第106節: 警告という名の宣戦布告
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
アークシティの、存亡を賭けた、独立戦争。ついに、両軍が、対峙しました。
前回、圧倒的な、軍勢を、率いて、アークシティを、包囲した、ギュンター辺境伯。
彼は、勝利を、確信し、最後の、慈悲と称して、降伏勧告の、使者を、送ります。
今回は、その、あまりにも、傲慢な、要求に対し、我らが、リーダー、ケイが、いかにして、返答するのか。
彼の、予想の、斜め上をいく、驚くべき、一手。
どうぞ、お楽しみください。
夜の、静寂は、嘘のようだった。
アークシティを、包囲する、リオニス王国軍の、陣地は、数千の、松明の光と、兵士たちの、下品な、笑い声、そして、明日、始まる、一方的な、虐殺の、宴を、前にした、高揚感に、満ち溢れていた。
彼らにとって、この、戦いは、もはや、戦いですらなかった。
ただの、功績稼ぎの、ための、狩り。
相手は、言葉を話すだけの、獣。何の、抵抗もできずに、蹂躙され、命乞いをし、そして、死んでいく、哀れな、獲物。
誰もが、そう、信じて、疑わなかった。
その、あまりにも、楽観的な、空気の中で。
ギュンター辺境伯が、放った、降伏勧告の、使者が、アークシティの、城門の前へと、たどり着いた。
使者を、務めるのは、辺境伯の、側近である、一人の、尊大な、騎士だった。
彼は、馬上から、固く閉ざされた、城門を、見上げ、腹の底からの、大音声で、叫んだ。
「聞け、城内の、愚かな、獣共よ!
我が主、ギュンター・フォン・ロックウェル辺境伯閣下より、貴様らに、最後の、慈悲が、与えられた!
今すぐ、その、指導者である、人間の、ガキの首を、差し出し、全ての、武装を、放棄し、城門を、開け放て!
さすれば、貴様らの、女子供の、命だけは、助けてやらんでも、ない!
返答の、猶予は、ない!
今、この場で、決断せよ!」
その、あまりにも、一方的で、そして、侮辱に満ちた、最後通牒。
城壁の上の、狼獣人たちの、喉の奥から、グルルル、という、殺意の、唸り声が、漏れる。
だが、彼らは、動かない。
全ては、大将の、指示を、待つ。
やがて、城壁の上の、一番高い、中央見張り台から、一つの、静かな、声が、響き渡った。
それは、拡声器の、魔法でも、かかっているかのように、不思議なほど、クリアに、騎士の、耳へと、届いた。
「――使者殿。ご苦労」
声の主は、ケイ・フジワラだった。
「……その、寛大なる、ご提案、確かに、承った。……だが、あいにく、我々は、その、いずれの、選択肢も、選ぶ、つもりはない」
その、あまりにも、穏やかな、しかし、絶対的な、拒絶の、言葉。
騎士は、一瞬、自分の、耳を疑った。
「……な、なんだと……?
貴様、正気か!
我が、王国の、千の、大軍を、前にして、まだ、そのような、戯言を……!」
「戯言ではない。事実だ」
ケイの、声は、変わらなかった。
「そして、我々からも、一つ、貴殿の、主君に、返答が、ある。……言葉での、返答ではない。……我々の、流儀に、則った、返答だ」
「……流儀、だと……?」
騎士が、訝しげに、眉をひそめた、その、瞬間。
ヒュオッ!
という、鋭い、風切り音。
次の、瞬間。
騎士の、目の前、数センチの、地面に、一つの、巨大な、石が、突き刺さっていた。
いや、それは、ただの、石ではなかった。
それは、黒曜石を、磨き上げて作られた、巨大な、石板だった。
その、鏡のように、滑らかな、表面には、大陸共通語で、一つの、短い、しかし、強烈な、メッセージが、刻み込まれていた。
『――これより、先、一歩たりとも、踏み入ることを、禁ず。この、警告を、無視する者は、我が、アークシティの、敵とみなし、その、生命の、保証は、しない』
そして、その、文章の、下には。
この、都市の、新しい、紋章。
多種族の、融和を、象徴する、円環の、印が、誇らしげに、刻まれていた。
騎士は、呆然と、その、石板を、見つめた。
なんだ、これは。
どこから、飛んできた?
投石器か?
