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#129 功名餓鬼、二人(中)

筆者は結構な軍事オタクで、プレイするゲームにもその傾向が反映されています。

ミッション前後にブリーフィングやデブリーフィングがあると嬉しくなっちゃうタイプです。

 模擬戦が終わってからややあって、私達は障子を閉め切った室内に移動していた。

 一応茶会の形式なので、上座から見て右手に本田平八郎忠勝殿、小栗又一忠政殿、井伊虎松殿が並び、左手に宗誾殿が座って、四人でめいめいにお茶をすすっている。

 私は隅っこでひたすらお茶を()てている、うおォン私はまるで人間…人間…あの何か高速のサービスエリアとかにある無料でお茶やお湯が出る機械…だ!


「さてお三方、返す返すも見事な立ち回りであった。」


 宗誾殿が言うと、三者三様の反応が帰ってきた。


「仰せの通り。『あの』又一殿がこれ程までに変わるとは…この平八郎、驚嘆の至りにござる。虎松殿も、今やどこに出しても恥ずかしくない武士(もののふ)となった…。」


 父親が通い先の指導者にお礼を言うトーンで忠勝殿が発言すると、忠政殿は喜色満面で深々と頷き、虎松殿は苦い顔を見せた。


「この又一、宗誾殿の教えに目を開かれた心地にござる。『心身共に健やかなる、(これ)一番槍のため。鍛錬を重ね書を読む、是一番槍のため。時勢を読み時局を捉えて陣を取る、是一番槍のため。森羅万象(しんらばんしょう)血肉と化し、会心の(とき)を以て一番槍仕るべし。』…闇雲に打ちかかるは禽獣も同然、日々己を鍛えてここぞという時に一所懸命の武働きに臨む、それこそ拙者が功を立て、徳川を盛り立てる近道に他ならぬ、と…!」

「ん、ああ、うむ…又一殿のお役に立てたのであれば、儂も鼻が高い…。」


 …これ、宗誾殿が指導した事あんまり無いな。若干戸惑ったような夫の声色で、私は何となく察しが付いた。

 忠政殿は地頭のいいバカというか、宗誾殿に勝負を挑んで返り討ちにされる度に何かしら自力でヒントを掴み、勝手に成長していった(フシ)がある。さっき忠政殿が(うた)い上げた『一番槍の心得』も、宗誾殿が口にした覚えが一切無い。

 一年半付きまとわれた意味は…いや、宗誾殿が相手だったからこそ成長出来たのだろう、きっと、多分、メイビー。


「拙者も、ご両人の指南を賜らねばどうなっていた事やら…日々の飲食が如何に大事か、武を専らとする者と言えど礼節や芸事が如何に欠かせぬか、身に染みましてございます。…にもかかわらず、この(てい)たらく…!」


 今度は自分の番、とばかりに口を開いた虎松殿が、みるみるうちに端正な顔を歪め、歯ぎしりする。行儀が悪いと言われても仕方ないが、去年の今頃を思い出すとこみ上げて来るものがある。

 あの頃の虎松殿は、食事は腹が膨れればいい、武士に必要なのは武芸のみ、と、到底名門井伊家の跡取りとは思えないような粗野なライフスタイルに染まっていた。それを身なりから、振る舞いから根気強く指導した宗誾殿の苦労を思うと涙が出そうだ。

 まあ何よりも効果的だったのは、年齢的にピークを過ぎている――もうすぐ数えで三十八歳になる――筈の宗誾殿に、伸び盛りの虎松殿が何度模擬戦を吹っかけても勝てなかった、という事実だったろう。

 宗誾殿はよく食べて、効率的に鍛え、趣味の文芸にも時間を割き、よく休み――その上で、勝つ。

 バランスもへったくれも無い食生活を続けながら非効率なトレーニングを続けていた虎松殿が――忠勝殿のように天賦の才でもあれば話は別だが――連戦連敗に心を折られ、宗誾殿の言う事を素直に聞くようになるまでに、時間はかからなかった。

 流石に実戦経験は不足しているので、場数を踏んでもらうしかないが、もう一端の武士としてデビューしても大丈夫だと、宗誾殿からお墨付きをもらっている。それだけに、今日の「昇段試験」で忠勝殿に勝てなかった事がどうしようもなく悔しいのだろう。

 ただ…宗誾殿の発言を考慮すると、恐らく…。


「何を嘆かれる、虎松殿…これにて貴殿と又一殿は、儂の指南を全て(おさ)めた事になる。来年からの徳川での奉公に備えられよ。」


 やっぱりか。

 啞然とする虎松殿の顔を見ながら、私はホッと安堵のため息を吐くのだった。

勝てば認める、とは言った。が…負ければ認めない、とは言っていない…!

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虎松:飯なぞ腹が膨れれば充分! 結:ガキが囀るな…ブチ殺すぞ? 虎松:ハイ!ゴメンナサイ! 結:あなた達には百の料理を食べて貰います。 又一:達? 百:トニオ・百・トラサルディーデス。先ずは富士山の雪…
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