第4話
2話続けて投稿します。
2メートルほどの背丈ものオーガに鋭い水の針が四方から殺到する。体格の大きさが仇となり弾幕を避けられず、身体のいたる所に水の針が突き刺さる。
凄まじいスピードで殺到した針の弾幕は、反射的に身を守ろうと構えた棍棒すら貫き、オーガを中心とした血の海をつくり出す。当然ながらオーガは絶命し、ズシンと地響きをたてながらその巨躯が倒れこむ。
えげつない弾幕によりオーガを斃した光は、本来ならば斃せたことを小躍りして喜んだだろう。だが彼女は、嬉しさと煩わしさに若干の呆れが混じったような、そんな複雑な表情をなぜか浮かべていた。
「おー。かなり威力と発動速度も上がったね。よく頑張りました!」
「...ありがとうございます。いや、たしかに能力が上達したのはありがたいですよ。」
しばらく休憩したあと、律と光は1階層のフロアボスの探索を開始していた。
ダンジョンから脱出するには、ボス部屋のフロアボスを斃して出現するゲートから帰還するしか道はない。ゲートの先は各階層のボス部屋から帰還部屋と呼ばれる場所に合流してつながっており、その帰還部屋の先にダンジョンの出口が存在する。
低階層ならば階層の地図が出回っているが、忘れっぽい律は単純に持ってき忘れて、光はどうやら持ってきたものの諸事情につき今は無いらしい。
そういった理由から、広大な階層で地図に頼らずにフロアボスを手あたり次第に探索するという、なんとも非効率的な手段を取っていた。
そんな中で、どうせ暇だからと律は光の超能力の技術向上に取り組んでいた。そう、取り組んでいたのだが...
「私がさっきから全て斃してますよね! 大川さん水球を作ってるだけじゃないですか! サボらないでください!」
「大川じゃなくて大沢な。いやいや、僕は光さんのためを思ってだな...。」
一見すると、律は我が子の成長を見守るあたたかい目をしているようだった。
「私もそろそろ疲れてきたんですけど...!!」
「まったく...なぜ僕がザコ処理をしなければならないんだ? そういったのは下っ端の役割だろう?」
しかし、その実態はやはり自由人だった。
「ホラやっぱり! 後で覚えておいてくださいね...!!」
そう言いつつも、律に頼らなければ脱出が難しいことを理解している光は、渋々といった様子で律の生成した水球を利用し敵を斃していく。そんな光に、戦闘が終わると律から労いの言葉がかけられる。
「やりとげましたね、私たち!」
普通に労うのではなく、さも自分も活躍したかのように手柄を横取りしようとする律。その労い方に、光はイライラが募っていく。
とはいえ本人は気付いていないが、律と会った当初とは大きく異なり、言葉のやり取りをしつつ気楽に階層探索ができていた。
多数のモンスターの死骸を背に歩み去る光からは、もはや最初の絶望感は消え去っていた。
◇ ◇
その後、律と光は洞窟を脱出し、うっそうとした森の中を歩いていた。ダンジョン内になぜか存在する太陽の光に照らされ、木々は鮮やかな緑色の葉を茂らせている。
「はぁ...はぁ...。な、なんでそんなに森の中を歩くのが早いんですか...? 田舎出身ですか?」
「田舎民だからって森に棲んでいるわけじゃないからね? まぁでも、なんでだろうね?」
律には自覚がないが、前世の武術の稽古で培った無理のない合理的な身体の使い方のおかげだった。
筋力に頼るのではなく、重心移動や体幹部の力を無駄なく脚に伝達することで、脚を酷使することなく疲労を最小限に抑えて移動ができる。律にとって無意識に行っている身体操作が、森を歩くのに役立っていた。
光のために休憩を繰り返しながら森を彷徨っていると、ふと男女の争う声が聞こえてきた。
「この声...まさか!! 深遠ちゃん!!」
「誰?」
「私と一緒にダンジョンに入った知り合いです! 合流しましょう!」
「いや、これ以上足手まといはいらないんだけど。」