馬鹿な。投石器で、これほど、正確に、狙いすまして、撃ち込めるわけが……。
彼の、混乱に、とどめを、刺すかのように。
城壁の上の、声が、続いた。
その、声には、初めて、氷のような、冷たさが、宿っていた。
「――それが、我々の、返答だ。……そして、警告でもある。……我々は、君たちの、その、鉄のおもちゃを、いつでも、好きな時に、破壊できる。……そのことを、その、豚のように、肥え太った、君たちの、主人に、よく、伝えておけ」
「き、貴様ァ……!」
騎士が、怒りに、震え、剣の、柄に、手をかけた、その時。
ヒュオッ!
ヒュオッ!
ヒュオッ!
連続する、風切り音。
彼の、周囲の、地面に、次々と、同じ、石板が、突き刺さっていく。
一本は、彼の、愛馬の、鼻先、数ミリ。
一本は、彼の、掲げていた、王国の、旗竿を、へし折り。
そして、最後の一本は、彼の、兜の、飾りの、羽根を、綺麗に、切り裂いて、飛んでいった。
その、どれもが、彼の、命を、奪うことなく、しかし、彼の、戦意と、プライドを、完全に、粉砕するには、十分すぎるほどの、神業のような、精密射撃だった。
騎士は、もはや、声も、出なかった。
彼の、全身から、血の気が、引き、ただ、わなわなと、震えることしか、できなかった。
これは、警告ではない。
これは、処刑の、予告だ。
自分たちは、いつでも、お前たちの、命を、奪えるのだ、と。
その、圧倒的な、技術の差を、力の差を、これでもか、というほど、見せつけられたのだ。
「……分かったら、とっとと、失せろ」
城壁の上の、声は、もはや、彼に、興味を、失っていた。
「……我々の、忍耐にも、限界がある」
騎士は、悲鳴を、上げると、馬首を返し、文字通り、這うようにして、自軍の、陣地へと、逃げ帰っていった。
その、哀れな、敗走の、姿。
それを、見届けた、アークシティの、城壁の上で、狼獣人たちの、腹の底からの、哄笑が、爆発した。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!!」」」
その、歓声は、もはや、ただの、嘲笑ではない。
自分たちの、リーダーが、自分たちの、技術が、あの、傲慢な、王国の、騎士を、完全に、打ち負かしたのだという、絶対的な、勝利の、確信に、満ち溢れていた。
士気は、最高潮に、達していた。
その、熱狂の、中心で。
ケイは、静かに、傍らに、控えていた、ドゥーリンへと、向き直った。
「……見事な、腕前だった、ドゥーリン殿。……寸分の、狂いも、なかった」
「フン!
当たり前よ!」
ドゥーリンは、その、白い髭の奥で、満足げに、鼻を鳴らした。
彼が、この、数日間で、改良に、改良を重ねた、最新鋭の、投石器。その、性能は、彼の、想像さえも、超えていた。
「……小僧の、あの、気味の悪い、計算と、わしの、神業が、合わされば、ハエの、眉間を、射抜くことさえ、造作も、ないわい」
その、二人の、恐るべき、天才の、会話。
それを、聞いていた、ガロウは、改めて、自らの、大将の、恐ろしさに、身を、震わせた。
言葉で、返すのではない。
圧倒的な、技術力で、相手の、心を、折る。
これこそが、アークシティの、戦い方なのだ、と。
その、報せは、すぐに、ギュンター辺境伯の、元へと、届けられた。
彼は、激昂した。
そして、その、全ての、プライドを、粉々に、砕かれた、怒りのままに、彼は、叫んだ。
「――総攻撃だッ!!!!
夜明けを、待つな!
今すぐ、あの、忌々しい、石垣を、粉々に、砕け散らせろッ!!!!」
ついに、獅子の、牙が、剥かれた。
アークシティの、運命を、左右する、最初の、そして、最大の、戦いの、火蓋が、今、切られようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ケイの、あまりにも、痛快な、返答でしたね。
言葉ではなく、圧倒的な、技術力で、相手の、心を、折る。
まさに、アークシティの、流儀。
ドワーフ爺様の、投石器も、大活躍でした。
さて、ついに、業を煮やした、辺境伯が、総攻撃を、開始します。
次回、いよいよ、アークシティの、防衛システムが、その、真価を、発揮します。
圧倒的な、数の、暴力を、前にして、彼らは、故郷を、守り抜くことが、できるのでしょうか。
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次回もどうぞ、お楽しみに。




