第99節: 侮辱という名の要求
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
物語は、ついに、後戻りのできない、一線を、越えようとしています。
リオニス王国の、あまりにも、愚かで、貪欲な、決断。それに基づき、派遣された、一人の、使者。
彼が、アークシティに、もたらすのは、平和的な、交渉の、提案ではありません。
それは、一方的な、降伏勧告。そして、魂を、踏みにじる、侮辱でした。
それでは、第四巻のクライマックスへと続く、第九十九話、お楽しみください。
春の、終わりの、柔らかな、陽光が、アークシティの、新しい、城壁を、祝福するかのように、照らし出していた。
城壁の上では、新設された、警備隊の、若き隊長、ハクが、その、真新しい、鋼鉄の鎧に、身を包み、鋭い、黄金色の瞳で、遥か、東へと続く、街道を、見つめていた。
彼の、その、若々しい、顔には、自らが、この、理想郷の、秩序と、平和を、守るのだという、誇りと、責任感が、満ち溢れている。
その、彼の、視線の、遥か、彼方。
街道の、地平線に、一つの、黒い点が、現れた。
それは、瞬く間に、その、大きさを、増していく。
やがて、それが、一頭の、見事な、軍馬に、跨った、一人の、騎士の、姿であることが、判別できた。
騎士は、一人だった。だが、その、背後には、太陽の光を、反射して、禍々しく、輝く、一つの、旗が、はためいていた。
赤地に、黄金の、獅子。
リオニス王国の、国章。
「……来たか」
ハクは、静かに、呟いた。
彼の、脳裏に、数日前の、リーダー会議で、ケイが、語った、言葉が、蘇る。
『――敵は、来る。……だが、その、最初の、一撃は、剣では、ない。……言葉だ。我々の、魂を、屈服させようとする、傲慢な、言葉の、刃だ』
警鐘が、鳴らされる。
城門は、固く、閉ざされ、城壁の上には、ガロウ率いる、戦士たちが、弓と、クロスボウを、構え、その、到着を、待ち構えていた。
村は、一瞬にして、臨戦態勢へと、移行した。だが、そこに、ゴブリン・スタンピードの時のような、パニックは、なかった。
そこにあるのは、自らの、故郷を、自らの、手で、守り抜くのだという、静かで、そして、揺るぎない、決意だけだった。
やがて、王国の、騎士は、アークシティの、巨大な、城門の、前に、たどり着いた。
彼は、その、あまりにも、高く、そして、堅固な、石造りの、城壁を、見上げ、兜の、奥で、わずかに、息を呑んだ。辺境伯からの、報告は、決して、誇張では、なかった。いや、むしろ、控えめすぎるほどだ。
だが、彼は、すぐに、その、動揺を、顔には、出さなかった。
彼は、王国の、正規の、騎士。亜人という、獣の、集落を、前にして、怯むことなど、許されない。
彼は、その、馬上から、城壁の上の、獣人たちを、見下ろし、腹の底から、響き渡るような、大音声で、叫んだ。
「開門せよ!
我は、リオニス王国、国王、オルティウス七世陛下の、名代として、この地に、参った!
貴様ら、獣の、長に、陛下の、寛大なる、お言葉を、伝えに、来てやったぞ!」
その、あまりにも、傲慢で、そして、見下しきった、物言い。
城壁の上の、狼獣人たちの、喉の奥から、グルルル、という、威嚇の、唸り声が、漏れる。
だが、彼らは、動かなかった。
全ては、大将の、指示通りに。
やがて、城門の、小さな、覗き窓が、開かれ、そこから、ケイの、静かな、声が、響いた。
「……使者殿。ご苦労。……して、陛下の、お言葉とは、一体、どのような、ものかな?」
「フン。ようやく、出てきたか、獣の、長よ」
騎士は、鼻で、笑った。
「よく、聞け。そして、陛下の、海よりも、深い、ご慈悲に、感謝するがいい。……陛下は、貴様らに、三つの、選択肢を、与えてくださる」
彼は、その、白銀の、手甲に、包まれた、指を、一本、立てた。
「一つ!
この、分不相応な、都市の、富の、半分を、税として、王国に、献上せよ!
そうすれば、貴様らの、これまでの、無礼の、罪を、許し、王国の、庇護の下、ささやかな、自治を、認めてやらんでも、ない!」
次に、彼は、二本目の、指を、立てた。
「二つ!
その、生意気な、鋼の、牙を、全て、折り、王国に、差し出せ!
全ての、武装を、放棄し、我らが、与える、農具だけを、手に取るならば、貴様らを、王国の、従順なる、労働力として、受け入れてやろう!」
そして、最後に、彼は、三本目の、指を、立てた。
その、目は、もはや、覗き窓の、奥の、声の主ではなく、その、さらに、奥にある、この都市の、全てを、見据えているかのようだった。
「――そして、三つ!
貴様ら、獣共を、唆し、この、愚かな、反乱を、企てた、全ての、元凶!
その、人間の、ガキを、我らに、引き渡せ!
そうすれば、貴様らの、命だけは、助けてやろう!」
侮辱。
それは、もはや、交渉ではなかった。
それは、魂を、踏みにじる、絶対的な、侮辱。
城壁の、上の、空気が、爆発寸前の、魔力のように、張り詰めていく。
ガロウの、握りしめた、拳は、血が、滲むほどだった。
だが、覗き窓の、奥の、声は、変わらなかった。
どこまでも、静かで、そして、どこまでも、冷徹なまま。
「…………。……それが、陛下の、お言葉か」
「そうだ!
さあ、選べ、獣の長よ!
この、寛大なる、三つの、道の中から、貴様らの、進むべき、道を!
猶予は、日没までだ!
それまでに、返答がなければ、我が、リオニス王国の、五千の、大軍が、貴様らの、その、石積みの、おもちゃを、跡形もなく、踏み潰すことになろうぞ!」
騎士は、高らかに、笑った。
彼は、勝利を、確信していた。
亜人など、所詮、目先の、欲と、恐怖に、支配される、愚かな、獣。
この、圧倒的な、力の差を、見せつければ、仲間を、裏切り、リーダーを、売り渡し、尻尾を巻いて、降伏してくるに、違いない。
そう、信じていた。
だから、彼は、気づかなかった。
その、覗き窓の、奥の、青い瞳が、一瞬だけ、宿した、深い、深い、憐れみの、色に。
「……分かった」
声は、静かだった。
「……日没までに、我らの、『総意』を、伝えよう。……それまで、しばし、待たれよ」
その、言葉を、最後に、覗き窓は、ぴしゃり、と閉ざされた。
騎士は、満足げに、頷くと、馬首を返し、自らの、陣地へと、悠々と、引き返していった。
彼は、まだ、気づいていなかった。
自分が、今、叩いた、扉が、ただの、亜人の、集落の、門では、なかったことを。
それは、新しい、時代の、幕開けを、告げる、巨大な、歴史の、扉だった、ということを。
そして、その、扉の、向こう側で、今、一つの、国家の、揺るぎない、意志が、生まれようとしていることを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに、リオニス王国からの、最後通牒が、突きつけられました。
あまりにも、理不尽で、そして、侮辱に満ちた、三つの、要求。
これに対し、ケイは、「我らの、総意を、伝える」と、答えました。
次回、その、『総意』を、問うための、緊急の、評議会が、開かれます。
仲間を、裏切るのか。武器を、捨てるのか。それとも、戦うのか。
アークシティの、市民たちが、下す、決断とは。
物語は、いよいよ、開戦の、瞬間へと、突き進んでいきます。
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次回もどうぞ、お楽しみに。




