第4話 秘密基地を作ろう
翌日……俺とマスタードラゴンは元気なく一緒に登校していた。
合流した真那ちゃんが俺たちの様子を見て恐る恐る話しかけてきた。
「おはよう、千歳君、マスタードラゴンさん。あの……どうしたの?朝から元気が無いけど……」
真那ちゃんが挨拶してくれたお陰で少しだけ元気を取り戻して顔を上げる。
「……おはよう、真那ちゃん。実は昨日、とんでもない事をやらかして……」
『父上殿と母上殿にこっ酷く叱られて……ううっ、これでは教育係失格だ……』
「やらかしたって……二人揃って何をしたの?」
「……マスタードラゴンから魔法の授業で魔法使いの子供なら誰でも出来る簡単な魔法をやろうとしたんだけど……」
『千歳の魔力が大きすぎるのと魔力操作が下手すぎて……爆弾が爆発したみたいに部屋が吹っ飛んで滅茶苦茶になった』
「ば、爆発!?」
真那ちゃんが飛び上がるほど驚くのも無理はない。
昨日、封印された魔力を解放して早速魔法の授業として魔法使いなら誰でも使える簡単な魔法を実践でやることになった。
マスタードラゴンから最初に習った魔法……それは小さな火を灯す魔法だ。
指先に小さな火を灯す魔法で、例えるならライターで火をつけるような感じである。
呪文も簡単で「火よ」と唱えるだけで発動するはずだったのだが……自分自身の魔力の多さに気付かず、テンションが上がっていたこともあって必要以上の魔力を込めてしまった。
更にマスタードラゴン曰く、どうやら俺は魔法使いとして魔力量と同時に重要な魔力を操作するための技術である魔力操作があまりにも下手らしい。
本来なら指先に小さな火を灯すはずの魔法が魔力の大量注入によって爆発を起こしてしまった。
そのせいで俺の部屋は滅茶苦茶になり、父さんと母さんからマスタードラゴンと一緒に正座で説教を受けることになってしまった。
「部屋が爆発って……それじゃあリフォームするまで使えないね」
「あ、いや、それは大丈夫なんだ。部屋は元通りになったから」
「え?元通りに?どうして?」
「……マスター」
『まあ、真那ちゃんなら良いだろう。それに遅かれ早かれ、いずれ誰かにバレるかもしれないからな』
どうやって部屋を元通りにしたのか……その答えに対してマスタードラゴンは1枚のカードを取り出した。
それはマスタードラゴンの力を元に100に分割してドラゴンを創造する事ができる魔法のカード。
その内の1枚で爺ちゃんが創造した10枚の特別なドラゴン。
『《No.10 リセットドラゴン》。壊れたものを元通りに復元するドラゴン。このドラゴンの力で滅茶苦茶になった部屋を元通りにしたんだ』
見た目はマスタードラゴンよりも半分ほどの背丈で小さく、幼い白い竜のような姿をしている。
最初はとても可愛いドラゴンだなと思ったら、リセットドラゴンは小さな口からブレスを吹き出すと壊れた部屋が瞬く間に元に戻った。
正直……ここまですごい力を持つとは予想外だった。
リセットドラゴン以外にもまだ爺ちゃんが創ったドラゴンが9体。
しかも俺がまだ手をつけていない創造する予定のが90体も……どんなドラゴンを創造すればいいのか実はかなり悩んでいる。
「すごいんだね……マスタードラゴンさんは。それで、千歳君の魔法の授業はどうするつもりですか?」
『それが現状の問題だ……《魔法協会》には頼れないからな』
魔法協会……正式名、国際魔法協会。
全世界の魔法使いの多くが所属している国際連合に並ぶ巨大組織。
次代の魔法使いの育成、魔法の発展、世界の平和と安全維持などを目的としている。
イギリスに総本部があり、日本には日本支部という名前で都心にある。
「え?どうしてですか?千歳君のお爺様……アルフレッド・サードラゴン様は魔法協会の幹部、しかも《七賢聖》の一人だから、協力してくれるはずじゃ……」
爺ちゃんは魔法協会総本部で幹部を務めている。
もっとも、地位には拘ってないらしく、遠いイギリスの地で暮らしていて俺に会えないから早いところ隠居したいとよくぼやいている。
そして、七賢聖とは魔法協会が定めた世界最高峰の七人の魔法使いに与えられる称号のことだ。
つまり爺ちゃんは現代における世界最高の七人の魔法使いの一人ということになる。
