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#084 冬季特別演習:大藤与七vs早川殿『点火』

戦況:状況開始

与七軍三番隊~十番隊が前進開始


早川軍(北)100vs与七軍(南)100

「始まったわね。」


 模擬戦会場の北側本陣で、私は床几に腰掛け、白湯を飲みながら呟いた。


「陽斎殿、勘吉殿、共に事前の打ち合わせ通りに動いておいでのようです。」


 すぐ横の百ちゃんが、直立不動の体勢を崩す事無くそう言う。


「与七殿が自分から南側の本陣を取ってくれて助かったわ。昨日の顔合わせで何も仰らないようなら、こちらから申し出なければならなかったもの。」


 あんな猿芝居に騙されるとか、与七殿も純朴な坊っちゃんである。まあ最初からどうにかして南側を押し付ける積もりだったけど。

 練兵場の改造…じゃなかった、『手入れ』段階から組み込んだあれやこれやを活かせないまま模擬戦が終わるのは勿体無さ過ぎる。




 私の目標は最低でもこの模擬戦に勝利する事。そして可能であれば、与七殿のプライドをバキボキにへし折って心の底から屈服させる事だ。

 そのために用意したのがこの練兵場(フィールド)であり、人情(コネ)報酬(カネ)で集まってくれた兵士達だ。

 先ずは短期高収入のバイトに応募してくれた江戸の町民、栗田勘吉殿以下49名。

 それから赤羽陽斎殿が小田原城下町の酒場でスカウトしまくって連れて来た足軽29名。

 そして風魔忍軍に依頼して派遣してもらった忍び20名。

 以上、合計98名に総大将(わたし)と陽斎殿を加えて百名の軍勢の完成である。

 編制は以下の通り。

 一番隊、私が直率し、江戸の町民達で構成される本陣(笑)。

 二番隊、陽斎殿が率いる足軽部隊。事実上の本陣である。

 三番~六番隊、長鑓を装備した江戸の町民。

 七番~八番隊、弓の扱いに慣れた足軽。

 九番~十番隊、風魔忍者のみで構成された特別任務部隊。

 さて布陣だが…少し変則的だ。

 本陣は北の丘の上で固定として、二番隊がすぐ南の麓。更にその左右斜め前に七番と八番の弓兵部隊、最前列は四番~六番の長鑓部隊が横一列に並ぶ。

 …ここまで読んで『三』と『九』と『十』が無いと思ったそこの貴方、ご安心を。勘吉殿が率いる三番隊と、風魔忍者で編成された九番隊、十番隊には大事な任務があるのだ。




「法螺貝が鳴った!さあお前ら始めるぞぉ!エイ、エイ、応!」

「「「「エイ、エイ、応!」」」」


 最前列から離れ、酒匂川支流の湾曲部で待機していた勘吉殿の号令で、三番隊の兵が一斉に長鑓を置いた。そして土塊に刺しっ放しになっていた両手持ちの木製シャベルに持ち替えると、凄い勢いで土を掘り崩し、川に放り込んでいく。

 普通なら土砂を投入しても水流で流されておしまいだが、投入された土砂は川底にドンドン溜まり、支流はあっという間にせき止められていく。

 …勿論これにはタネがある。

 そもそもこの支流自体、『手入れ』の際に酒匂川から水を引いて造った『水路』である。水深は浅いし、傾斜が緩いから水流も弱い。体育会系の男十人で石混じりの土砂を投入すれば、あっという間に干上がってしまう。…正確に言えば、『元に戻った』だけだが。


「よーし、こんなもんで良いだろう!さあお前ら、次行くぞ!」


 勘吉殿と三番隊の面々は長鑓を持ち直すと、水路をふさいだ土壁の上を渡って南へと駆けていく。

 その背中を見送っていると、本陣に伝令役の侍が騎乗したまま近づき、声を張り上げた。


「二番隊より申し上げます!敵の前衛がことごとくこちらへと寝返り!陽斎殿の下知に従って、南の本陣へと向かっております!」

「承知しました。陽斎殿に『お見事』とお伝えください。」

「ははっ!」


 一礼して麓へと駆け戻る騎馬武者を見送り、ぽつりと呟く。


「万事順調…過ぎてやる事が無いわね。」

「短刀の素振りでもなさっては?」


 聞き手次第では「暇なの?バカなの?死ぬの?」みたいな提案だが、想定通りに事が運べば私自身も戦う展開が待っている。

 この数日間で感覚は戻っているが…うん、準備運動と挑発を兼ねてやっておくか。


「そうね。湯吞と打掛(うちかけ)をお願い…はあ、五郎殿の戦相手も、これくらい御しやすければ良いのにね。」


 益体も無い事を言いながら差し出されたお盆に湯吞を置き、打掛(うわぎ)を脱ぐのを手伝ってもらってから木製の短刀で素振りを始める。

 目の前の『戦場』では、接敵直前に寝返った長鑓兵40名が、南の本陣に向かってじりじりと距離を詰めていた。

戦況:早川軍三番隊が工作開始

早川軍九番隊、十番隊が妨害行動を開始

与七軍六番~十番隊が早川軍に寝返り


早川軍(北)140vs与七軍(南)60

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