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#053 元亀三年のプロローグ(前)

ぼちぼち投稿再開します。

当面は相模国小田原早川郷在住の今川一家の内情を中心にお伝えしていく事になると思います。

元亀三年(西暦1572年)正月 相模国 早川郷


 戦国時代でも月日は巡り、お正月はやって来る。平和な現代日本と大きく違う点があるとすれば…その時々の政局や戦況によって親族と会えたり会えなかったりする、という所だろうか。

 そういう観点からすれば、現状の我が家は理想的な状態と言っても過言ではないのかもしれない。なにせ私と五郎殿の夫婦を中心に、長女の(つむぎ)、長男の竜王丸(たつおうまる)、五郎殿の妹の貞春(さだはる)様と…『家族』が勢揃いしているのだから。


「斯様に穏やかな正月はいつ振りであろうのう…皆、今日はゆるりと過ごそうぞ。竜王丸、紬、よく食べて力を付けるのじゃぞ。」


 我が家の大広間にて。

 私と並んで上座を占めた五郎殿が、にこやかに語りかける。

 下座には紬と竜王丸が私達を見上げるように座っているが、竜王丸は二歳…いや、数えで三歳なので、叔母にあたる貞春様の膝の上だ。


「さあ、竜王丸殿。父上様と母上様に新年を祝うご挨拶を…。お見事にございます。ではお手を合わせて…そう、いただきます、とご挨拶を申し上げましょう。」


 半ば貞春様の操り人形のようになりながら、竜王丸はたどたどしく挨拶をする。

 しかし紬のそれは、数え六歳にしては随分と堂に入ったものだった。


「本日斯様に目出度き元旦を父上、母上とお迎え出来た事、心よりお慶び申し上げます。この紬、今川と北条の家名血筋を貶める事の無きよう、本年も研鑽に励んで参ります。」


 子供らしいあどけない声色とは全くマッチしない、いかにも大人っぽい挨拶を受けて、五郎殿は鷹揚に頷く。


「竜王丸は素直な男子(おのこ)じゃのう。貞春の言い付けをよく聞いて、健やかに育つのじゃぞ。紬、見事な挨拶であった。母に似て賢い女子(おなご)じゃと小田原のお歴々から聞いてはおったが…いや全く、驚かされた。良き女性(にょしょう)になれるよう、今後とも励むがよい。」


 私もニコニコしながら五郎殿に同意するように頷いてみせる。…何かを期待するような眼で上座――主に私の方を見上げる紬に、気付かない振りをしながら。




 その後、身内だけの食事会は和やかに進む。ある意味中心になったのは五郎殿と紬の会話だった。


「読み書き算盤(そろばん)草子(ぞうし)を読み、武芸の稽古にも励んでおるとか…花や鳥を愛でようとは思わぬか?」

「一刻も早く心身に優れた女性となり、お家の…父上と母上のお役に立ちたいと、その一心にございますれば。」

「その心意気は誠に嬉しい…されど紬よ、文武にひたすら打ち込むのみでは大成出来ぬ。折を見て花を愛で、鳥を眺め、風に触れて月に思いを馳せるがよい。読み書きの稽古に活きるであろう。」

「は…ははっ。浅慮にございました。父上、母上、どうかお許しを…。」


 やらかした、と絶望感さえ滲ませながら平身低頭する娘に対して、五郎殿はにこやかに首を横に振った。


「そう()くでない…その若さで()まず(たゆ)まず稽古に励めるとは、孝行の極みよ。焦らずに一歩一歩、積み重ねてゆけばよい。のう結…結?いかがした。」


 私の様子に不審を抱いたのか、五郎殿が気遣わし気な声を上げた。


「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません。少し…飲み過ぎてしまったやも。」

「大事無いか?少し休んで来てはどうじゃ?」

「では、お言葉に甘えて…。」


 (もも)ちゃんを伴ってそそくさと自室に向かい、布団を敷いてもらう。

 外の見張りを百ちゃんにお願いして、障子をピッタリ閉じて布団にダイブ。

 顔を掛け布団に埋めて大きく息を吸い…叫ぶ。


「いや転生者でしょ私の娘⁉」

今川氏真の長女、『紬』についての設定は大部分かなり前から決まっていました。

ただ、拙作の作品情報のキーワードに『転生者複数』を付けるかどうか迷って結局付けなかったのは、『紬』が現代日本で一般的に使われる『転生者』に該当しないからです。

あまり勿体ぶるのもつまらないので種明かしは早めに実施する予定なので、少々お待ちください。

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