第104節: 多種族混成軍:魂のチューニング
いつもお読みいただき、ありがとうございます。クリスマスイブの夜に、戦の物語をお届けするのも、何かの縁かもしれません。
アークシティの、存亡を賭けた、独立戦争。その、準備が、着々と、進んでいます。
前回、ケイの、知識と、ドゥーリンの、技術によって、生み出された、必殺の、遠距離兵器、『クロスボウ』。
ハードウェアの、準備は、整いました。
今回は、その、ハードウェアを、動かす、最も、重要な、ソフトウェア――『兵士』たちの、物語。
我らが、ガロウの、熱い、魂が、炸裂します。
それでは、第百四話、お楽しみください。
アークシティの、南地区。
都市の、城壁の、内側に、新しく、設けられた、広大な、訓練場。
そこには、これまでに、この大陸の、誰も、見たことのない、異様な、軍隊が、集結していた。
筋骨隆々の、狼獣人。
岩塊のような、身体を持つ、ドワーフ。
風のように、しなやかな、エルフ。
そして、身軽な、猫獣人や、まだ、ぎこちない、蜥蜴人たち。
その、数、およそ、三百。
種族も、文化も、そして、得意とする、戦い方も、全く、異なる、者たち。
寄せ集め。
烏合の衆。
普通に、考えれば、そう、断じられても、仕方のない、アンバランスな、集団。
それが、アークシティが、王国正規軍、千の、大軍に、対抗するために、かき集めることのできた、全戦力だった。
その、頼りない、軍勢の、前に、一人の、巨大な、狼獣人が、仁王立ちになっていた。
ガロウ・アイアンファング。
アークシティ軍、最高司令官。
彼の、その、傷だらけの顔には、普段の、豪快な、笑みは、なかった。
そこにあるのは、自らの、部下の、命を、預かる、指揮官としての、鋼のような、覚悟と、そして、この、バラバラな、駒たちを、どうやって、一つの、軍隊へと、まとめ上げるのか、という、深い、苦悩の色だった。
「――いいか、てめえら!」
ガロウの、雷鳴のような、声が、訓練場に、響き渡る。
「今日から、てめえらは、ただの、村人じゃねえ!
この、アークシティを、守る、誇り高き、戦士だ!
種族なぞ、クソ食らえだ!
肌の色が、違おうが、耳の、形が、違おうが、関係ねえ!
この、都市を、守るという、同じ、魂を、持つならば、てめえらは、皆、俺の、兄弟だ!」
その、あまりにも、熱く、そして、あまりにも、真っ直ぐな、魂の、叫び。
だが、その、言葉だけでは、この、根深い、相互不信の、壁を、打ち破ることは、できなかった。
ドワーフたちは、身軽な、エルフたちの、戦い方を、軽薄だと、見下し。
エルフたちは、猪突猛進な、獣人たちの、戦い方を、野蛮だと、侮蔑している。
彼らは、まだ、本当の、意味での、「仲間」には、なりきれていなかった。
ガロウは、それを、痛いほど、理解していた。
そして、彼は、ケイと、夜通し、語り合い、一つの、結論に、達していた。
彼らを、一つの、軍隊に、する方法。
それは、言葉ではない。
ただ、ひたすらに、互いの、血と、汗を、流し合い、そして、互いの、限界の、その先を、共に、見ること。
それしか、ないと。
「――これより、実戦形式の、合同訓練を、開始する!」
ガロウの、非情な、宣言。
「赤組と、白組に、分かれろ!
武器は、訓練用の、木製だ!
だが、手加減は、一切、無用!
相手を、殺す気で、打ち込め!