その言葉に、光は思わずフリーズしてしまう。
「私って足手まといですか!?」
「水があればすごく有能だね。」
律による、ぐうの音も出ない正論の言葉のナイフが光を襲う。
「...と、とにかく合流しますからね! 異論は認めません!」
逃げるようにそう言い残し、光は声のする方向へと走っていった。律はため息を吐きながら、ダンジョンから出た後の報酬のことだけを考えて光の後を追うのだった。
◇ ◇
光を追ってグループに合流した律だが、まったく事情が掴めない光景に混乱していた。
無数のモンスターの死骸が散乱し、辺りに濃密な血の匂いが漂っている。そんなモンスターの死骸の中に、人間と思わしき遺体もどうやら混じっている。
悲惨な現場のそばで、なぜか三人の男性が一人の女性と言い争っている。さらに、一人の男性が我関せずといった雰囲気を漂わせて突っ立っており、もう一人の女性は言い争っている女性の背後に怯えた様子で隠れてしまっている。
そして、その隠れている女性を庇うように光が立っている。
先ほどの光の発言から、言い争っている彼女がおそらく深遠さんだろう。また、一人孤立している男性だが、どこか見覚えがある気がする。
律が状況整理に努めているのをよそに、事態は進展していく。
「夏輝が死んだのは事故だって。ありゃ仕方ないだろ。」
「正直、あそこまで弱いとは思いませんでしたね。」
「あなたたちが助けに入れば救えたじゃない! 光ちゃんだってそうやって見捨てたんでしょう!」
(なるほど。夏輝くんとやらが亡くなったのが、この言い争いの原因と。)
「そこの役立たずを介助しつつオーガと戦えってのか? 無茶言うなっての。」
「俺たちはダンジョン攻略のために協力しているだけの関係だ。足手まといがいても助ける義務はない。」
「まぁ最期に少しは役に立てて彼も満足でしょう。」
「それが能力者たちの上に立つ名家の者の姿ですか!!」
(光が一人で戦っていたのはこいつらに見捨てられたからか。)
そして、光は律だけでなくここでも足手まとい扱いされたことで落ち込んでいるようだ。そんな中で、光が生存していたことに話は移っていく。
「にしても、お前どうやって生き延びたんだぁ? 能力は使えないはずだよな?」
「それに、そのローブはどこから入手したのですか?」
「これは大阪さんからもらったものです!」
(大阪じゃなくて大沢な。地名じゃなくて、地形だよ。)
ひっそりと心の中でツッコミを入れる律。
「大阪さん? 誰だそりゃ?」
「...聞いたことが無い。」
「たまたま通りすがって、運よくゴブリンを斃しただけの無名のザコでしょう。」
「大沢さんはあなたたちよりも圧倒的に強いです! ですよね、大沢さん!」
...しかし、その呼びかけに反応は返ってこなかった。
「ヒャハハハ! その大阪さんだか大沢さんだかにも見捨てられたんじゃねぇのか!」
「ち、違います! 大沢さんには帰ったら報酬を約束しましたから、見捨てるなんてあり得ません!」
「報酬ってのはその身体で払うのかぁ? 立派なものをお持ちですからなぁ!」
「お、大沢さん! 出てきてくださいよぉ...。」
光はもはや泣きそうになっていたため、仕方なく律は潜伏をやめて姿を現すことにした。
「いやー、今ついたバカリダワー。」
「ど、どうせ楽しそうにこの状況を見ていたんでしょう!」
「お前が大沢ってヤツかぁ? 俺らよりも強ぇとかって話だが?」
「とてもそうは見えませんね。」
「身体も多少は鍛えているようだが、貧弱そのものだな。」
律がそのチンピラ紛いな喧嘩腰の言葉をやんわりと否定しようとしたとき、それまで静観していた男が驚いたように急に声をあげた。
「お、お前...!! まさか律か!? なぜここにいる!?」
「どこにいようが僕の自由でしょ。...ていうか、あんた誰?」
全く思い出せないが、やはり彼とは以前に関わりがあったらしい。