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第9話 日本からの手紙

日本から遠く離れた英国・イギリス。


その首都であるロンドンに国際魔法協会総本部が設置されている。


その一室にて一人の老人が書類仕事をしていた。


スーツをしっかりと着用して身だしなみを整え、黙々と書類仕事に没頭していた。


その老人こそ千歳の祖父にして世界最高峰の魔法使いである七賢聖の一人、《魔導の賢者》の称号を持つ大賢者、アルフレッド・サードラゴン。


「お疲れ様です、アルフレッド様」


アルフレッドに紅茶の入ったティーカップを静かに置いたのは若い執事だった。


「ああ、ありがとう。リチャード君」


アルフレッドに仕える執事で名はリチャード。


一流の執事で仕事が忙しいアルフレッドをサポートしている。


「今日の残りの予定は何だったかな」


「はい、一時間後に総会長との会議が入っています」


「ちっ、あいつと会議か……面倒な」


「……魔法協会総会長をあまりそのように言うのは……」


「構わないさ。何せ……今年は千歳の誕生日を祝えなかったんだからな!!」


アルフレッドは怒りでペンを握りつぶしかけており、ペンがミシミシと悲鳴を上げていた。


アルフレッドは毎年千歳の誕生日を日本で祝っていたのだが、今年は仕事があまりにも忙しく、総会長にも休ませろと直談判したのだがそれは叶わなかった。


「この退職届をあの憎たらしい顔面にぶち込みたい……!」


「全力で防御されて、退職届をその場で破り捨てられますね……」


「……もういっそのこと、クーデターを起こすか?」


「お孫様の誕生日を祝えなかったからって、クーデターを起こさないでください」


「私にとってはそれほど重要なことなのだ!」


孫である千歳のことをこよなく愛しているアルフレッドは会えないだけでも寂しいのに加え、誕生日を祝えなかったことに深い悲しみと怒りを抱いている。


このままだと本当にクーデターを起こしかねない状態で下手をしたら魔法協会創立以来の大混乱が起きてしまうかもしれない。


すると、突然アルフレッドの目線が鋭くなり、椅子から立ち上がると何処からともなく魔法の杖を召喚して構える。


「アルフレッド様?」


「何かがこちらに向かって高速で飛んできている……」


「まさか!この総本部は厳重な結界魔法で守られています。侵入できるはずが──」


次の瞬間、外から部屋の窓をすり抜けて何かが勢い良く侵入してきた。


『ギュルルー!』


床に着地したのは日本からノンストップで飛んできた竜の郵便屋さんこと、デリバリードラゴンだ。


「むっ?」


「ド、ドラゴン!?」


『ギュ?グォー!』


デリバリードラゴンはアルフレッドを見つけると、鞄から2通の手紙を取り出してアルフレッドに渡す。


「手紙……むむっ!?」


手紙の差し出し人を見てアルフレッドは目を刮目させ、体が震えていた。


「ど、どうなされましたか?」


「ここ、これは!千歳とマスタードラゴンからの手紙だ!」


「お孫様とマスタードラゴン様から!?ではこのドラゴンは……」


「君はマスタードラゴンの眷属……千歳が創ったドラゴンだね?」


『ギュギュ!』


デリバリードラゴンは「そうだよ!」と頷いて答える。


「そうかそうか。リチャード君、すぐにこの子にお茶とお菓子の用意を。ティーカップはマスタードラゴンの使っていた物を」


「は、はい!かしこまりました!」


リチャードはすぐにデリバリードラゴンの為にお茶とお菓子の用意をした。


ティーカップはマスタードラゴンがアルフレッドの元にいた時に特注で作らせたミニサイズのものである。


「日本からよく届けてくれた。すまないが、私も手紙の返信をしたいので少し待ってくれるかな?それまで好きなだけお菓子を食べててくれ」


『ギュオーン!』


デリバリードラゴンはまさかのおもてなしに嬉しそうに両手を上げて喜び、早速お茶とお菓子をいただく。


「アルフレッド様、手紙を読むのは会議が終わってからにした方が……」


「会議?そんなモノはキャンセルだ!!」


「アルフレッド様!?」


まさかの会議をキャンセルするという暴挙にリチャードは肝を冷やした。


「私には会議なんかよりも愛する千歳からの手紙の方が何よりも大切だ!マスタードラゴンは何かあったから手紙を書いたのだろう。とにかく、今日はもう仕事はしないぞ。千歳とマスタードラゴンの手紙を読み、すぐに返信の手紙を書かなければならないからな!」


「総会長に何と言えば……」


「ふぅ、仕方ない……」


流石にリチャードに会議のキャンセルを伝えて総会長に怒鳴られるのは可哀想なのでアルフレッドは部屋に備え付けてある古いタイプのレトロな電話機を使って会長室に繋げる。


「……ああ、私だ。アルフレッドだ。一時間後の会議は急用が出来て出られなくなった。あと今日の仕事はもう終わりにする。さらばだ」


ガチャ!


