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第11話 イギリスからの使者

マスタードラゴンがうちに来てからなんだかんだ早くも一ヶ月以上の時間が経過し、6月になった。


少しずつ気温が暑くなっていき、夏が近づいている感じだった。


「あと一ヶ月ちょっとで夏休みか〜。今年はどんな本を読みまくろうかな〜」


『真那ちゃんは本当に本が好きだな』


「うん。夏休みはだいたい図書館とかに通って本をたくさん借りて読んでいるんだよ」


「ちなみに真那ちゃんは読書感想文は毎年賞を取るほど優秀だよ」


ちなみに俺は読書感想文は苦手で毎年苦労しているので毎年賞を取っている真那ちゃんは本当に凄いと思う。


こればかりは勉強とかですぐにどうにかなるものじゃないからな。


『そこまで来ると筋金入りだな。それなら……あの場所がおすすめだな』


「あの場所って?」


「なんかマスターのおすすめの場所とかあるの?」


『ああ。それは──むっ!?』


マスタードラゴンが答えようとした瞬間、何かを目にして驚きの表情を浮かべた。


その目線の先を辿り、そこにいたのは……。


「し、執事……?」


「髪も服装もしっかり整えられている……漫画で見るような本物……!?」


顔立ちの整った外国人と思われる人で執事の格好をしていた。


この日本に執事の格好をして歩く人がいるとは夢にも思わず驚いていると、その人はマスタードラゴンに近づくと目を軽く閉じながら綺麗な姿勢で頭を下げた。


「ご無沙汰しております、マスタードラゴン様」


『ああ、元気そうじゃないか』


どうやら執事さんとマスタードラゴンが知り合いらしい。


「マスター、知り合い?」


『知り合いと言うか……まあ、私が言わなくてもいいか』


マスタードラゴンが紹介せず、執事さんが自ら挨拶するために今度は俺と真那ちゃんに視線を向けて挨拶をする。


「お初にお目にかかります、千歳様。真那様」


「俺たちの名前を……」


「あの、あなたはどちら様ですか……?」


「私はアルフレッド・サードラゴン様ににお仕えしております、執事のリチャード・グレイマンと申します」


「爺ちゃんの執事!?」


「アルフレッド様の!?」


爺ちゃんが執事を雇っているとは初耳だったのでとても驚いたが、確かに七賢聖で忙しい爺ちゃんだから身の回りのサポートをしてくれる秘書やお手伝いさんがいても不思議では無いのですぐに納得出来た。


「はい。こんなところで立ち話もなんですし、近くの喫茶店でお茶でもどうでしょうか?」


執事さん……リチャードさんの勧めで近くの喫茶店でお茶をしながら話すことにした。


入ったのは普通の喫茶店ではなく、和菓子中心のメニューが揃った和風喫茶だ。


そこでリチャードさんはどら焼きや抹茶スイーツをこれでもかと大量に注文し、一緒に食べることになった。


『リチャードは昔から日本が好きなんだ。日本の映画やアニメを見たり、イギリスにある和食の店によく行くし、自分で和食を作ったりしていてな。日本には中々行く機会が恵まれなかったが、来れてよかったな』


