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第122節: 冷徹な未来予測

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき誠にありがとうございます。 第六巻『アーク連邦建国』編その第二話となります。


前回アークシティは戦争の勝利とその重い代償を受け止めました。 勝利に浮かれることなく現実を直視する。 その土台ができた今。 我らがプロジェクトマネージャーはついにこの都市の未来を決定づける最も壮大なプロジェクトを提唱します。 それでは第百二十二話お楽しみください。

アークシティの復興は早かった。 ドゥーリン率いる工務部隊がその神業の如き技術で破壊された北側防壁を以前よりもさらに堅固なものへと作り変えていく。 ガロウ率いる警備隊が都市の内外を巡回し住民たちの不安を取り除いていく。 そしてルナリア率いる保健衛生局が負傷者たちの心と身体のケアに全力を尽くしていた。 エリアーデもまたルナリアの献身的な治療の甲斐あり一命を取り留め今や自らの魔力回路の回復に努めていた。 都市は急速にその活気を取り戻しつつあった。 誰もがこれで本当の平和が訪れたのだと信じ始めていた。






だがその穏やかな空気とは裏腹に。 庁舎最上階の最高評議会の議場は氷のような緊張感に包まれていた。 ケイが招集した緊急のリーダー会議。 その議題は「戦後処理」などという生易しいものではなかった。



「――まず現実を共有しよう」 ケイは巨大な黒板の前に立ちそこに今回の戦闘の詳細なログデータを書き出していった。 敵の兵力。 こちらの兵力。 そして消費したリソースの全て。 「我々は勝った。それは事実だ。だがその勝利はあまりにも多くの奇跡的な要因の上に成り立っていた薄氷の勝利だった」


彼の静かな声が議場に響き渡る。 「第一に敵の油断。ギュンター辺境伯は我々をただの獣の集団と侮っていた。 だからこそ我々の火計や奇襲があれほどの効果を上げた」 「第二に我々の新兵器の秘匿。クロスボウも魔導爆薬もそして『神の槌』も。 全てが敵にとって未知の脅威だった。だが一度見せた手品は二度は通用しない」 「そして第三にエリアーデ殿の自己犠牲的な奮戦。彼女の結界が数秒破られるのが早ければ我々は今ここにはいない」






そのあまりにも冷徹でそして客観的な分析。 勝利の余韻に浸っていたリーダーたちの顔が険しくなっていく。


「……大将。……言いたいことは分かる」 ガロウが重い口を開いた。 「……つまり次も勝てるとは限らねえ。……そういうことだろ?」


「その通りだ」 ケイはきっぱりと頷いた。 「今回の戦いで我々は自らの手の内を全て晒してしまった。……そして何よりも」


彼は黒板に一つの単語を書き出した。 『リオニス王国』 「我々が倒したのはギュンター辺境伯という一人の貴族が率いる私兵に毛の生えた軍隊だ。 ……だがその背後には彼が所属するリオニス王国という巨大な国家そのものが控えている。 ……君たちはギュンターの脳から抜き出したこの情報をどう見る?」





ケイはそう言うとギュンターから抜き出した王国の内部情報を記した羊皮紙をテーブルの上に広げた。 そこには王国が保有する正規軍の総数。 騎士団の編成。 そして王都に控えている宮廷魔術師団の規模。 その全てが詳細に記されていた。


ガロウもドゥーリンもそしてエリアーデさえもそのあまりにも圧倒的な数字の羅列を前にして息を呑んだ。 辺境伯の軍勢千。 それは王国が持つ総兵力のわずか二十分の一にも満たない数字でしかなかったのだ。


