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第10話 空への憧れ

魔法を知る子供なら絶対に一度はやったことのあること。


それは……箒に跨って空を飛ぶ真似。


いや、一応俺は仮にも魔法少年になっているからさ、試しにやってみただけなんだ。


宙に少し浮けばいいなと思っていただけなんだ。


そしたら……。







「うわぁあああああっ!高い高い高いーっ!!誰かぁあああああっ!!!」







まさか高度数百メートルまで一気に上昇するとは思わなかった。


しかもそのまま急落下し、このままだと落下死は免れない。


『何やってるんだこの馬鹿野郎が!!!』


そこに怒号を響かせたマスタードラゴンが全速力で飛んで来てくれた。


「マスター!」


『頼むぞ!《No.6 ウインドドラゴン》!」


『ギュイーン!』


マスタードラゴンの隣に薄緑色のドラゴンが現れる。


ウインドドラゴンが翼を大きく羽ばたかせると強烈な突風が吹き、落下した俺の体を風が包み込んだ。


「おっ!?」


『ウインドドラゴン、そのまま千歳を風で包んで浮かせてやるんだ』


『ギュギュ!』


ウインドドラゴンは指揮を取るように両手を振り、風を操ると落下していた俺の体を宙に浮かせた。


「わっ、わっ……!」


『……悪いがすぐに降ろすぞ』


「はい……」


宙に浮く体験を楽しむ余裕も無くそのまますぐに地上に降ろされた。


地上に降りると真那ちゃんだけでなくクラスメイトのみんな、そして先生も心配して駆け寄ってきた。


その後、俺はマスタードラゴンと先生の二人からの説教を受けていた。


そもそも、なぜこんなことになってしまったのかと言うと、始まりは学校で毎日欠かさずやっている掃除の時間だ。


今週は校舎の玄関掃除の担当で箒でゴミや砂埃を集めている時にクラスメイトの男子が思いついたように呟いた。


「やっぱり魔法使いや魔女と言えば箒で空を飛ぶイメージだよなー」


この一言により、俺が魔法使い見習いということも認知され始めているので、箒で空を飛べないかと尋ねてきた。


確かに魔法使いや魔女と言えば箒のイメージは主流というか一般的で爺ちゃんも昔は箒でよく空を飛んでいたと聞いたことはある。


思い返せば魔力を解放してから空を飛ぶということを思い浮かばなかったので実際に飛べるのかどうか気になった。


学校の箒……玄関用の竹箒で飛べるかどうか分からないが、物は試しに竹箒に跨ってみた。


少しでも宙に浮けばいいと思って魔力を竹箒に込めて軽くジャンプした瞬間……竹箒がまるで意思を持ったかのように俺を乗せたまま宙に浮いてそのまま空に向かって勢いよく飛んでいった。


制御が効かない状態で飛び、あまりの速さに竹箒から手を離してしまった。


俺の手から離れた竹箒は力を失ったように落下し、同時に俺も一緒に落下してしまったその直後にマスタードラゴンとウインドドラゴンに助けられて今に至る。


「全く、この前アルフレッドから手紙を貰ったばかりだろう。無理せず俺の言うことを聞いて魔法の練習に励めと」


「はい……」


「龍宮君。魔法のことは私にはよく分からないが、焦ってはダメだ。一つ一つ、物事を確実に覚え、しっかりと身に付けることが大切だ。千里の道も一歩からと言う。いいね?」


「はい、氷室先生……」


マスタードラゴンと一緒に厳しい言葉をかけてくれるのは氷室先生。


俺のクラスの担任で優しくも時に厳しく指導してくれる先生だ。


二人の話を聞いて今回の俺の行動はあまりにも軽率だと思った。


魔力操作が安定しない今の状態でどんなに小さな魔法でもそれを使うだけで俺自身だけでなく周りの人も巻き込んでしまう危険がある。


もしかしたら、俺は心のどこかで浮かれていたのかもしれない。


膨大な魔力を秘めていると知り、理想のドラゴンを創造する力を手に入れ、ここ数週間は普通なら体験できないような楽しい日々を過ごしていた。


こんなことじゃ、爺ちゃんをガッカリさせてしまう。


俺は今回の失敗を深く反省し、今後の行動をより一層気を付けていこうと心に誓った。


魔力操作の訓練はあまり意味ないので中止になっているので、今出来ることは……。


「マスタードラゴン、今日は魔法使いの箒と飛行について教えて!」


実技が出来ない今の俺に出来ることはとにかく魔法の知識を得ることだ。


『ほぅ、あれだけのことがあっても空への恐怖は無く、寧ろ求めるか……良いだろう、今日は予定を変更してその題目で授業を行おう』


秘密基地での魔法の授業で早速今日失敗した箒と飛行について教えてもらう。


「箒……確かにクラスのみんなも言っていたけど、魔法使いと箒ってセットみたいなイメージあるよね」


「今更だけど……なんで箒なんだ?」


あまりにもイメージが定着しているので今まで疑問に思わなかった。


『これに関しては諸説あるが、まず箒はどの家にもある掃除道具だからカモフラージュにうってつけだった』


「カモフラージュ?あ、そっか……昔は魔法使いや魔女は恐れられたり、排除されたりしていたから……」


「魔力を持たない普通の人に紛れるためってわけだね」


『箒は空を飛ぶ道具だけでなく、魔法の杖としての役割もあった。その名残から今でも箒を杖として使う魔法使いも少ないが存在する』


「「へぇ〜」」


箒が魔法の杖としての役割を持っていた話はとても面白く、驚きもあったので思わず俺と真那ちゃんは同時に感心した。


『箒で空を飛ぶ……これは現代の魔法界でも根強い人気はある。移動に車や公共機関ではなく箒を使う魔法使いは多いし、箒で空を飛んでスピードを競うレースがある。何より、イギリスには飛行用の箒の専門店もある』


