第112節: 傷だらけの勝利と、次なる一手
『元・社畜SEの異世界再起動』に、多大なる、ご声援を、誠に、ありがとうございました。
今後も、ケイと、その、仲間たちの、壮大な、物語を、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
さて、アークシティ防衛戦、初日の、激戦を、終え、静寂が、戻った、夜の、物語。
圧倒的な、勝利を、収めながらも、ケイの、心は、晴れません。
仲間を、傷つけ、そして、自らの、戦略の、脆さを、痛感した、彼が、下す、次なる、決断とは。
どうぞ、その、静かな、しかし、熱い、決意を、ご覧ください。
夜は、静かだった。
数時間前まで、この場所が、鉄と、炎と、そして、断末魔の、絶叫が、渦巻く、地獄の、釜の底であったことなど、信じられないほどの、深い、深い、静寂。
時折、遠くで、傷ついた、王国軍の、兵士の、呻き声が、聞こえてくるが、それさえも、降りしきる、粉雪が、優しく、吸い込んでいく。
アークシティは、その、独立を、賭けた、最初の、防衛戦の、初日を、圧倒的な、勝利で、終えた。
だが、その、勝利の、歓声は、どこにも、なかった。
城壁の、上では、警備隊の、兵士たちが、黙々と、後片付けに、追われていた。
血に、濡れた、通路を、洗い流し、壊れた、クロスボウを、回収し、そして、壁の、下に、転がる、名もなき、敵兵の、亡骸を、静かに、見下ろしている。
彼らの、顔に、勝利の、高揚感は、なかった。
そこにあるのは、初めて、自分たちの、手で、人の、命を、奪ったという、重い、重い、実感と、そして、明日もまた、この、狂気の、殺し合いが、続くのか、という、静かな、絶望だった。
庁舎の、最上階。作戦司令室。
そこもまた、重い、沈黙に、支配されていた。
円卓を、囲む、リーダーたちの、顔には、深い、疲労の色が、刻まれている。
ガロウは、血に濡れた、戦斧を、傍らに置き、ただ、無言で、床の、一点を、見つめている。
ドゥーリンは、自慢の、白い髭を、弄びながら、今日の、戦闘で、失われた、鋼鉄の、資源量を、脳内で、計算している。
リリナは、影のように、部屋の、隅に、佇み、次の、夜襲の、ための、準備を、静かに、進めている。
そして、その、円卓の、一席は、空席だった。
エリアーデ。
彼女は今、ルナリアの、診療所で、深い、眠りに、ついている。
その、重苦しい、空気の、中で。
ケイは、ただ、一人、窓の外、闇に、沈む、敵の、陣地を、その、青い瞳で、じっと、見つめていた。
彼の、脳内では、今日の、戦闘の、全ての、ログが、何万回となく、再生され、そして、分析されていた。
勝った。
それは、事実だ。
だが、その、勝利は、あまりにも、多くの、偶然と、そして、一人の、仲間の、自己犠牲的な、奮戦の上に、成り立っていた、砂上の楼閣だった。
(……僕の、負けだ)
彼は、内心で、静かに、敗北を、認めた。
プロジェクトマネージャーとして、彼は、失格だった。
彼は、エリアーデという、一つの、極めて、高性能な、しかし、代替の、効かない、モジュールに、システム全体の、負荷を、集中させすぎてしまった。
その結果、その、モジュールは、クラッシュ寸前にまで、追い込まれた。
もし、敵の、魔術師の、攻撃が、あと、一撃でも、続いていたら。
もし、エリアーデが、そこで、倒れていたら。
この、都市は、今頃、巨大な、クレーターに、なっていただろう。
長期戦は、不利だ。
それは、敵にとって、だけでなく、味方にとっても、同じこと。
敵には、まだ、五百近い、兵力が、残っている。
彼らが、明日、再び、同じような、猛攻を、仕掛けてきたとしたら。
エリアーデを、欠いた、この都市で、果たして、それを、防ぎきれるのか。
答えは、否、だ。
(……この、戦争を、終わらせなければ、ならない。……それも、可及的、速やかに)
だが、どうやって?
敵の、総大将は、既に、いない。
だが、軍隊という、システムは、指揮官が、いなくなっても、その、副官が、後を、引き継ぐだけだ。
彼らは、明日、必ず、撤退するだろう。
だが、それは、終わりではない。
彼らは、王都に、この、惨敗を、報告し、そして、さらに、巨大な、軍勢を、率いて、再び、この、土地に、戻ってくる。
その時こそ、アークシティの、本当の、終わりが、訪れる。
その、負の、スパイラルを、断ち切るには、どうすれば、いい?