「……冗談だろ……」 ガロウの声が震えていた。 「……これが本国軍……。……こんな化け物みてえな軍隊がもし本気で俺たちを潰しに来たら……」


「……その答えは言うまでもない」 ケイは静かに告げた。 「……我々は全滅する。……今度こそ奇跡も何もない。……ただ圧倒的な物量の前に蹂躙され消え去るだけだ」


議場は死の沈黙に包まれた。 せっかく手に入れた勝利。 せっかく守り抜いた平和。 その全てがあまりにも脆くそして儚い砂上の楼閣でしかなかったのだと。 その絶望的な事実を彼らは今突きつけられたのだ。


「……ではどうしろというのだ小僧」 ドゥーリンが絞り出すような声で言った。 「……降伏か?……それともこの土地を捨ててさらに奥地へと逃げ延びるか?」


その問いにケイはゆっくりと首を横に振った。 「そのどちらも選ばない」 彼の青い瞳に再びあの冷徹なしかし力強い光が宿った。 「逃げても無駄だ。彼らは我々が持つ『技術』を知ってしまった。 ……彼らはそれを手に入れるまで地の果てまで追いかけてくるだろう」 「降伏は論外だ。……我々が何のために血を流したのか。……隷属するために戦ったわけではない」



彼はその場の全ての仲間たちの絶望に沈んだ顔を見渡した。 そして彼は静かにしかしこの都市の未来を決定づける最も重要な提案を口にした。


「――我々が生き残る道はただ一つだ」 彼は黒板に新しい文字を書き出した。


『国家』


「我々もまた『国家』となるんだ」 そのあまりにも突拍子もない宣言。 リーダーたちは呆然とその文字を見つめた。


「……国家だと?……大将それはどういう……」


「言葉通りの意味だガロウ」 ケイはきっぱりと言った。 「リオニス王国がなぜ強いのか。それは彼らが『国家』だからだ。……法があり政府がありそして何よりも他の国々から『国家である』と認められている正当性があるからだ」 「今の僕たちは彼らから見ればただの『武装した亜人の集落』でしかない。……だから彼らは何の躊躇もなく我々を蹂躙しようとする。……だがもし」


彼は続けた。 「もし僕たちが彼らと対等な『国家』としてこの大陸に存在したとしたら? ……もし僕たちがリオニス王国以外の他の国家と『外交関係』を結び同盟を組んだとしたら?……そうすればリオニス王国もおいそれとは手出しができなくなる。……下手に我々を攻撃すれば他の全ての国を敵に回す可能性が出てくるからだ」


それはもはやただの軍事的な防衛論ではなかった。 それは政治と外交という全く新しい戦場での戦いを見据えた高度な国家戦略だった。


「僕たちが生き残る道。それはもはやこの城壁の内側に閉じこもることではない。……この城壁を開き堂々と外の世界へと打って出て僕たちの存在を『国家』として世界に認めさせること。……それしかない」


そのあまりにも壮大でそしてあまりにも危険な賭け。 リーダーたちは言葉を失っていた。 だが彼らの心の奥底で何かが変わろうとしていた。 絶望が消え代わりに一つのとてつもない野心という名の火種が生まれようとしていた。


ケイはその空気の変化を感じ取り最後の一押しをした。 「――僕はここに正式に提案する。……我らアークシティは本日これより単なる自治都市であることをやめ……一つの独立した主権国家としてその建国を目指す」


その静かなしかし歴史を動かす宣言。 それはこの見捨てられた土地に亜人による史上初の国家がその産声を上げる始まりの鐘の音だった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


戦争には勝った。 だがその先に待っていたのはさらに巨大な国家という脅威。 その絶望的な現実を前にケイが提示した唯一の活路。 それは自らもまた『国家』となることでした。


ついに物語は『建国編』の核心へと突入します。 次回ケイが提示するその新しい国家の具体的な青写真。 果たしてリーダーたちはそのあまりにも壮大な夢に乗るのでしょうか。


「面白い!」「ついに建国!」「ケイの戦略スケールがデカすぎる!」など思っていただけましたら是非ブックマークと↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援がアーク連邦建国の最初の一票となります!

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