「箒の専門店なんてあるの!?」


車屋やバイク屋みたいに箒の専門店があることに驚いた。


『私も一度だけ行ったことはあるが、箒の専門店と言うだけあって、商品はかなり豊富で箒に使われる素材やデザインなど多種多様だ。聞いた話だと、箒の柄とか穂先の素材や形によって飛行のスピードや操作性が大きく変わるらしい。あと、中にはオリジナルの箒を自分で作るのがいたりするな』


「俺、飛行用の箒ってみんなだいたい同じものだと思っていた……」


「なんだか、箒って魔法使いにとっての一種のファッションというか、アイデンティティみたいだね」


『まあ、それでもこだわりに興味がないのはホームセンターで買ったり、家にあるボロいのを使っているのもいるな』


「そう言うところは普通の人達と変わらないんだな……」


「車やバイクに情熱を向ける人とただの交通手段って割り切っている人みたいだね……」


魔法使いの好みや性格も普通の人達とほとんど変わらないんだなと感じた。


箒の話が終わると次は別の空を飛ぶ方法について話が始まる。


「さて、次は箒以外の飛行方法について話そう。箒を使わない魔法使いが飛行するために使う魔法は大きく分けて二つある。変身魔法と浮遊魔法だ」


「変身魔法……鳥や虫とかに変身して空を飛ぶとか……?」


「浮遊魔法は文字通り体を浮かせてそのまま飛行する魔法……ですか?」


「正解!二人とも百点満点の答えだ!だが、変身魔法と浮遊魔法は習得するのは難しく、大きなリスクがある」


「「リスク?」」


二つの魔法にどんなリスクがあるのかパッと思いつかないが、マスタードラゴンは声のトーンを少し下げて教える。


「変身魔法で鳥や虫に変身して……他の動物に食われたり、人間に駆除されたり……」


「「うわぁ……」」


「浮遊魔法は特に扱いが難しく、体全体を浮遊させるものだが、一番多い事故は体の一部だけを浮遊させて制御が効かなくなり、骨折や肉離れを起こして大怪我してしまうこともある……」


「「なるほど……」」


それ以上聞くのが怖くなるほどの大事故の一例に俺と真那ちゃんは肝が冷える思いだった。


少なくとも過去にそう言った大事故が現実に起きて何人も魔法使いが大怪我したり亡くなった……そう考えると空を飛ぶ魔法は魅力的だがそれと同時に大きな危険もあるものだと改めて実感する。


『あともう一つ。箒、変身魔法、浮遊魔法と別に魔法使いが空を飛ぶ方法……それは飛行能力を持つ幻獣に騎乗することだ』


「幻獣に乗る……」


「幻獣キター!」


幻獣が大好きな真那ちゃんはその話題が出るだけでテンションが爆上がりだった。


『ペガサス、フェニックス、グリフォン……そして、ドラゴン。翼を持ち、飛行能力を持つ幻獣の力を借りて空を飛ぶ。箒などとは違った魅力があり、憧れる魔法使いはとても多い』


真那ちゃんがわざわざ幻獣図鑑を持ってきて今紹介した飛行能力を持つ幻獣のイラストを見せる。


確かに箒とは違い、生きている生物に乗って空を飛ぶというのに憧れるのは分かる気がする。


『しかし、そもそも幻獣の数自体が魔法使いの数に比べてとても少ない。それに、幻獣は自ら選んだ魔法使いにしか懐かないから、今日教えた飛行する方法の中で一番難易度が高い』


「そんなに少ないの?」


そんな俺の疑問に幻獣大好きな真那ちゃんが答える。


「そもそも、幻獣が生まれた経緯に謎が多いからね。私達がよく知る動物が独自の進化で生まれたのか、神様か悪魔の悪戯で生み出したか、もしくは人の手で生み出されたのか……」


『真那ちゃんの説明に補足すると、後はこの世界とは異なる別の世界……《異界》から迷い込んだのもいるからな』


異界。


文字通りこの世界とは異なる世界の事を意味する。


存在することは確かなのだが、未だに謎が多くこちらから向こうにアクセスすることは出来ていない未知の世界だ。


『それでどうする?ある程度魔法界の飛行について学べたところで、飛行系のドラゴンでも作るか?』


マスタードラゴンは白紙の創世の百竜を取り出して新しいドラゴンを作るか提案する。


「……ううん。今回はやめておくよ」


一瞬迷ったけど、今のままじゃ中途半端なドラゴンしか創造出来ない気がしたので、こんな状態ではマスタードラゴンにも創世の百竜のドラゴン達にも失礼な気がした。


なので今回は保留にして時期が来たら改めて創造することにした。


『……そうか。使うタイミングは千歳に任せるよ』


「うん」


マスタードラゴンは創世の百竜をしまい、俺は空を飛ぶとしたらどんな風に飛びたいかをじっくりと考えることにした。


そのうち来るであろう……最高の体験を夢見て。




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