骨の、一本や、二本、折れたところで、ルナリア様が、すぐに、治してくださるわ!」
その、あまりにも、スパルタな、訓練方針。
だが、それは、ケイが、承認した、最も、合理的で、そして、最も、効率的な、チームビルディングの、手法でもあった。
システムの、チューニングは、実際に、高負荷を、かけてみなければ、その、真の、性能は、分からない。
そして、地獄の、合同訓練が、始まった。
それは、もはや、訓練というよりも、内戦だった。
当初、同じ、種族同士で、固まろうとする、彼らを、ガロウは、容赦なく、引き裂き、強制的に、シャッフルした。
狼獣人と、エルフが、背中を、合わせる。
ドワーフと、猫獣人が、一つの、盾を、構える。
その、歪な、チームは、最初は、全く、機能しなかった。
互いの、呼吸が、合わず、連携は、バラバラ。
あちこちで、怒号と、罵声が、飛び交う。
だが、ガロウは、それを、止めなかった。
彼は、ただ、戦場の、外から、鬼の、形相で、その、混沌を、見つめていた。
そして、彼は、気づいていた。
その、混沌の、中で、いくつかの、小さな、しかし、確かな、「化学反応」が、生まれ始めていることに。
俊敏な、エルフの、射手が、敵の、注意を、引きつけ、その、隙に、屈強な、ドワーフの、戦士が、その、ウォーハンマーを、叩き込む。
狼獣人の、戦士が、その、野生の勘で、敵の、奇襲を、察知し、身軽な、猫獣人が、その、背後へと、音もなく、回り込む。
それぞれの、長所が、互いの、短所を、補い合う。
その、驚くべき、相乗効果。
彼らは、頭ではなく、その、身体で、魂で、理解し始めていたのだ。
自分、一人では、決して、勝てなかった、相手に。
仲間と、共に、戦うことで、勝てるのだ、という、絶対的な、事実を。
訓練は、三日三晩、続いた。
誰もが、泥と、汗と、そして、血に、塗れた。
だが、その、訓練が、終わった時。
そこにいたのは、もはや、ただの、寄せ集めの、烏合の衆ではなかった。
そこには、互いの、背中を、命を、預けられる、真の、「戦友」の、顔をした、三百の、鋼の、戦士たちが、立っていた。
ガロウは、その、光景を、満足げに、見つめていた。
だが、彼の、仕事は、まだ、終わらない。
彼の、本当の、仕上げは、ここからだった。
「――そして、最後に、てめえらに、新しい、オモチャを、くれてやる」
ガロウは、ニヤリと、笑うと、部下たちに、合図した。
訓練場の、隅に、置かれていた、巨大な、箱。
その、蓋が、開けられた、瞬間。
戦士たちの、目から、どよめきが、上がった。
そこに、並べられていたのは、ドゥーリンの、工房で、量産された、三百丁の、黒光りする、クロスボウだった。
ガロウは、その、一丁を、手に取ると、その、驚くべき、性能と、使い方を、実演してみせた。
そして、彼は、言った。
「こいつは、大将が、俺たちのために、作ってくれた、新しい、牙だ。こいつが、あれば、てめえら、ドワーフの、不器用な、指でも、エルフの、見習いみてえな、ひ弱な、腕でも、王国の、騎士様の、眉間を、正確に、ぶち抜くことが、できる」
その、言葉。
それは、彼らの、最後の、劣等感を、完全に、破壊した。
自分たちは、もはや、個々の、戦闘能力に、依存する、脆弱な、集団ではない。
技術と、連携によって、誰もが、英雄に、なれる、新しい、軍隊なのだ、と。
その、士気が、最高潮に、達した、その時。
訓練場の、門が、開かれ、一人の、猫獣人の、斥候が、血相を変えて、駆け込んできた。
リリナの、直属の、部下だった。
「ガロウ様!
大将に、ご報告を!」
その、切迫した、声。
「――敵、先遣隊、発見!
距離、五十キロ!
このままの、ペースで、進軍すれば、……明日、日没には、この、アークシティに、到達します!」
その、報告が、もたらしたものは、もはや、恐怖ではなかった。
訓練場の、三百の、戦士たちの、瞳に、一斉に、同じ、光が、宿った。
それは、ついに、来たか、という、歓喜と、そして、自らの、新しい、力を、試したくて、うずうずしている、獰猛な、獣の、光だった。
ガロウは、その、三百の、燃えるような、魂の、視線を、一身に、受け止めながら、静かに、そして、力強く、頷いた。
「……分かった。……大将には、俺から、伝えよう」
彼は、天を、仰いだ。
その、空は、まるで、これから、始まる、血の、祭りを、予感しているかのように、不吉な、赤い、夕焼けに、染まっていた。
「――宴の、準備は、整った、と」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに、アークシティの、多種族混成軍が、その、産声を、上げました。
ガロウの、熱い、魂の、指導の下、バラバラだった、彼らの心は、一つになりました。
そして、ついに、迫り来る、王国の、軍勢。
次回より、物語は、いよいよ、第五巻の、クライマックス、『アーク包囲網』へと、突入します。
圧倒的な、戦力差を、前にして、ケイが、どのような、驚くべき、戦術を、見せるのか。
どうぞ、ご期待ください。
「面白い!」「合同訓練、熱い!」「ついに、開戦!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での、評価を、お願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、三百の、戦士たちの、魂を、さらに、燃え上がらせます!
次回もどうぞ、お楽しみに。




