第100節: アークの総意
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
物語は、ついに、後戻りのできない、一線を、越えようとしています。
リオニス王国からの、魂を踏みにじる、侮辱に満ちた、降伏勧告。
それに対し、ケイは、「我らの、総意を、伝える」と、答えました。
今回は、その、『総意』を、決するための、物語。
アークシティの、全ての、民の、意志が、今、一つになります。
それでは、第四巻のクライマックスへと続く、第百話、お楽しみください。
アークシティ庁舎、最上階。
『最高評議会』と、名付けられた、その、円卓の議場は、これまでにないほどの、重く、張り詰めた、沈黙に、支配されていた。
窓の外では、春の、終わりの、陽光が、穏やかに、輝いている。だが、その、平和な、光景とは、裏腹に。
この、部屋の中には、今、一つの、国家の、存亡を、左右する、嵐が、吹き荒れようとしていた。
円卓を、囲むのは、この都市の、全ての、民の、代表者たち。
狼獣人族の、ガロウ。
ドワーフ族の、ドゥーリン。
エルフ族の、エリアーデ。
猫獣人族の、リリナ。
兎人族の、そして、医療の、代表である、ルナリア。
そして、新しく、住民となった、蜥蜴人や、鳥人たちの、長老たち。
その、全ての、顔が、硬く、そして、険しい。
その、円卓の、上座。
最高指導者である、ケイ・フジワラは、静かに、目を閉じていた。
彼の、脳内では、先ほどの、王国の、使者との、やり取りが、何度も、リフレインされていた。
富の、半分。
武装の、放棄。
そして、……リーダーの、引き渡し。
その、どれもが、国家としての、尊厳を、完全に、否定する、絶対的な、降伏勧告。
やがて、彼は、ゆっくりと、目を開けた。
その、青い瞳には、何の、感情も、浮かんでいない。
それは、システムに、致命的な、エラーが、発生した際に、ただ、淡々と、その、ログを、読み上げる、管理者の、瞳だった。
「――聞いた、通りだ」
ケイの、静かな、声が、議場に、響き渡る。
「リオニス王国は、我々に、三つの、道を示した。……隷属か、無力化か、あるいは、僕の、首か。……そして、その、いずれかを、選ばなければ、五千の、軍勢が、この都市を、踏み潰す、と」
彼は、そこで、一度、言葉を切った。
そして、その場の、全ての、代表者たちの、顔を、一人一人、見渡した。
「……これは、もはや、僕一人が、決断すべき、問題ではない。……この、アークシティの、未来そのものを、左右する、選択だ。……故に、僕は、君たち、民の、代表に、問う。……我々は、どの、道を、選ぶべきか」
その、あまりにも、重い、問い。
議場は、沈黙した。
誰もが、その、選択の、持つ、意味の、重さに、言葉を、失っていた。
最初に、その、沈黙を、破ったのは、意外な、人物だった。
「……ふざけるな」
その、氷のように、冷たい、声。
声の主は、エリアーデだった。
彼女の、その、美しい、エルフの顔は、普段の、冷静さを、完全に、失い、静かな、しかし、激しい、怒りに、燃えていた。
「……隷属?
武装放棄?
……彼らは、私たちに、再び、あの、暗い、森の、中で、緩やかな、死を、待てと、言うのですか?
……ケイ。あなたが、命懸けで、救ってくれた、この、光の、世界を、自らの、手で、捨てろと、言うのですか?」
彼女の、声は、震えていた。
「……私は、拒絶します。……私だけでなく、エルフの民、全てが、その、屈辱を、受け入れるくらいなら、誇り高く、戦うことを、選ぶでしょう」
その、あまりにも、気高い、宣言。
それが、引き金だった。
「……フン。……わしも、同感じゃ」
ドゥーリンが、その、白い髭を、わなわなと、震わせ、続けた。
「わしらが、魂を込めて、打った、この、鋼の、牙を、自ら、折れ、だと?
笑わせるな!
この、鋼は、我らの、誇りそのものよ!
それを、奪おうというのなら、その、喉笛に、この、槌を、叩き込むまでよ!」
「私たち、猫獣人族も、同じです!」
リリナが、その、金色の瞳を、吊り上げて、叫んだ。
「もう、二度と、人間たちの、奴隷になんて、ならない!
逃げも、隠れも、しない!