(……敵の、戦意を、完全に、破壊する。……それしか、ない)
だが、それもまた、言うは、易し、行うは、難し、だった。
今日の、圧倒的な、敗北でさえ、彼らの、心を、完全に、折ることは、できなかった。
ならば、これ以上の、何が、必要だというのか。
ケイの、思考が、袋小路に、入り込んだ、その時。
不意に、司令室の、扉が、静かに、開かれた。
そこに、立っていたのは、ルナリアだった。
その、手には、湯気の立つ、薬草茶の、カップが、二つ、乗せられている。
彼女は、何も、言わずに、ケイの、隣に、立つと、その、一つを、彼に、手渡した。
「……ありがとう、ルナリア」
「……眠れないのですか、ケイ」
「……まあな」
ケイは、曖昧に、笑った。
「……エリアーデは、どうだ?」
「……今は、落ち着いています。……ですが、魔力回路の、損傷は、思ったよりも、深い。……しばらくは、魔法を、使うことは、できないでしょう」
「……そうか」
ケイの、胸が、ちくりと、痛んだ。
「……ケイ」
ルナリアが、静かに、問いかけた。
その、真紅の瞳は、彼の、心の、奥底までを、見透かしているかのようだった。
「……また、一人で、全部、背負い込んで、いるのでしょう?」
その、言葉に、ケイは、はっとしたように、顔を上げた。
そうだ。
自分は、また、同じ、過ちを、繰り返そうとしていた。
仲間が、いる。
この、部屋には、最高の、仲間たちが、いる。
彼らに、相談もせず、一人で、答えを、出そうとすること自体が、間違っているのだ。
「……すまない」
ケイは、静かに、頭を下げた。
「……君の、言う通りだ。……僕は、少し、焦っていたらしい」
彼は、円卓へと、戻った。
そして、そこにいる、全ての、仲間たちに、自らの、悩みと、そして、弱さを、正直に、打ち明けた。
このままでは、ジリ貧になること。
エリアーデを、失った、今、明日の、戦いを、乗り切れる、自信が、ないこと。
そして、この、戦争を、終わらせるための、決定的な、一手が、見つからないこと。
その、あまりにも、素直な、リーダーの、告白。
ガロウも、ドゥーリンも、そして、他の、リーダーたちも、ただ、黙って、その言葉を、聞いていた。
そして、彼らの、心の中に、一つの、同じ、想いが、芽生えていた。
支えなければ、と。
この、小さな、しかし、偉大な、リーダーを、今こそ、自分たちが、支える番なのだ、と。
「……大将」
ガロウが、重い、口を、開いた。
「……俺に、考えが、ある」
その、言葉に、全員の、視線が、彼へと、注がれた。
ガロウは、ゆっくりと、立ち上がると、机の上の、地図の、一点を、指さした。
それは、敵の、本陣があった、場所。
そして、ケイの、『神の槌』によって、ガラス状に、焼け爛れた、巨大な、亀裂。
「……敵の、大将は、死んだ。……だが、その、死体は、まだ、あそこに、あるはずだ」
彼の、黄金色の瞳が、獰猛な、光を、宿す。
「……夜陰に、紛れ、俺たち、獣の、得意な、やり方で、奴らの、陣地に、忍び込む。……そして、ギュンターの、首を、刎ね、それを、奴らの、目の前に、晒してやる。……そうすれば、いくら、王国の、正規軍とて、戦意を、保つことは、できめえ」
それは、あまりにも、原始的で、そして、あまりにも、獣らしい、発想。
だが、その、心理的な、効果は、絶大かもしれない。
「……フン。……悪くは、ないな」
ドゥーリンもまた、その、作戦に、同意した。
「……だが、それだけでは、足りん。……わしからも、一つ、提案が、ある。……奴らが、撤退を、始めると、言うのなら、その、帰り道に、地獄を、用意してやるまでよ。……わしと、小僧の、あの、『魔導爆薬』。あれを、奴らの、退路に、無数に、仕掛けておく。……追撃は、せん。ただ、奴らが、二度と、この土地に、足を踏み入れたいと、思わなくなるほどの、恐怖を、その、骨の髄まで、刻み込んでやる」
破壊と、恐怖による、支配。
それもまた、一つの、有効な、手だった。
次々と、出される、仲間たちの、意見。
それらは、ケイの、それのように、洗練されてはいないかもしれない。
だが、そこには、それぞれの、種族の、長年の、経験と、知恵が、詰まっていた。
ケイは、その、全ての、意見を、黙って、聞いていた。
そして、彼の、脳内で、それらの、バラバラだった、アイデアが、一つの、恐るべき、そして、完璧な、作戦へと、統合されていく。
(……そうだ。……僕が、見落としていたのは、それだ。……完璧な、システムだけでは、勝てない。……そこに、予測不能な、人間の、……いや、獣の、『感情』という、変数を、組み込んでこそ、……真の、勝利が、ある)
ケイは、ゆっくりと、顔を上げた。
その、青い瞳には、もはや、迷いの、色は、なかった。
そこにあるのは、仲間たちの、知恵と、勇気を、一つの、刃へと、昇華させる、覚悟を、決めた、真の、リーダーの、光だけだった。
「……分かった。……君たちの、意見を、取り入れ、最後の、作戦を、立案する」
彼は、静かに、宣言した。
「――プロジェクト名、『獅子の、葬送』。……これより、最終、ブリーフィングを、開始する」
その、静かな、しかし、力強い、宣言。
それは、この、長い、長い、戦争の、終わりを、告げる、始まりの、鐘の音だった。
最後まで、お読みいただき、誠に、ありがとうございました!
アークシティ、防衛戦、初日。
その、傷だらけの、勝利の、夜。
一人で、悩みを、抱え込んでいた、ケイを、救ったのは、やはり、仲間たちの、温かい、そして、頼もしい、言葉でした。
そして、彼らの、知恵と、勇気が、融合し、ついに、この、戦争を、終わらせるための、最後の、作戦が、生まれようとしています。
いよいよ、この、独立戦争の、最終局面。
ケイが、立案した、『獅子の、葬送』作戦。
その、驚くべき、全貌とは。
どうぞ、ご期待ください。
「面白い!」「仲間との絆、熱い!」「最後の作戦、気になる!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での、評価を、お願いいたします。皆様の、一票が、アークシティの、未来を、創ります!
次回もどうぞ、お楽しみに。




