#066 アウトローズ=メモワール(中)
※わかる人にだけわかる残念なお知らせ
本編には超強力なレーザー兵器も、超大型の爆撃機も、ダムの底に隠されたICBMも出てきません。
あの頃の俺は、腕が多少立つだけの青二才だった。人を斬り、兵を動かして…それで世を動かす事が出来ていると、信じて疑わなかった。
…だから加賀の一向衆の誘いに乗った。『越中の百姓を暗君の重税から解き放つ』…そんなお題目を頭から信じ込んで。
もし御仏のお導きなんてものが本当にあるとしたら…『あいつ』が足軽衆の大将、俺が副将になった事くらい、かな。
…勿論不服だったさ、初陣で『あいつ』の技量を知るまでは、な。
融通無碍、神算鬼謀…型に囚われない、それでいて無駄のない見事な采配…古の将帥の生まれ変わりを疑ったさ。
一度だけ聞いた事がある。どうして迷いも躊躇いも無く、最善の手を打ち続けられるのか、と…『あいつ』は驚いていたよ。
『前払いでもらった銭と、務めを果たしてもらう銭のために、毎度毎度必死で采配を振るっているだけだ。最善の手を打った覚えなんて、一度も無い』…妬むより先に呆れたね。
いずれにせよ…俺達はまあまあ反りが合った。
『あいつ』が一手を率いて正面から攻め、残りの兵を率いる俺が頃合いを見計らって横槍を入れる、てな具合に…勿論その逆もあった。
大名方もなりふり構わず、他国の足軽衆を雇って差し向けて来る…その中に、『渡鴉』を旗印にした一団があった。
…『鴉の陣』には肝が冷えた。俺と『あいつ』が二人きりになった隙を八人がかりで襲われて…流石に死を覚悟したよ。
でも『あいつ』は諦めなかった。俺を励ましながら切れ目なく降りかかる太刀筋をかわして、かわして、かわして…いつの間にか形勢は逆転してた。
『渡鴉』の一団を見たのはそれっきりだ…へえ、親父殿に言われて廻国修行してたのか…いい修行になっただろう?
まあとにかく、俺達は負け知らずで…大名の本城も攻め落とせるんじゃないかって、仲間内で噂してた。
その矢先さ、一向衆の頭目連中が大名と和睦したのは。
…莫迦だったんだよ、俺は。生臭坊主だって海千山千、お題目のために銭を費やすよりも、侍との取引に応じた方が割が良かった…。
だが本当に莫迦なのはその後だ。
俺は…俺は、一向衆の中でも和睦に反対していた連中の話に乗った。
強風の日に辺り一面の田畑を焼き払えば…領民は年貢を納められなくなり、一向衆に加わるしかなくなる。そうして一向衆の頭数を増やして、一気呵成に城を落とせばいい、と…。
俺は『あいつ』を仲間に入れようと説得を試みたが…『あいつ』は何も言わずに出ていったよ。
決行の日、俺は足軽衆の大将として、田畑を見渡せる山に陣取っていた。そこに討ち入って来たのが、『あいつ』と十人足らずの牢人だった。
近寄る足軽を片端から斬り捨て、斬り捨て…終いにゃ田畑を焼き払うための火薬を水浸しにしちまいやがった。
俺は聞いたよ、『どうして邪魔をする』ってな。『銭で雇われたからに決まってる』…それが『あいつ』の答えだった。
大名の走狗に負けやしない…そう意気込んで一騎討ちに臨んだ挙句、俺は負けた。川に落ちて、流されて…川下の村人に拾われた。
氏素性も怪しい俺を、彼らは熱心に介抱してくれた。
村は貧しくともどこか浮ついた雰囲気で…俺は訊いた、何か良い事でもあったのか、と。
『戦が終わったんだ。村のみんなでかき集めた銭で雇った牢人が、戦を続けようとする連中を退治してくれた』…あの子の笑顔を、今でも憶えてる。
『あいつ』は正しかった。
俺達は何処まで行っても足軽大将…銭で人に雇われて、兵を募って、戦をする。
どんなお題目があろうと、やる事は鑓働き、城攻め、火付けに乱暴狼藉。ただ一つ選べるとしたら、『誰の』下に付くか…そういう事だったんだろう。
傷が癒える前に、俺は村を出た。礼代わりに打刀と小太刀を残して。
それ以来『あいつ』には会っていない。
本編で赤羽陽斎が『あいつ』と呼ぶ『越中の青鬼』については、特に詳細なキャラ設定はしておりません。
多分今後登場する事も無いと思います。




