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#032 戦国メンヘラ物語(後)

Aコース:じっくり人間関係を構築して、時間をかけて問題に向き合う安全確実コース

Bコース:相手の潜在能力を信じて発破をかけ、無理矢理覚醒を促す一か八かコース

「急いでるんでBで。」

「しかしお多嘉殿…左様な有り様では、いずれ(しょう)にお立場を乗っ取られるやも知れませんね。」


 あえて最悪の未来予想図を口にすると、お多嘉殿は目に見えてうろたえた。


「そ、そんな…だって、わたくしは地黄八幡(北条綱成)の娘で…。」

「子が出来ないのではどうしようもありません。庶子でも何でも、血を繋がない事には…。」


 自分がそんな立場に置かれたら嫌だな、と内心で呟いていると、お多嘉殿は勢い良く土下座した。


「お命頂戴と啖呵(たんか)を切り、尊きお方に刃を向け、色狂いと罵っておきながらこのような頼み事を申し上げるのは身勝手の極み。なれど…どうか、お知恵を賜りたく…。」


 う~ん、改めて振り返ると明らかにスリーアウト、詰みである。

 しかし氏規兄さんの事だ、『こう』なる事もある程度想定済みだったのだろう。となれば…我流でも何でもアドバイスするしか無いか。


「お多嘉殿、特技は?助五郎(氏規)殿の好きな物はご存知で?」

「特技…薙刀(なぎなた)を少々。助五郎様の好みは…舟遊びが好き、という事くらいしか…。」

「では、薙刀を極めましょう。北条随一の達人と呼ばれるまでに。それと、助五郎殿の舟遊びに付き合いましょう。」


 私の言葉にいまいちピンと来ていないのか、戸惑っている様子のお多嘉殿ににじり寄って、両手を包み込むように握る。


「助五郎殿の心を捕らえるのです。たとえ体は妾と共にあろうと、お多嘉殿の事が頭から離れない程になるまでに…しっかりと。」


 それはそれで二号さんが可哀想だな、とまだ見ぬ氏規兄さんのお妾さんに同情していると、お多嘉殿が頬を紅潮させて私の両手を握り返した。


「…早川殿、かたじけのう存じます。わたくし、天啓を得た心地にございます。」

「それは重畳…。」

「これよりは薙刀を極めるべく鍛錬を重ね、身も、心も!北条助五郎の妻に相応しい女性(にょしょう)となる所存にございます。」

「は、はい…。」

「そして…いつか早川殿に劣らぬ女性となった暁には…あ、あ、貴女様を…お、お、おねへひゃまほおひょひ…。」


 百ちゃんが盛ったクスリの影響か、興奮のせいか、お多嘉殿は目を回してひっくり返ってしまった。


「…越庵先生に診ていただきましょうか?」

「そうね。さっきの話だと、睡眠不足や食欲不振も抱えているみたいだし…越庵先生にはその辺りの調剤もお願いしておいて。私は客間に戻るわ。」


 成人女性を軽々とお姫様抱っこして医務室へ向かう百ちゃんと別れ、客間に向かう。氏規兄さんに『手間賃』を請求するために。

 …多分そこまで計算し尽くされているだろうけど。




 余談だが。

 医務室で熟睡したお多嘉殿はその後、晴れ晴れとした表情で我が家を後にした。

 そして、三崎城に戻ってからは、得意とする薙刀の鍛錬と並行して、氏規兄さんの水軍指導にも積極的に同行するようになる。

 数年後、彼女は海上に浮かぶ軍船の船べりを自在に走り回りながら薙刀を振るう達人に成長し、『三浦の夜叉御前(やしゃごぜん)』と呼ばれるに至った。

 そんな近況を嬉々として報告するお多嘉殿の手紙を読んで、私はため息と共に呟いた。


「そこまでしろとは言ってない。」


 …まあ、当人がハッピーならそれでいいんだけれども。

『三浦の夜叉御前』は完全に作者の創作です。

氏規の妻に何か自信が持てる特技を持たせたいな~と漠然と考えながら執筆していたらこうなりました。

実戦で活躍するシーンはあるかも知れないし無いかも知れません。

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