#071 完璧⁉スローライフ(中)
飲んで~飲まれて~飲まれて~飲んで~
飲んで~飲まれて~飲まれて~飲んで~
飲んで~飲まれて~飲ま「うるさいと思ったら壊れてるよ、このレコード」ガチャ
「紬の世話に本城御前様のお相手、大儀であった。」
日没前に温泉宿が用意した夕食を終え、割り当てられた部屋に入ってから、私は五郎殿と差し向かいで清酒を酌み交わしていた。
本城御前様は付き人ありの二人部屋、紬と竜王丸は同室で、貞春様が面倒を見ている。
私は五郎殿共々肌着同然の格好で、窓際から見える夕焼けの名残を視界の端に捉えながら、五郎殿の酒盃に徳利を傾ける。
「いえ、紬は相変わらず聞き分けの良い子で…竜王丸殿は?」
「元気が有り余っておってのう…湧湯で泳ごうとして貞春に捕まっておった。無論、その場で説いて聞かせたが…一朝一夕には改まるまいのう。」
そう言って徳利を持ち、もう一方の手を差し出す五郎殿に一瞬ためらってから、恐る恐る酒盃を渡す。すると五郎殿は満足げに笑ってから、私の酒盃に清酒を注いでくれた。
「かたじけのう存じます。上総介様に酌をさせるなど…。」
「構う事はあるまい。此度の旅もお主が銭を出してくれねば成り立たなんだ…それに、ここにいるのは儂とお主のみ。誰にはばかる事があろう。」
どこかで聞いたような…と引っかかるものを覚えた私は、昔読み書きの先生から習った話を不十分ながら思い出し、こう返した。
「『四知』の故事にいわく、天も地もご存知の事と思いますが?」
「ふむ、確かに…されど、儂に何ら恥じる所は無いからには、天地照覧も恐るるに値せぬ。」
夫が妻に酌をしても恥ずかしくない、という五郎殿の言葉に、私はニヤケそうになる頬を必死に引き締めた。
やっぱりこういう事は定期的に口に出してもらえると嬉しい…。
「それで…領民を箱根に招くという紬の案は、越庵先生の許しを得た者に限るという事で落ち着いたのであったな。」
ポツポツと瞬き始めた星空を眺めながら、五郎殿が言う。
「はい。全員を一度きり、では不平不満も出ましょうし…では誰なら良いのか、と話し合った末に、本城御前様のお言葉が頭をよぎりまして…畑仕事や加齢、病で手足や腰の節々を痛めた者が、越庵先生の診立状で必要とされた場合に限って、私が諸々の費用を用立てる。そのような筋で落ち着きました。」
私の返答に、五郎殿は少しもどかしそうな表情で頷いた。
「百姓農民がみな富裕であれば…などと考えるのは欺瞞じゃな。その百姓からの年貢や軍役、普請役なくして我らの暮らしは成り立たぬ。」
「それを知らずして政に臨むのと、知った上で政に臨むのとでは、雲泥の差があるものと存じます。…お許しを、知ったような口を利きました。」
「何を申す。昔も今も、我が家の台所を支えているのはお主ではないか。…改めて礼を言う。かたじけない。」
軽く頭を下げる五郎殿に、私は一瞬慌てた。
「そ、そんな事は…全ては上総介様に心置きなく…」
そこまで言って、失策を悟る。
そもそもどうして私達が一家そろって温泉旅行なんて吞気な事が出来るのかと言えば、五郎殿が戦場で活躍する機会を奪われているからだ。
二の句が継げないまま言葉を探した私は、話題を強引にそらす事で解決を試みた。
「…湧湯の件ですが。いずれは日の本中の百姓農民が、物見遊山を楽しみ、時を忘れて湧湯に浸れる泰平の世が参りましょう。徳川三河守(家康)殿の手によって…。」
「ほう、徳川がこの乱世を収めると…お主はそう見るか。」
うっかり漏らした史実知識に対して、思った以上に五郎殿の食いつきが良かったため驚いていると、やや身を乗り出していた五郎殿は誤魔化すように笑った。
「いや、済まぬ…斯様な所で血生臭い話は無粋であったな。」
そして立ち上がると、部屋の中央に敷かれた布団に胡坐をかき、私に向かって手招きをする。
「湧湯の熱が酒でぶり返して来てのう…添い寝をして鎮めてくれぬか。」
どくん、と心臓が高鳴ったような気がする。
生唾を飲んで立ち上がり、ふらふらと布団に近付くと、五郎殿の両腕が獲物を捕らえるカマキリのように私を絡め取り、あっという間に組み敷いた。
「美しい…何時にも増して…。」
熱に浮かされたように呟きながら覆い被さる五郎殿に、身を任せる。
『本当にこのままでいいのか』――心の奥底から聞こえる声に、聞こえない振りをしながら。
キング・クリムゾンッ‼
『結果』だけが残る‼
ていうか残れ‼
一般に公開出来なくなる‼