その七賢聖の一人である爺ちゃんの孫である俺が魔法の勉強するためにコネで魔法協会に協力をお願いすることも可能ではあるのだが……。
『ここだけの話、千歳がアルフレッドがいるイギリスで魔法の勉強が出来るなら魔法協会総本部に頼ってもいいが、ここは日本だ。いくら私が側にいるとは言え、魔法協会日本支部に所属する愚か者が千歳を狙うかもしれないからな』
あくまで可能性の話だが、過去に誘拐未遂になったこともあったのでありえないとは言い切れない。
それを解決する為には早いところ俺がマスタードラゴンがいなくても自衛できるようにならなければいけない。
『だから、出来ればどこか誰にも知られない、秘密の場所があればいいのだが……』
「秘密の場所、ですか……」
「秘密の場所……」
三人で秘密の場所と呟いて考える……。
その時、ふと脳裏にあるイメージが浮かんだ。
それは先日読んだファンタジー小説に書いてあった内容。
「秘密基地……」
『何?』
「えっ?」
「秘密基地を作るのは……どうかな?」
『秘密基地だと?』
「うん、魔法の授業や練習をする場所……誰にも知らせない、俺達だけの秘密基地を作るんだ。マスタードラゴンの魔法のカードを使って、秘密基地を作れるような新しいドラゴンを創造して……」
秘密基地……子供なら一度は憧れるモノ。
自分たち以外に誰も知られたくない秘密の遊び場。
目的は魔法の授業と練習する為の場所ではあるが、秘密基地として作れたらどれほどのワクワクが得られるか想像も出来ない。
『ふはははっ!なるほど、秘密基地か!子供らしい閃き、いい感じに空想力が高まってきたな!だが、場所はどうする?流石に家だと父上殿と母上殿にバレる危険が……』
昨日やらかしたのでこれ以上父さんと母さんを怒らせるわけにはいかない。
「そ、それなら、私に良いアイディアがあります!」
真那ちゃんが挙手をして名乗りあげた。
「真那ちゃん!?」
『どんなアイディアが!?』
「私の家のコンテナハウスはいかがですか!?」
「コンテナハウス!?」
『……って、コンテナハウスとは何だ!?』
知識が豊富なマスタードラゴンもコンテナハウスまでは知らなかったようで、実物を見せる為に放課後に真那ちゃんの家に遊びに行くことになった。
放課後に真那ちゃんの家へ直行し、ランドセルを家の中に置かせてもらい、そのままコンテナハウスに向かう。
家の裏手にあったのは少し古いがしっかりとしたコンテナハウスがあり、中には家具やエアコンの設備が整っていて快適に過ごせる環境だった。
「ここは私のパパが自室代わりに使っていたのを私が貰ったの。ここを使ったらどうかな?」
「でも、いいの?せっかく真那ちゃんが貰ったものを……」
「家に自分の部屋もあるし、パパは海外で仕事をしているから大丈夫だよ」
コンテナハウスと聞いて思わずテンションが上がって来てしまったが、ふと冷静になると真那ちゃんがいくら良いと言ってもこれでは申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
『真那ちゃんよ、何か望みがあるのなら……このマスタードラゴンがどんな願いでも叶えよう』
マスタードラゴンも同じ気持ちらしく、どんな願いでも叶えてあげようとしている。
仮にも創世の竜と名乗っているのだから本当にどんな願いでも叶えそうな雰囲気だった。
「それじゃあ……私も一緒にこれから作る予定の秘密基地を使っても良いかな……?」
「え?そりゃあもちろん……」
『最初からそのつもりだが……』
場所を使わせてもらうなら当然真那ちゃんにもこれから作る予定の秘密基地に入る権利はある。
むしろこれでは願いを叶えるに入らないくらいだ。
「それなら、マスタードラゴンさん。私も千歳君と一緒に魔法の授業に参加させてくれませんか?もちろん私には魔力が無いので魔法は使えませんが、授業を聞くだけでも出来ますか?」
『それぐらいは別に構わないが……』
「真那ちゃん、どうしてそこまで……」
ここまでの話を聞いても真那ちゃんにあまりメリットがあるように思えない。
秘密基地は子供心からワクワクするかもしれないが、魔法の授業に参加したがっていることに対しては何かを求めているかもしれない。