「はい。日本に来れて、こんなにも美味しい和菓子を食べられて感無量です……このままイギリスに帰らずに日本に永住したいぐらいです」


『おいおい、やめてくれ。そんなことになったらアルフレッドの仕事が滞るだろ』


「ふふっ、冗談です。代わりにアルフレッド様から一週間の特別休暇をいただきました。これで日本を満喫します!」


『そいつは良かったな。それで、本題は?』


いきなりの直球でマスタードラゴンはリチャードさんにぶつけてきた。


単純にリチャードさんの日本観光が目的じゃないのは薄々察していた。


わざわざ執事服のままで俺たちに会いに来たのだから恐らくは俺関係で用があるのだろう。


「流石に露骨すぎましたか……それなら話は早いですね。アルフレッド様からの千歳様と真那様への伝言を預かっております」


「爺ちゃんの?」


「え?私も?」


俺だけではなく真那ちゃんにも伝言があるなんて……爺ちゃんが何を考えているのか予想できないのでリチャードさんの話をしっかりと聞く。


「はい。単刀直入に申します。千歳様、真那様。今年の夏休みにイギリスに来ませんか?」


「…………イギリス!?」


「イギリスって、ヨーロッパのあのイギリス!?英国の!?」


「はい。そのイギリスです。8月の1日から10日間、日本を離れてイギリスで優雅な休暇はいかがですか?」


イギリス10日間の優雅な休暇……あまりにも唐突な提案に頭の思考回路がぐちゃぐちゃになるほどの衝撃だった。


一方、ほうじ茶を飲みながら冷静な態度のマスタードラゴンは爺ちゃんの考えを推測する。


『なるほどな、千歳の封魔術式の調整をするためにアルフレッドが日本に来るんじゃなくて、逆に千歳をイギリスに呼ぼうっていう逆転の発想だな』


「はい。それに加えてせっかくなので、祖父と孫、家族水入らずでイギリスの観光名所や魔法界の施設などを一緒に回りたいと……」


『アルフレッドらしいな。ついでに魔法少年となった千歳に魔法界の本場であるイギリスの空気を体験してもらおうってことか』


「愛する孫に楽しい思い出と良い経験になれば嬉しい……アルフレッド様はそう仰ってました」


『相変わらずの孫大好きジジイだな。それで、千歳はどうする?』


「もちろん行くよ」


俺としてはイギリスには行ったことがないし、爺ちゃんに会いたいのでイギリス旅行に行くつもりだ。


『よし、千歳は良いとして……』


マスタードラゴンは俺から真那ちゃんに視線を向けた。


「え、あの、ええっと……」


真那ちゃんは未だにどうして自分もイギリス旅行にお呼ばれしているのか分からずに困惑していた。


友達の祖父とはいえ、世界にその名を轟かせている七賢聖の一人から直々にイギリス旅行に参加しないかと言われればそりゃあ困惑するのは当たり前だ。


『リチャード、真那ちゃんにちゃんと説明してくれ』


「はい。アルフレッド様は千歳様とマスタードラゴン様からの手紙を読み、真那様に感謝しております』


「私に、感謝?」


「千歳様の友人として仲良く一緒に時を過ごしてくれていること、千歳様の封魔術式の不具合の発見。アルフレッド様はとても感謝しておられます。是非とも一度お会いしたいと感謝の気持ちも込めてイギリス旅行に誘ったのです」


「は、はい……?」


イマイチ内容に納得出来ないのか曖昧な返事をする真那ちゃん。


真那ちゃんも一緒なら嬉しいけど、真那ちゃん自身の気持ちもあるので無理矢理誘うことも出来ない。


流石にこのままじゃまともに返事が出来ないと察したマスタードラゴンはある提案をする。


『……《天空図書城》』


「え?」


『イギリスの観光名所と魔法界の施設を行く予定なら、天空城は外せないよな〜。天空城に行けるように予定を組んでもらえるようアルフレッドに頼もう』


マスタードラゴンが言った天空図書城は魔法界のことをあまり知らない俺ですら知っている有名な施設だ。


「天空図書城……確か、世界中から書籍がたくさんに集められていて、中には国宝級の貴重な本とかも保管されている世界最大の図書館で、爺ちゃんと同じ七賢聖の一人が館長兼城主をやってるって言う……」


