夢の煌めきたち
しいなここみさま主催『梅雨のじめじめ企画』………なんだけど、あまりジメッとしてません。
辛うじて何カ所かに必須ワードが入ってるくらい……。
キキキキィィィィ――――ッ!!!
耳障りでけたたましい音が辺り一面に響いた。
そちらを振り返る前に、衝撃。
ぶれる視界。
ノイズだらけの音。
見えていた光景は目まぐるしく変化し、見えていたモノは見えなくなり、聞こえていたモノは聞こえなくなった。
それから、ボクは夢を見る。
ある時のボクは探偵で、殺人犯を追っていた。
冴え渡る推理は瞬く間に犯人を探り当て、彼をあっという間に追い詰めていた。 逆上した犯人はボクに刃物を向けるが、それは一本のステッキで軽くあしらわれてしまう。
圧倒的勝利。
冷静な外面とは裏腹に、内心で狂喜乱舞するボクだが、夢はそこで切り替わってしまった。
あれから、ボクは夢を見ている。
その時のボクは復讐者だった。
家族を殺された恨みを胸に、仇を密かに追いやった。
奴の周囲から、奴の家族すらも利用して、気づかれぬ様に追い詰めた。 狩りをするかの様に、将棋を指すかの様に。
号泣しながら憎悪の視線を向ける奴を一方的にただ殺す。
復讐を遂げ、奴も、邪魔になった奴の家族も豚のエサにし、虚無感に包まれたボクだが、夢はそこで切り替わった。
もっと、ボクは夢を見続ける。
気づけばボクは救世主と呼ばれていた。
何も出来ない、名ばかりの救世主。
ボクというカリスマを利用しただけの新興宗教。
奇跡という名の権力が行使され、いなくなるのは敵対者。
歪んだ祈りで彼等は毒殺され、身内となるべく者たちのみを有料で救世する、恐怖政治にも等しいマッチポンプ。
土着の信仰も、本来あった教えも全て土に還り、残ったのは歪な宗教国家だけだ。
ふと鏡を見た時、酷く湾曲した体躯と、何より醜悪な自身の表情を見てボクは絶望する。 その絶望の中、夢は切り替わった。
ずっと、ボクは夢を見てしまっている。
何時の間にかボクはコックピットで操縦桿を握っていた。
機長であるから当然か。 航空大学を出てそこそこ長く下積みを経験し、漸く手に入れた立場である。
ひとりのCAといい仲になり、順風満帆な人生、だったのに、今後ろに立つのは拳銃を持ったハイジャック犯。
勘弁して欲しい。
何をどうしたらこんな物が持ち込めるというのか、保安課の連中に文句を言ってやりたい。
余計なことを考えていたらガツンと銃で殴られた。
何か話しかけていたらしいが、無視した形になったらしい。 だが今の感触は……?
――モデルガンじゃねーか、この野郎!
ちらりと見た銃口はストローサイズだ。
そこから始まったのは取っ組み合いの大喧嘩。
結果は両者場外。
手抜き点検だったんだろう。 フロントガラスが外れ、一気に外へ吸い出されたのだ。
浮遊感の中、夢は切り替わった。
夢だ。
全部夢だ。
最近流行の異世界転生なんかじゃない、ただの夢。
ボクは気づいている。
春も、夏も、秋も、冬も。 それらを何度も繰り返しても。
ずっとギラギラした夏の日差しが、ボクの身体を焼いている。
ずっとジメジメした夏の湿度がボクの身体に纏わり付いている。
きっと、この「夢」の始まった日から季節は変わっていないのだ。
現実はまだ時間が過ぎてはいないのだ。 ボクが夢を見始めてから。
夢の中、春の心地良い日差しの中で、ボクは燃え盛る太陽の日を浴びている。 夏の日差しを感じている。
夢の中、冬の寒さに凍える中、ボクはじっとりと肌着の纏わり付く感触を嫌悪している。 だからって、凍えてしまうことはない。 だって、ここは夢なんだから。
その日、ボクは冒険者だった。
5人の仲間と共に地下迷宮へ挑む、命知らずの冒険者。
動く屍体を、獣の頭を持つ怪物を、意思持つ煙を、それらを、それ以外の無数のモンスターを倒しては財宝を手に入れ、地上へ戻り、酒場で生きて帰れたことに祝杯を挙げる。
そんな日々を過ごす。
やがてボクらは恐るべき剣士を、狂気に染まった魔術師を、竜を倒すほどに成長した。 ボク達ならこの迷宮を制覇出来る。
明日、迷宮主を倒そうと、皆で決めた。
杯を掲げる。
決意の表情で、皆を見る。
それは前祝い……ではない。
生きる為の、生き延びる為の約束を交わし――――
夢は途切れた。
何故だ!?
これからじゃないか!?
今までの夢は全部目的は達していただろう!?
如何して今になってこんな半端にっ!?
――夏の日差しが突き刺さる。
暗闇の中、ボクの身体に突き刺さる。
続きを、続きを見せてくれっ!
なあ!
ボクは続きを見たいんだっ!!
――何時もより暑い、より暑い、ずっと暑い、とても暑い。
じっとりと肌に纏わり付いていた湿気は何処に行ったのか。
湿度なんて感じない。 ジメジメした空気なんて失われている。
ただ熱いだけの熱風。
何だ!?
暑い熱い暑い熱い!!
瞼が開く。 どうにか開く、久方ぶりの現実。
どれ程振りに開いたのか、視界は霞みはっきりしない。
ただ、その霞む視界に見えるのは赤赤赤紅朱あかアカ紅紅赤朱アカ朱朱あか朱赤紅あか――――!!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ!!!
ボクの悲鳴は届かない。
誰にも何処にも届かない。
DEADEND