明確な理由、答えを求めている俺とマスタードラゴンに対し、真那ちゃんは意を決したようにコンテナハウスを出て家へ何かを取りに行った。
数分後に戻ってくると使い古された1冊のノートを持ってきた。
ノートのタイトルには《ネタ帳》と書かれていて、それを俺に手渡した。
「ネタ帳……?」
『ふむふむ、これは……』
ネタ帳のノートをパラパラとめくるとそこには魔法使いや魔女、魔法や幻獣などこれまで真那ちゃんが調べてきたものや恐らく真那ちゃんが独自に考えていた魔法のアイディアなどがびっしりと書かれていた。
「私ね、将来作家になりたいんだ。小説家か絵本作家か決めてないけど……ファンタジー系の物語を書きたくて」
「ファンタジー系……」
『ほう、なるほど。ここにはファンタジーの代名詞とも言えるドラゴンと世界最高峰の魔法使いの孫の魔法少年がいる……私達を物語のネタにするつもりかな?』
真那ちゃんの本当の狙いを察したマスタードラゴンはニヤニヤと笑みを浮かべる。
なるほど、確かに俺達の存在はファンタジー系の物語を書くのに絶好のネタとも言える。
魔法の授業や色々なドラゴンを間近で見れるのなら貴重な知識と経験を得ることになる。
「えへへ、やっぱりバレちゃったね。実はもう色々と頭の中にストーリーとか考えていて。もちろん、二人が嫌なら書くつもりはないけど……」
俺とマスタードラゴンの物語か……少し恥ずかしいけど、真那ちゃんが書いてくれるなら変な物語にはならないだろうと言う妙な安心感があった。
チラッとマスタードラゴンを見ると、コクリと頷いて返事をし、どうやら同じ俺と意見みたいだった。
「俺は別に構わないよ。真那ちゃんの好きに書いてくれても」
『私も同意見だ。おっと、だが一つ条件がある。もしも真那ちゃんが物語を書けたら……私達を最初の読者にしてくれるかな?』
「は、はい!もちろんです!ちゃんと書けるか不安ですが……書けたら必ず二人を最初の読者にします!」
真那ちゃんの書く物語を楽しみだと思うと同時に俺達の存在やこれからの行動が物語の題材になるからには真那ちゃんにカッコ悪い姿を見せられないなと気合いが入る。
『さて、真那ちゃんから使用許可を貰ったこのコンテナハウス……色々弄れば秘密基地として使えるぞ!』
「使えるぞって……どうするつもり?」
コンテナハウスは確かに子供が集まったり、遊び場としては良いかもしれないが、秘密基地にするにはどうすればいいのか分からない。
『簡単な話だ、空間拡大魔法を使えばいい』
「「空間拡大魔法……???」」
一体どんな魔法なのか分からず俺と真那ちゃんは首を傾げるとマスタードラゴンの説明が始まる。
『空間拡大魔法は文字通り空間を大きく広げる魔法だ。例えば……そこにあるゴミ箱に空間拡大魔法をかければその見た目以上に大量のゴミを入れる事ができる』
空間を何倍にも広げる魔法……確かにそれがあれば秘密基地を作るのにも最適だ。
小さな入り口を潜れば中には大きな空間が広がる……まるで夢のような魔法だ。
『そう言えば……自分の車やスーツケースの中の空間を改造して家代わりとして暮らす変わり者の魔法使いもいたな』
「魔法使いのアイディア凄い……」
「無限の可能性を感じるね!」
車やスーツケースを家代わりにする……自分では思いつかない考えなので魔法使いはやっぱり空想力が必要だなと改めて感じた。
『とりあえず、すぐには秘密基地は作れないから、まずはどんな理想の秘密基地にしたいかみんなで意見を出し合おう』
「理想の秘密基地……ワクワクが止まらないよ」
「うんうん、ワクワクするね!」
俺とマスタードラゴンと真那ちゃんは三人で理想の秘密基地を作る為の話し合いをしていく。
どんなテーマの秘密基地を作るのか、内装や家具はどんな風にするのか……話し合うだけで時間があっという間に過ぎていく。
三人とも理想の秘密基地にテンションが上がってしまったので、話がまとまらなくなってしまったの。
仕方ないので明日以降の放課後にコンテナハウスに集まって話し合いを重ねることとなった。
マスタードラゴンからドラゴンを創造するための手順などをしっかりと教わっていき、徐々に秘密基地作成に向けて準備が整っていくのだった。
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