『そうだ。私も何回か行ったことがあるが、あれは素晴らしい図書館だ。まさに、本の楽園と言っても過言ではない。是非とも真那ちゃんにオススメしたい場所だ』


マスタードラゴンが真那ちゃんにオススメしたいと言ってた場所は天空図書城のことらしい。


確かに本好きの真那ちゃんにピッタリな場所だ。


「……本当に?本当に天空図書城に行けるの?」


真那ちゃんは信じられないと言った様子でマスタードラゴンを見つめている。


『多分問題ないだろう。真那ちゃんが行きたいと希望しているならアルフレッドも最大限協力してくれるはずだ。千歳からもお願いすれば100%間違いなく行ける』


「天空図書城……俺も前にテレビで見たことあるけど、あれは確かに行く価値はあるな。真那ちゃん、俺からも爺ちゃんにお願いするよ」


真那ちゃんの為だけではなく俺自身も天空図書城には行ってみたい。


イギリスの観光名所でも上位に入るし、魔法界の重要施設でもあるので行ってみたい気持ちはかなりある。


「私……行きたい……イギリスに、天空図書城に……行きたい!絶対行きたい!」


遂に遠慮よりも行きたいという欲望が勝り、真那ちゃんもイギリス旅行の参加を決意した。


「あ、でも……ママの許可を貰わないと……」


「そのために私がいます。真那様のご両親の説得する役目を受けています」


海外旅行ともなれば保護者である両親の了解は必要だが、リチャードさんは説明だけでなく説得の仕事も爺ちゃんから請け負っていた。


こればかりは俺たちじゃ無力に近いのでリチャードさんにお願いするしか無い。


お茶と和菓子を食べ終え、リチャードさんの奢りで会計してもらった。


そのまま菓子折りの高級和菓子の詰め合わせを購入して真那ちゃんの家に向かうことになった。


真那ちゃんの家に到着すると、出迎えたのは真那ちゃんのお母さんだ。


天月那奈さん。


真那ちゃんが大人になった感じの綺麗な女性で、髪型は真那ちゃんのロングと違ってショートボブにしている。


俺たちの突然の訪問に驚いていたが、リチャードさんの完璧な対応で落ち着いて話を聞いてくれることとなった。


「あまりにも突然のことで驚いていて……本当にうちの娘がイギリスに?」


「はい。旅費宿泊費、全てこちらが負担します。旅行中の安全は私とアルフレッド様がお守りします」


「七賢聖様が一緒なら安心ね。それに……千歳君が真那の側にいてくれるなら、更に安心出来るわ」


「え、あ、はい……」


那奈さんから突然話を振られてドキッとしてしまう。


実は那奈さんには真那ちゃんの事で絶大な信頼を置かれている。


会う度に真那ちゃんと最近どう?とか進展は?とか色々聞かれる。


あんたは自分の娘をどうしたいんだと思わずツッコミたいぐらいに那奈さんは俺の事を気に入っているのだ。


一応そんな雰囲気で真那ちゃんは無事にイギリス旅行の了解を得ることができ、次は俺の番だ。


家に帰り、母さんと父さんにリチャードさんから話を聞き、俺の封魔術式の調整のためでもあるのであっさりとイギリス旅行の了解を得られた。


こうして俺とマスタードラゴンと真那ちゃんは夏休みにイギリスに向かうことになり、無事に仕事を終えたリチャードさんはそのまま休暇を過ごすこととなった。


「千歳様、次にお会いする時は出発する前日となります」


「それって、リチャードさんが日本から一緒に来てくれるんですか?」


「はい。流石に千歳様と真那様だけで空港まで行き、手続きなど難しいと思われますので」


「助かります」


「いえいえ、執事として当然の事をしているまでです。それでは、千歳様、マスタードラゴン様、ごきげんよう」


リチャードさんは綺麗で優雅な別れの挨拶をして俺たちと別れて待望の日本での休暇を楽しみに行った。



その夜……皆が寝静まった頃、マスタードラゴンは千歳の部屋を出てリビングに入った。


テーブルにちょこんと座り、窓から見える月を眺めながら一人、物思いにふけていた。


「ようやく千歳の封魔術式をなんとかできる目処が立ったな……」


現時点での一番の問題点で不安要素でもあった千歳の封魔術式による魔力操作の阻害に関しては一ヶ月ほど先だが、イギリスでアルフレッドに調整してもらうことになったのでひとまず安心していた。


マスタードラゴンは創世の百竜を取り出し、宙に浮かせて眺める。


「これまで千歳が創造した創世の百竜のドラゴンは7体。アルフレッドが最初に創造した10体を含めて全部で17体か……」


100枚ある創世の百竜の内、17枚は創造していて残りは83枚。


「俺が千歳の元に来て1ヶ月か……」


マスタードラゴンは教育係としてアルフレッドから千歳の元に送られてから1ヶ月が経過し、この1ヶ月に起きたことを思い出していく。


「千歳への指導もそれなりに軌道に乗っているし、順調と言いたいが……」


教え子である千歳はの指導は魔力操作以外の事は問題なく進んでいる。


しかし、マスタードラゴンは妙な胸騒ぎを抱いていた。


僅かな心配性の心から来るものか、ドラゴンとしての直感なのかは不明だが、マスタードラゴンは嫌な予感を感じていた。


「……念のため、今の千歳でも使える創世の百竜の新しい術式を構築するか」


マスタードラゴンは自分の力を分割して創造した創世の百竜に新たな魔法の術式を組み込むことができる。


「イギリスに行くまでに何事も無ければ良いのだが……」


平和に暮らしている千歳に災厄が降りかからないことを祈りつつ、マスタードラゴンは密かに創世の百竜に新たな力を創造する。




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