第111節: 陽動と攪乱:予測不能のアルゴリズム
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本年最後の、更新と、なります。
アークシティの、独立戦争。その、初日の、攻防も、いよいよ、最終局面に、差し掛かってまいりました。
前回、ガロウ率いる、精鋭部隊の、奇襲によって、混乱の、極みに、陥った、王国軍。
その、好機を、見逃さず、我らが、リーダー、ケイは、あまりにも、大胆不敵な、次なる、一手を、放ちました。
『城門を、開けろ』。
その、狂気の沙汰とも、思える、命令の、真意とは。
どうぞ、その、衝撃の、結末を、ご覧ください。
「――城門を、開けろ」
ケイの、その、あまりにも、静かで、そして、あまりにも、常識外れの命令。
それは、司令塔の、無線魔道具を通して、城門の、防衛を、指揮していた、ドゥーリン・ストーンハンマーの、耳に、届いた。
ドゥーリンは、一瞬、自分の、耳を、疑った。
「……なんだと、小僧。……今、何と、言った?」
『聞こえなかったか、ドゥーリン殿。……城門を、開けるんだ。……今、すぐに』
その、声は、どこまでも、冷静で、そして、一切の、揺らぎもなかった。
「……貴様、正気か!?」
ドゥーリンは、思わず、怒鳴り返した。
「門の、外には、まだ、数百の、敵兵が、うろついておるのだぞ!
今、門を、開ければ、奴らが、一気に、なだれ込んでくる!
エリアーデの、嬢ちゃんの、結界も、もう、ないのだぞ!」
その、あまりにも、真っ当な、反論。
だが、ケイの、答えは、簡潔だった。
『……分かっている。……だから、開けるんだ。……これは、僕の、作戦だ。……僕を、信じろ』
その、静かな、しかし、絶対的な、自信に、満ちた、言葉。
ドゥーリンは、ぐっと、言葉に詰まった。
彼は、この、数ヶ月で、嫌というほど、学んでいた。
この、人間の、小僧の、その、狂気の沙汰としか思えない、発想が、常に、自分たちの、想像を、遥かに、超える、結果を、もたらしてきたことを。
彼は、大きく、息を吐くと、その、白い髭の奥で、ニヤリと、笑った。
「……フン。……面白い。……乗ってやろうではないか、小僧の、その、ふざけた、博打に。……だが、もし、失敗して、わしの、最高傑作である、この門に、傷一つでも、つけてみろ。……その時は、承知せんぞ」
彼は、そう言うと、傍らに控えていた、弟子たちに、号令した。
「聞いたな、小僧ども!
大将の、ご命令だ!
この、忌々しい、門を、開けてやれ!
そして、……その、向こう側で、腰を抜かすであろう、人間の、豚どもに、ドワーフの、本当の、喧騒を、見せつけてやれ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
巨大な、鋼鉄の、歯車が、軋む、重い音。
アークシティの、中央城門。
あれほど、王国軍の、猛攻に、耐え続けた、鉄壁の、守りが、今、自らの、意志で、ゆっくりと、その、口を、開いていく。
その、信じられない、光景を、目の当たりにした、王国軍の、兵士たちは、一瞬、何が、起こったのか、理解できなかった。
罠だ。
誰もが、そう思った。
だが、開かれた、城門の、その、暗い、向こう側からは、何も、出てこない。
ただ、不気味な、静寂だけが、広がっていた。
「……な、なんだ……?」
「降伏か……?」
「いや、待て!
これは、罠だ!
近づくな!」
混乱。
そして、疑心暗鬼。
ガロウの、奇襲によって、彼らの、心に、植え付けられた、恐怖の、種が、今、見事に、その、芽を、出していた。
だが、その、混乱を、打ち破ったのは、後方からの、騎士団長の、怒声だった。
「うろたえるなッ!
敵は、もはや、戦う、意志を、失ったのだ!
これは、我らの、勝利だ!
突撃ィッ!
あの、門を、制圧し、敵の、首魁を、引きずり出せ!」
その、あまりにも、愚かな、しかし、兵士たちの、士気を、高めるには、十分な、命令。
我に返った、兵士たちが、最後の、力を、振り絞り、開かれた、城門へと、殺到した。
「「「うおおおおおおおおっ!!!!」」」
数百の、兵士たちが、一つの、巨大な、濁流となって、城門の、暗い、通路へと、吸い込まれていく。
彼らは、まだ、気づいていない。
自分たちが、今、足を踏み入れようとしている場所が、ただの、通路などではなく。
一人の、天才、プロジェクトマネージャーによって、設計された、完璧な、殺戮の、ための、罠であった、ということを。
兵士たちが、通路の、半分ほどまで、侵入した、その、瞬間。
彼らの、頭上で、そして、足元で、何かが、作動する、音が、した。
ガコンッ!
