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第128節:保健衛生局長

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき誠にありがとうございます。

第六巻『アーク連邦建国』編その第三章『国家の設計図』もいよいよこれが最後のセクションとなります。


前回アーク連邦の主要な柱となるガロウ、ドゥーリン、そしてエリアーデの任命が完了しました。

残るはただ一人。

ケイにとって最初の仲間であり何よりも大切なパートナー、ルナリア・シルヴァームーン。

彼女に与えられるその役割とは。

それでは第百二十八話お楽しみください。

議場の熱狂は最高潮に達していた。

『軍務大臣』ガロウ。

『工務大臣』ドゥーリン。

『宰相補佐官』エリアーデ。

アーク連邦の未来を担う最強の布陣。そのあまりにも頼もしすぎる顔ぶれに全てのリーダーたちがこの新しい国家の輝かしい未来を確信していた。


その歓喜の渦の中で。

ケイは静かにその視線を議場の片隅に座る一人の少女へと向けた。

銀色の長い髪を三つ編みにした月光兎族の少女。

ルナリア・シルヴァームーン。

彼女はその熱狂の輪に加わることなくただ静かにケイのその組閣の全てを見届けていた。

その美しい真紅の瞳には仲間たちの晴れやかな姿を祝う喜びとそしてほんのわずかな寂しさが浮かんでいた。


(……すごい。……みんなすごいな……)

彼女は内心で呟いていた。

ガロウさんはこの国の盾に。

ドゥーリンさんはこの国の槌に。

エリアーデさんさえも大将の右腕としてその知性を発揮する。

誰もがこの新しい国家の中で自らに相応しい重要な役割を見つけていく。

(……それに比べて私は……)

彼女はそっと自分の小さな手のひらを見つめた。

薬草をすり潰しポーションを作るこの手。

確かにゴブリン・スタンピードの戦いの後多くの負傷者を治療した。エルフの森の病を癒す手助けもした。

だがそれはこれから始まる国家と国家の駆け引きや壮大な都市建設に比べればあまりにも地味でそして小さな仕事に思えた。

自分はもうこの偉大なリーダーの隣に立つ資格はないのではないか。

彼の歩む速度についていけずただ置いていかれるだけの存在になってしまうのではないか。

そんな漠然とした不安が彼女の心を冷たく包み込もうとしていた。


ケイはまるでその彼女の心の微細な揺らぎさえも全て見透かしているかのようにその青い瞳を優しく細めた。

彼はその熱狂する議場を静かに手で制した。

そして全ての注目が再び彼に集まるのを待って静かにそして何よりも大切な宝物の名前を呼ぶかのように言った。


「――そして最後に」

彼の声が響き渡る。

「このアーク連邦という国家がその理想を実現するために最も不可欠な……最後のピースを発表する」


最後のピース。

議場が静まり返る。

誰もがその重要な役職が誰に与えられるのかを息を殺して見守っていた。


ケイはルナリアの元へとゆっくりと歩み寄った。

そしてその不安げに揺れる真紅の瞳をまっすぐに見つめ返すとその小さな手を優しく取った。


「――ルナリア・シルヴァームーン」


「……は、はい……」

ルナリアが驚きと戸惑いに小さな声で答える。


ケイは彼女のその小さな手を議場にいる全ての仲間たちに見せるかのようにそっと掲げた。

「彼女には五省の一つ『内務省』 の管轄下となる一つの独立した部局の長を担ってもらう」


彼は黒板に内務省から枝分かれした新しい箱を描き加えた。

その名前。

『保健衛生局』。


「……ほけんえいせい……?」

ルナリアが聞き慣れない言葉を反芻する。


「ああ。……『保健』とは人々の健康を保つこと。『衛生』とは病の原因となる不潔を取り除き命をまもることだ」

ケイはその新しい部局の重要性を全てのリーダーたちに理解させるように語り始めた。

「ガロウが外敵から国を守る盾だとするなら。ドゥーリンが未来を創る槌だとするなら。……彼女がこれから担うこの仕事は、この国家の内部に潜む目に見えない最大の敵――『病』という名の脅威から我ら全ての市民の命を守る最も重要な『免疫システム』だ」


