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第120節: ミッションコンプリート

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

アークシティの、存亡を賭けた、独立戦争。ついに、その、最終局面を、迎えました。

第五巻『独立への試練』、堂々の、最終話。

どうぞ、その、歴史的な、瞬間を、お見届けください。

「……大将。……こいつの、処分は、どうする?」


ガロウの、その、低い、問いは、天幕の中の、全ての、音を、吸い込んでいった。

吹雪の、轟音も、遠くで、聞こえる、兵士たちの、喧騒も、全てが、遠い。

ただ、血塗れの、戦斧の、切っ先が、ギュンター辺境伯の、肥えた、首筋に、食い込む、その、微かな、音だけが、やけに、リアルに、響いていた。

生かすのか、殺すのか。

アークシティの、未来を、左右する、その、究極の、選択。

その、全ての、答えは、今、ケイ・フジワラの、その、小さな、唇に、委ねられていた。


ケイは、静かに、閉じていた、その、青い瞳を、ゆっくりと、開いた。

彼の、脳内では、最後の、シミュレーションが、完了していた。

ギュンターを、生かした場合の、未来予測。

そして、殺した場合の、未来予測。

その、どちらにも、メリットと、デメリットが、存在した。

生かせば、王都との、交渉の、カードになるかもしれない。だが、同時に、彼は、いずれ、必ず、アークシティへの、復讐を、企てるだろう。その、憎しみの、連鎖を、断ち切ることは、できない。

殺せば、当面の、脅威は、去る。だが、それは、リオニス王国に対する、完全な、宣戦布告と、なる。彼らは、辺境伯殺しという、大義名分を得て、さらに、巨大な、討伐軍を、派遣してくるだろう。


どちらを選んでも、茨の道。

ならば、選ぶべき、道は、一つだ。

――より、この、アークシティの、理念に、沿った、道を。


だが、その、ケイが、口を開くよりも、早く。

絶望の、淵にいた、ギュンター辺境伯が、最後の、そして、最も、醜い、悪あがきを、始めた。

「ま、待て!


待ってくれ!」

彼は、その、泥と、涙と、鼻水に、まみれた顔を、上げ、必死に、命乞いを、始めた。

「こ、殺さないでくれ!


た、助けてくれるなら、何でも、する!


金か!?


金なら、いくらでも、くれてやる!


俺の、城の、宝物庫には、山ほどの、金銀財宝が……!」


その、あまりにも、見苦しい、姿。

ガロウの、黄金色の瞳に、深い、深い、侮蔑の、色が、浮かんだ。

「……黙れ、豚」

彼の、声は、絶対零度の、冷たさを、帯びていた。


「ち、違う!


地位か!?


そうか、貴様ら、獣共も、貴族に、なりたいのだろう!


いいだろう!


俺が、王都に、口利きをしてやる!


お前たちに、子爵の、位階を、与えるように、陛下に、進言して……!」


その、言葉が、最後の、引き金だった。

ガロウの、脳裏に、フラッシュバックする。

故郷を、焼かれ、仲間を、殺され、そして、幼い、妹を、目の前で、蹂躙された、あの日の、記憶。

あの時、自分たちを、嬲り殺しにした、王国の、騎士たち。

彼らもまた、同じ、目を、していた。

自分たちを、人間とは、思わない、ただの、獣と、見下す、あの、傲慢な、目を。


「……てめえは、最後まで、分からねえようだな」

ガロウは、静かに、呟いた。

その声は、もはや、怒りではなかった。

ただ、どうしようもない、深い、諦観と、そして、悲しみに、満ちていた。

「……俺たちが、欲しいのは、金でも、地位でもねえ。……ただ、静かに、生きたい。……ただ、それだけだったんだ。……その、ささやかな、願いを、てめえは、てめえの、その、くだらねえ、プライドのために、踏みにじった。……その、罪の、重さを、てめえの、その、豚の、脳みそじゃあ、死ぬまで、理解できねえようだな」


彼は、ゆっくりと、その、血塗れの、戦斧を、振り上げた。


「……待て、ガロウ」


その、最後の、瞬間を、止めたのは、ケイの、静かな、声だった。

ガロウは、はっとしたように、動きを止め、自らの、大将を、振り返った。

その、瞳には、「なぜ、止める」という、抗議の色が、浮かんでいた。


ケイは、静かに、ガロウの、隣へと、歩み寄った。

そして、彼は、ガロウの、その、巨大な、戦斧を、その、小さな手で、そっと、下ろさせた。

そして、彼は、ガロウにしか、聞こえない、小さな、声で、囁いた。

「……君の、その、綺麗な、斧を、こんな、豚の、血で、汚すことはない」


そして、彼は、ゆっくりと、ギュンターへと、向き直った。

その、青い瞳には、もはや、憐憫の色さえ、なかった。

そこにあるのは、ただ、システムのエラーを、処理する、管理者の、無機質な、光だけだった。

彼は、その、小さな、手のひらを、ギュンターの、その、脂汗の、滲む、額に、そっと、置いた。


「《アナライズ》。……対象、ギュンター・フォン・ロックウェル。……その、脳内メモリに、記録されている、全ての、軍事機密、および、王国の、内部情報。……その、全てを、僕の、データベースへと、コピーする」