この、アークシティこそが、私たちの、故郷なんだから!」
次々と、上がる、決意の、声。
蜥蜴人も、鳥人も、そして、他の、全ての、亜人たちもまた、力強く、頷いていた。
彼らは、皆、知っていた。
この、都市が、どれほどの、奇跡の上に、成り立っているのかを。
そして、この、奇跡を、失うことが、何を、意味するのかを。
だが、ケイは、まだ、決断を、下さなかった。
彼は、ただ、一人、黙って、その、光景を、見つめている、自らの、右腕へと、視線を、向けた。
ガロウ・アイアンファング。
この、都市の、軍事の、最高責任者。
彼の、決断こそが、最も、重い。
ガロウは、静かだった。
彼は、ただ、目を閉じ、腕を組んだまま、黙想に、耽っているかのようだった。
やがて、彼は、ゆっくりと、目を開けた。
その、黄金色の瞳は、どこまでも、澄み切っていた。
彼は、ケイを、見つめ、そして、静かに、問いかけた。
「……大将。……一つだけ、聞かせてくれ」
「……なんだ、ガロウ」
「……勝てるのか?」
その、あまりにも、シンプルで、そして、あまりにも、本質的な、問い。
議場が、再び、静まり返る。
そうだ。
戦う、と、言うのは、簡単だ。
だが、相手は、五千。
こちらは、三百。
その、絶望的な、戦力差。
その、問いに、ケイは、静かに、そして、力強く、頷いた。
「ああ。……勝てる」
その、声には、一切の、迷いも、揺らぎも、なかった。
「僕の、シミュレーションでは、我々の、勝率は、七割を、超えている。……ただし、それは、我々、一人一人が、自らの、役割を、完璧に、果たし、そして、何よりも、僕たちの、この、都市の、全てを、信じ抜いた、場合の、話だ」
その、絶対的な、自信に、満ちた、言葉。
ガロウは、満足げに、頷いた。
そして、彼は、ゆっくりと、立ち上がった。
その、岩塊のような、身体から、凄まじい、闘気が、立ち上る。
彼は、その場の、全ての、代表者たちを、見渡し、そして、その、腹の、底からの、大音声で、吼えた。
「――聞いたな、てめえらッ!!!!」
その、咆哮は、庁舎全体を、揺るがした。
「大将は、勝てると、言った!
ならば、勝つんだよ!
理屈じゃねえ!
俺たちの、大将が、そう言うのなら、それが、この、世界の、新しい、理だ!」
彼は、その、巨大な拳で、自らの、胸を、力強く、叩いた。
「俺は、戦う!
この、命に、代えても、この、俺たちの、故郷を、そして、俺たちの、大将を、守り抜く!
……文句の、ある奴は、いるか!」
その、魂の、叫び。
それに、否と、答える者など、この、議場には、一人も、いなかった。
「「「異議なし!!!!」」」
代表者たちの、声が、一つになって、議場を、揺るがした。
アークの、総意は、決した。
ケイは、その、光景を、静かに、見つめていた。
そして、彼は、ゆっくりと、立ち上がった。
「……分かった。……それが、君たちの、答えだな」
彼は、庁舎の、バルコニーへと、歩みを進めた。
その、下には、この、議会の、結果を、固唾を飲んで、見守る、二百人を超える、市民たちが、集まっている。
ケイは、その、全ての、仲間たちに、聞こえるように、高らかに、宣言した。
「――聞け、アークシティの、同胞たちよ!」
「リオニス王国は、我々に、屈辱の、道を、選べと、言った!
だが、我らが、最高評議会は、今、全会一致で、その、要求を、拒絶することを、決議した!」
その、言葉に、広場から、地鳴りのような、歓声が、上がる。
「我々は、戦う!
我々の、自由と、尊厳と、そして、我らが、愛する、この、故郷を、守るために!
……我々は、決して、膝を、屈しない!」
その、力強い、宣戦布告。
市民たちの、歓声は、もはや、最高潮に、達していた。
ケイは、その、熱狂の、渦の中心で、静かに、東の、空を、見上げた。
そこには、日没の、最後の、光が、燃えるような、赤い、軌跡を、描いていた。
約束の、時間。
彼は、使者が、待つ、城門へと、静かに、歩みを進めた。
そして、その、傲慢な、騎士の、顔を、見上げ、ただ、一言だけ、告げた。
その、声は、静かだったが、その、背後にある、二百の、魂の、総意の、重みを、宿していた。
「――我々は、自由を、譲らない」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
これにて、第五巻の、大きな、山場であった、開戦前夜の、物語が、完結となります。
アークシティの、揺るぎない、総意。
それは、屈辱的な、隷属ではなく、誇り高き、独立戦争を、選ぶことでした。
ケイの、静かな、しかし、何よりも、重い、決意の言葉が、少しでも、皆様の、心に、響いていれば、幸いです。
さて、賽は、投げられました。
次回より、物語は、いよいよ、第五巻の、クライマックス、『第一次アーク防衛戦争』へと、突入します。
圧倒的な、戦力差を、前にして、ケイが、どのような、驚くべき、戦術を、見せるのか。
どうぞ、ご期待ください。
「面白い!」「アークの総意、感動した!」「ついに、開戦!」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、アークシティの、城壁を、築く、力となります!
次回もどうぞ、お楽しみに。