という、重い、金属音。
次の瞬間。
彼らが、通ってきた、入り口と、そして、これから、向かうはずだった、出口。
その、両方が、同時に、上から、落ちてきた、巨大な、鋼鉄の、格子によって、完全に、封鎖された。
「な、なんだと!?」
「閉じ込められた!」
通路は、一瞬にして、袋の鼠と化した、兵士たちの、絶望の、悲鳴に、包まれた。
そして、その、悲鳴に、とどめを、刺すかのように。
通路の、天井に、無数に、開けられていた、小さな、穴から、どろりとした、黒い、液体が、雨のように、降り注いできた。
それは、油だった。
「ひ、火を、消せ!
松明を、消すんだ!」
誰かが、叫んだ。
だが、遅い。
通路の、奥から、一本の、炎の矢が、放たれた。
そして、通路は、一つの、巨大な、火葬炉と化した。
その、地獄絵図を、城壁の、上から、冷たい、瞳で、見下ろしながら。
ケイは、静かに、呟いた。
「……チェックメイトだ」
◆
その夜。
アークシティの、城壁の、外で、野営を、続けていた、王国軍の、残存兵力は、もはや、五百を、切っていた。
彼らは、もはや、戦う、気力さえ、失っていた。
総大将は、死に、補給は、断たれ、そして、仲間たちは、目の前で、生きたまま、焼き殺された。
その、あまりにも、衝撃的な、敗北。
彼らの、心は、完全に、折れていた。
ギュンター辺境伯の、副官であった、騎士団長は、苦渋の、決断を下した。
「……撤退、する。……夜明けと、共に、全軍、ロックウェルへと、帰還する」
その、屈辱的な、命令に、異を、唱える者は、誰もいなかった。
こうして、アークシティの、独立を、賭けた、最初の、防衛戦。
その、初日の、攻防は、アークシティ側の、圧倒的な、勝利で、幕を、閉じた。
だが、その、勝利の、代償は、決して、小さくは、なかった。
司令塔の、作戦司令室。
ケイは、机の上に、広げられた、一枚の、レポートを、険しい、表情で、見つめていた。
それは、ルナリアが、提出した、魔術部の、被害報告書だった。
『――魔術部、最高責任者、エリアーデ・ウィンドソング。……過度の、魔力行使により、魔力回路に、深刻な、ダメージ。……全治、一ヶ月。……当分の間、絶対安静を、要す』
「…………」
ケイは、無言だった。
彼の、脳内では、今日の、戦闘ログが、何度も、リフレインされていた。
エリアーデの、自己犠牲的な、防御がなければ、あの、暗黒物質弾は、防げなかった。
彼女の、奮戦がなければ、城門は、もっと、早くに、破られていたかもしれない。
この、勝利は、彼女の、その、細い、肩の上に、成り立っていたのだ。
(……僕の、設計ミスだ)
彼は、唇を、噛み締めた。
(……僕は、個人の、能力に、依存しすぎる、脆弱な、システムを、作ってしまった。……これでは、前世の、デスマー-チと、同じじゃないか……)
長期戦は、不利だ。
それは、敵だけでなく、味方にとっても、同じこと。
この、戦争を、早く、終わらせなければ、いずれ、また、同じ、悲劇が、繰り返される。
ケイは、静かに、立ち上がった。
そして、彼は、窓の外、未だ、混乱の、中に、ある、敵の、陣地を、その、青い瞳で、じっと、見据えた。
彼の、脳内では、既に、次なる、一手。
この、戦争を、終わらせるための、最後の一手が、構築され始めていた。
それは、あまりにも、大胆で、そして、あまりにも、危険な、賭けだった。
最後までお読みいただき、そして、本年、一年、この物語に、お付き合いいただき、誠に、ありがとうございました!
アークシティ、防衛戦、初日。
ケイの、神の如き、采配の、前に、王国軍は、為す術もなく、敗れ去りました。
感動的な、勝利。
だが、その、裏側で、エリアーデは、深く、傷つき、そして、ケイは、自らの、戦略の、脆さを、痛感します。
ついに、この、戦争を、終わらせるための、ケイの、最後の大博打が、描かれます。
どうぞ、ご期待ください。