用件だけ伝えて電話を切り、念のために電話線も外して向こうから電話がかからないようにした。


「これでよし!」


「総会長の怒った顔が目に浮かびます……」


「襲撃してきたら追い返せばいい。さて……手紙を読もうか」


アルフレッドはまず最初に千歳の手紙から読む。


手紙の内容は封魔術式で赤ん坊の頃に命を守ってくれたことへの感謝、マスタードラゴンとの出会いにも一応感謝していること、友達の真那と一緒に秘密基地を作ったことなど近況報告。


写真もたくさん入っていて、どれも楽しそうな雰囲気のものでアルフレッドも自然と笑みを浮かべる。


「雑貨屋でこの写真を飾るフォトスタンドを買おうか」


「いくつか良さそうなのをピックアップしておきます」


「ありがとう。次はマスタードラゴンだな……ふむ」


アルフレッドの目線が鋭くなり、マスタードラゴンの手紙を読み始めると、驚きで目を見開いた。


「何だと……!?まさか、そんな……!?」


「アルフレッド様?」


アルフレッドは手紙をそのままリチャードに渡し、リチャードも手紙を一読すると驚いて口を手で抑える。


「お孫様が……そんなことになっていたとは……」


「私が10年前に千歳に刻んだ封魔術式がまさか今になって魔力操作を大きく阻害させることになるとは……」


「こればかりはアルフレッド様が直接お孫様の術式を調整しないとなりませんね……しかし、アルフレッド様は多忙の身。そうそうこの地を離れるわけには……」


出来ることなら今すぐにでもアルフレッドは日本に行って千歳の元に駆け付けたい気持ちだが、魔法協会の幹部として、七賢聖の一人としてこのイギリスの地から離れることはできない。


アルフレッドは千歳と直接会う方法を模索し、デスクに置いてある卓上カレンダーを見てある方法を思いつく。


「……リチャード君、確か日本に一度行ってみたいと言っていたね?」


「え?は、はい。確かに言いましたけど……」


「近々、君に日本に行ってもらうことになる」


「私が日本に!?」


「ああ。だが、明日からしばらく忙しくなる……色々とリスケしなければならないな。それに、総会長に文句を一切言われないように仕事に集中しなければ……!」


「おお……アルフレッド様が燃えている……!一体何をなさるおつもりで?」


「大したことはない。半分は祖父としての責務、もう半分は私の我儘だ。さて、千歳とマスタードラゴンへの手紙を急いで書かなければ」


アルフレッドはデスクの上に置かれた書類を片付け、お気に入りのレターセットを取り出して早速手紙を書き始める。


「千歳……魔力操作が上手くできなくて大変だろうが、もう少しだけ待っていてくれ……」


大賢者と呼ばれながらも不甲斐ない自分を責め、千歳への想いを手紙に込めていく。


マスタードラゴンの分の手紙も書き終わり、封筒に入れてアルフレッドを象徴するドラゴンの紋章が刻まれたシーリングスタンプで封蝋をする。


「これでよし。ドラゴン君、これを千歳とマスタードラゴンにお願いするよ」


『ギュギュ!』


デリバリードラゴンはアルフレッドから2通の手紙を預かり、郵便鞄にしまう。


「あ、そうだ。リチャード君、確か先日高級クッキーの詰め合わせを貰ったね。それをお土産に持たせよう」


「それと、こちらの焼き菓子によく会う茶葉も如何でしょうか?」


「グッド!リチャード君、素晴らしいよ。日本に帰ったら是非千歳達と味わってくれ」


『ギュオーン!』


大喜びしながら高級クッキーの詰め合わせと茶葉を郵便鞄にしまい、デリバリードラゴンは翼を広げて宙に浮く。


『グォーン!』


窓をすり抜け、何重にも張られた結界魔法すらもすり抜けて日本に向かって高速で飛ぶ。


「物体も、強力な結界魔法もすり抜け、目にも止まらぬ高速で空を駆ける、か……見事なドラゴンを作ったな、千歳」


アルフレッドは千歳の創造したデリバリードラゴンの素晴らしい能力に満足気に頷きながら見送った。




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