 「そうだ。……僕たちの建国を彼らに認めさせる。……それこそがこの式典の真の目的なのだから」
ケイの瞳は、もはやこの小さな都市ではない。 その遥か彼方、この大陸の全ての国々との『外交』という新しい戦場を見据えていた。 アーク連邦建国。 その産声は、彼が想像するよりも遥かに早く、そして遥かに大きく、この大陸の勢力図を塗り替えていくことになる。 その歴史の歯車が今、確かに音を立てて回り始めた瞬間だった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
ついに『アーク憲章』は、民の総意を得て可決されました。 アークシティは真の法治国家として、その歴史的な第一歩を踏み出しました。 感動的な住民投票のシーンが、少しでも皆様の心に響いていれば幸いです。
さて、法は制定されました。 次回より物語は、いよいよ第34章『建国宣言』へと突入します。 法という魂を手に入れたアークシティ。 その誕生を世界に知らしめる、壮大な建国式典が始まります。
本年もこの壮大な国創りの物語を、どうぞよろしくお願い申し上げます! 「面白い!」「住民投票感動した!」「全会一致じゃなくてよかった!」など思っていただけましたら、ぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の一票が、アークシティの未来を創ります!