「な……、な、にを……。……ぎ……、あ……」

ギュンターの、口から、意味をなさない、声が漏れ、その、灰色の瞳が、白目を、剥いた。

彼の、脳内から、凄まじい、勢いで、情報が、吸い出されていく。

それは、もはや、拷問ですらなかった。

ただ、一方的な、データの、吸い上げ。

数秒後。

ケイは、そっと、手を、離した。

ギュンターは、もはや、命乞いの、声さえ、上げなかった。

彼は、ただ、魂の、抜けた、抜け殻のように、その場に、崩れ落ちた。

彼の、脳は、完全に、破壊されていた。もはや、二度と、正気に、戻ることはないだろう。


「……これで、終わりだ」

ケイは、静かに、告げた。

「……殺しは、しない。……だが、彼が、持っていた、全ての、力は、奪った。……彼は、もはや、ただの、生きる、屍だ。……その、空っぽの、余生で、自らが、犯した、罪の、重さを、永遠に、反芻し続けるがいい」


その、あまりにも、冷徹で、そして、あまりにも、残酷な、結末。

ガロウは、息を呑んだ。

そうだ。

これこそが、自分たちの、大将の、やり方だった。

相手を、肉体的に、殺すのではない。

相手の、存在そのものを、社会的に、そして、精神的に、完全に、抹殺する。

それこそが、最大の、復讐であり、そして、最も、合理的な、解決策。


「――撤退するぞ」

ケイは、その、抜け殻に、もはや、何の、興味も、示さなかった。

彼は、仲間たちを、促し、その、地獄の、天幕を、後にした。


彼らが、去った後。

総大将を、失い、完全に、指揮系統を、失った、王国軍は、もはや、軍隊ではなかった。

彼らは、我先にと、武器を捨て、故郷へと、逃げ帰っていく、ただの、敗残兵の、群れだった。

夜が、明けようとしていた。

東の、空が、ゆっくりと、白み始める。


アークシティの、城壁の上で。

ケイたちは、その、哀れな、敗残兵たちが、雪の中に、消えていく、その、光景を、ただ、静かに、見下ろしていた。

長い、長い、戦いは、終わった。

彼らは、生き延びた。

そして、守り抜いたのだ。

自らの、故郷を。仲間を。そして、理想を。


アークシティは、その、歴史上、最初の、そして、最大の、試練を、乗り越えた。

それは、この、見捨てられた土地に、生まれた、小さな、理想郷が、誰にも、屈しない、独立国家として、その、揺るぎない、第一歩を、大地に、刻み込んだ、歴史的な、瞬間だった。


――第五巻・了――

最後までお読みいただき、誠に、ありがとうございました!

これにて、第五巻『独立への試練』は、堂々の、完結となります。

アークシティの、存亡を、賭けた、独立戦争。

ケイと、その、仲間たちの、知恵と、勇気が、見事に、勝利を、もたらしました。

辺境伯の、その、あまりにも、惨めな、最期。そして、ケイの、冷徹な、決断。

その、光景が、少しでも、皆様の、心に、残っていれば、幸いです。


さて、次回より、物語は、いよいよ、第六巻『アーク連邦建国』へと、突入します。

辺境伯軍を、退けた、アークシティ。その、名は、大陸中に、轟き渡ります。

ケイは、この、勝利を、好機と捉え、ついに、共同体を、正式な、「国家」へと、昇格させることを、決意。

アーク連邦の、建国。

それは、この、大陸の、勢力図を、根底から、塗り替える、新しい、時代の、幕開けを、告げる、鐘の音となるでしょう。


もし、この、物語の、続きが、気になる、ケイたちの、国創りを、応援したい、と思っていただけましたら、ぜひ、ブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での、評価を、何卒、よろしくお願い申し上げます。

皆様からの、応援が、作者が、第六巻の、壮大な、建国譜を、描き切るための、何よりの、力となります。


それでは、また、新しい、章で、お会いしましょう!

本当に、ありがとうございました!

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