第119節: 化け物
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
アークシティの、存亡を賭けた、独立戦争。ついに、その、最終局面を、迎えました。
前回、ケイの、圧倒的な、力の前に、完全に、心を折られた、ギュンター辺境伯。
彼の、傲慢な、プライドは、粉々に、砕け散りました。
今回は、その、哀れな、獅子の、最期と、そして、この、長い、戦いの、本当の、終わりが、描かれます。
第五巻『独立への試練』、堂々の、最終話。
どうぞ、その、歴史的な、瞬間を、お見届けください。
「……はぁっ……はぁっ……」
絨毯の上に、無様に、四つん這いになり、犬のように、荒い息を繰り返す、ギュンター・フォン・ロックウェル。
その、肥え太った、身体は、傷一つ、ついていない。だが、その、魂は、もはや、瀕死だった。
体力も、気力も、そして、何よりも、彼を、彼たらしめていた、傲慢なまでの、プライドも、全て、目の前の、この、小さな、悪魔によって、根こそぎ、奪い去られてしまった。
彼は、ゆっくりと、顔を上げた。
その、血走った、灰色の瞳が、自分を、静かに、見下ろしている、銀髪の、少年を、捉えた。
「……ば、化け物め……」
彼の、震える、唇から、か細い、呪いの、言葉が、漏れた。
「……貴様は、人間では、ない……。……人の、皮を被った、何かの、化け物だ……。……そうだ、そうでなければ、おかしい……。……獣共を、唆し、この、わしの、王国を、脅かす、悪魔の、化身だ……」
その、あまりにも、身勝手な、自己正当化。
自分は、悪くない。
悪いのは、全て、この、常識外れの、イレギュラーな、存在なのだ、と。
そう、思わなければ、彼は、もはや、正気を、保つことさえ、できなかった。
その、哀れな、負け犬の、遠吠え。
それを、聞いた、ケイの、青い瞳に、初めて、感情の、色が、宿った。
それは、怒りではなかった。
侮蔑でも、なかった。
ただ、どこまでも、深く、そして、どこまでも、冷たい、憐憫の色だった。
「……化け物、か」
ケイは、静かに、呟いた。
「……そうかもしれないな。……君のような、旧式の、システムから見れば、僕の、存在は、理解不能な、バグにしか、見えないのだろう」
彼は、一歩、ギュンターに、近づいた。
その、小さな、影が、震える、辺境伯の、巨体を、完全に、覆い尽くす。
「だが、一つだけ、訂正させてもらおう、ギュンター・フォン・ロックウェル」
ケイの、声のトーンが、変わった。
それは、もはや、ただの、システムエンジニアの、声ではない。
一つの、国家の、理念を、その、背に、負う、指導者の、声だった。
「僕たちは、君の、王国を、脅かそうなどと、思ったことは、一度も、ない」
その声は、静かだったが、天幕の中の、全ての、空気を、震わせた。
「僕たちが、望んだのは、ただ、一つ。……誰にも、脅かされることなく、誰からも、搾取されることなく、ただ、静かに、平和に、生きたい。……その、ささやかな、権利だけだ」
彼の、脳裏に、この、世界に来てから、出会った、多くの、仲間たちの、顔が、浮かび上がる。
故郷を、焼かれ、人間への、憎しみを、その、胸に、刻みつけた、ガロウ。
人間を、嫌い、千年の、孤独の中に、その、魂を、閉ざしていた、ドゥーリン。
人間を、恐れ、ただ、息を潜めて、生きることしか、できなかった、リリナと、その、仲間たち。
彼らは、皆、君のような、人間の、身勝手な、欲望の、犠牲者だった。
「僕たちは、家を、建てた。畑を、耕した。そして、法を、作った。……それは、全て、僕たちが、僕たちらしく、尊厳を、持って、生きるためだ。……僕たちは、君たちの、富を、奪おうとは、しなかった。君たちの、土地を、脅かそうとも、しなかった。……ただ、僕たちの、この、小さな、理想郷で、静かに、暮らしたかった。……ただ、それだけだったんだ」
ケイの、青い瞳が、まっすぐに、ギュンターの、その、濁った、瞳を、射抜いた。
「――その、権利を、踏みにじったのは、君の方だ、ギュンター」
その、静かな、しかし、絶対的な、断罪の、言葉。
それは、ギュンターの、心の、最後の、拠り所であった、自己正当化の、脆い、壁を、粉々に、打ち砕いた。
そうだ。
最初に、手を出したのは、自分だった。
彼らの、存在を、認めず、彼らの、尊厳を、否定し、そして、彼らの、全てを、奪おうとしたのは、自分自身だった。
その、あまりにも、明白な、事実を、彼は、今、突きつけられたのだ。
「……う……。……あ……」
ギュンターの、口から、意味をなさない、呻き声が、漏れる。
彼は、もはや、ケイの、顔を、正視することさえ、できなかった。
彼は、ただ、絨毯の上の、一点を、見つめ、自らが、犯した、過ちの、その、絶対的な、重さに、打ちのめされていた。
その、重苦しい、沈黙を、破ったのは、天幕の、入り口が、再び、静かに、開かれる、音だった。
そこに、立っていたのは、全身を、返り血で、濡らし、その、黄金色の瞳に、静かな、しかし、激しい、怒りの炎を、宿した、ガロウ・アイアンファングだった。
彼の、後ろには、ハクと、シンが、無言で、控えている。
親衛隊との、戦いは、完全に、終わったのだ。
ガロウは、天幕の中の、異様な、光景――床に、四つん這いになり、魂が、抜けたようになっている、辺境伯と、その、前に、静かに、仁王立ちになる、小さな、リーダーの、姿を、一瞥すると、全てを、察した。
彼は、ゆっくりと、ケイの、隣へと、歩みを進めた。
そして、その、血塗れの、戦斧を、ギュンターの、首筋に、そっと、当てた。
ひやり、とした、鋼鉄の、感触。
ギュンターの、肥えた、身体が、びくりと、震えた。
「……大将」
ガロウが、低い、声で、言った。
「……こいつの、処分は、どうする?」
その、問い。
それは、この、戦争の、最後の、そして、最も、重要な、問いだった。
生かすのか。
殺すのか。
その、決断は、全て、この、都市の、最高指導者、ケイ・フジワラの、その、一言に、かかっていた。
ケイは、答えなかった。
彼は、ただ、静かに、その、青い瞳を、閉じた。
彼の、脳内で、最後の、シミュレーションが、開始されていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ケイと、ギュンター辺境伯の、直接対決。その、決着が、描かれました。
武力ではなく、言葉と、理想によって、敵の、魂を、完全に、打ち砕く。
ケイの、リーダーとしての、器の、大きさが、示された、回だったかもしれません。
さて、ついに、全ての、元凶は、無力化されました。
彼の、命運は、今、ケイの、その、小さな、手のひらに、委ねられています。
ケイが、下す、最後の、決断とは。
そして、この、長い、戦いの、本当の、終わりとは。
次回、ついに、第五巻『独立への試練』、堂々の、最終話です。
絶対にお見逃しなく!
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次回もどうぞ、お楽しみに。