彼の脳裏には前世の歴史が刻まれている。

どれほど強大な帝国もどれほど優れた文明も。

たった一つの目に見えないウイルスのパンデミックによってあまりにもあっけなく崩壊していった数多の悲劇。

軍事力や工業力だけでは国家は守れない。

その基盤となる国民の「生命」そのものを守るシステムこそが何よりも重要なのだ。


「ルナリア。……君にはこのアーク連邦初代『保健衛生局局長』としてこの都市の全ての医療と衛生を司る全権を委任する」

ケイは彼女の瞳を見つめたまま続けた。

「アークシティ中央病院の建設と運営。

新しい薬の研究開発とその量産体制の確立。

君が提唱したあの下水処理システムやゴミ焼却システムの管理と運用。

そして何よりもこの都市に住む全ての市民の健康を守り未来の命を育むための国家レベルでの医療体制の構築。……その全てを君に任せたい」


それは大臣という派手な名前こそついていない。

だがその職務の重要性は他のどの大臣にも決して引けを取らない。

いやむしろ人々の生活に最も密着した最も尊い仕事。


ルナリアは震えていた。

自らが抱いていた不安。

自分は彼の役に立てないのではないかという劣等感。

それらが全ていかに愚かな杞憂であったかを思い知らされた。

彼は忘れてなどいなかった。

それどころか自分という存在の本質を誰よりも深く理解しそして自分にしかできない最も相応しい最高の舞台を用意してくれていたのだ。


「……ケイ……」

彼女の真紅の瞳から一筋の熱い雫がこぼれ落ちた。

それは嬉し涙だった。

「……私でいいのですか……?


そんな大切な仕事を……私なんかが……」


「君しかいない」

ケイはきっぱりと言った。

その声には絶対的な信頼が込められていた。

「君がいなければ僕は、この世界に来た最初の日あの森で死んでいた。

君がいなければこの村はゴブリン・スタンピードの戦いで負傷した仲間たちを救えなかった。

君がいなければエルフの森は今も病に蝕まれていた。

……君はいつだって僕のそしてこの村の命を救ってくれた最高の薬師だ。……そして何よりも」


彼はそっと彼女の涙を指で拭った。

「……君は僕がこの世界で初めて出会った……最初の、大切な『仲間』だ。……君がこの国の生命を守る最後の砦でいてくれること以上に僕が安心できることがあると、思うか?」


そのあまりにも不器用でそしてあまりにも真っ直ぐな最大級の愛の告白。

ルナリアの顔がカッと真っ赤に染まった。

彼女はもう何も言えなかった。

ただその小さな胸が張り裂けそうになるほどの幸福感に包まれながら人生で一番力強く頷くことしかできなかった。

「……はいッ!!!!」


その魂からの返事。

議場はこの日四度目となる最大級の拍手と歓声に包まれた。

それはこのアーク連邦という国家がその最後のそして最も温かい心の支柱を手に入れた瞬間だった。

ケイはその真っ赤になって俯いてしまった天才薬師の手を優しく握りしめながら静かに微笑んでいた。

これで役者は揃った。

彼の創り上げる理想の国家は今最強の仲間たちと共にその最初の一歩を踏み出す。

最後までお読みいただきありがとうございます!

ついにアーク連邦の最初の組閣が完了しました!

『軍務大臣』ガロウ。

『工務大臣』ドゥーリン。

『宰相補佐官』エリアーデ。

そして『保健衛生局長』ルナリア。

ケイの最初の仲間たちがそれぞれその重責を担う最高のドリームチームの誕生です。

そしてケイのルナリアへの不意打ちの告白。……ごちそうさまでした(笑)。


さて国家の設計図は完成しました。

次回より物語はいよいよ第三章『民の総意』へと突入します。

このあまりにも革新的な国家の形。

それを住民たちがどう受け止めるのか。

どうぞご期待ください。


「面白い!」「ルナリアおめでとう!」「ケイ不意打ちずるい!」など思っていただけましたらぜひブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援がアーク連邦の未来を創ります!

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